目見(まみ)ほそく視力おとして感覚の樹に寄りゆかむ手ぶくろを脱ぎ
がさごそと居心地わろき音たてて稼働すねむたき春の心臓
(感覚の冬 柚木圭也)
どこまでもどこまでも分け入らむ 草 動くから 詩句に動くから
沈着しあるいはすばやく手の指がページを押ふ詩人のやうに
(麝香 Ⅳ あなたへ 西村美佐子)
主婦らしき処よりこころ逸れゆきてあまたの本の置場にまどふ
生きてゐる家を殺めて生きのびむ京のうしとら花折断層(だんそう)の上
(家を殺める 近藤かすみ)
われの茎の維管束まで染む冷気出勤前にエンジンかける
気になる人座敷に残し外に出るススメと冬の大三角形
(大三角形 澤志帆)
ラジオより坂本九のうらごゑの流れきたりぬ涙にじめり
日本酒のうまさやうやくわかるころ残念ながら晩年である
(晩年 大橋弘志)
ふた粒のひかりは床(ゆか)にこぼれをり「ゆめぴりか」とふそのゆめのつぶ
美濃は雪、飛彈も雪とぞ明日のためゆふべ尾張の牛蒡をあらふ
(ゆめのひかり 春畑茜)
芽を出さぬひとつ球根「完全に削除しましか」問はれてをりぬ
コーヒーはいつもの味だ積みし雪よごれはじめる朝を出でゆく
(明日からも 大越泉)
この年は咲きしばかりの梅が枝に何年ぶりかの大雪降れる
食べ残す蜜柑にメジロ一羽来てひそと食みいる雪の日の夕
(恋文のはじめは 橘圀臣)
************************************
短歌人4月号、春のプロムナードより。
がさごそと居心地わろき音たてて稼働すねむたき春の心臓
(感覚の冬 柚木圭也)
どこまでもどこまでも分け入らむ 草 動くから 詩句に動くから
沈着しあるいはすばやく手の指がページを押ふ詩人のやうに
(麝香 Ⅳ あなたへ 西村美佐子)
主婦らしき処よりこころ逸れゆきてあまたの本の置場にまどふ
生きてゐる家を殺めて生きのびむ京のうしとら花折断層(だんそう)の上
(家を殺める 近藤かすみ)
われの茎の維管束まで染む冷気出勤前にエンジンかける
気になる人座敷に残し外に出るススメと冬の大三角形
(大三角形 澤志帆)
ラジオより坂本九のうらごゑの流れきたりぬ涙にじめり
日本酒のうまさやうやくわかるころ残念ながら晩年である
(晩年 大橋弘志)
ふた粒のひかりは床(ゆか)にこぼれをり「ゆめぴりか」とふそのゆめのつぶ
美濃は雪、飛彈も雪とぞ明日のためゆふべ尾張の牛蒡をあらふ
(ゆめのひかり 春畑茜)
芽を出さぬひとつ球根「完全に削除しましか」問はれてをりぬ
コーヒーはいつもの味だ積みし雪よごれはじめる朝を出でゆく
(明日からも 大越泉)
この年は咲きしばかりの梅が枝に何年ぶりかの大雪降れる
食べ残す蜜柑にメジロ一羽来てひそと食みいる雪の日の夕
(恋文のはじめは 橘圀臣)
************************************
短歌人4月号、春のプロムナードより。