気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

今日の朝日歌壇

2008-01-07 22:17:29 | 朝日歌壇
おかあさんともおばあちゃんとも呼ばれない女の一生 寒夕日
(夕張市 美原凍子)

あまりにも落葉の美しき歩道にて路肩を選りて自転車を漕ぐ
(京都市 後藤正樹)

日の翳る動物園の長椅子に忘れられたる毛皮のマフラー
(東京都 松本秀三郎)

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一首目。女性として期待されがちな子を産むという役割に関わらなかった作者だろうか。結句の「寒夕日」が五音で字足らずになるのが、なんとも気にかかる。調べると、寒夕焼、冬の夕焼、冬茜、寒茜という季語はあるが、字足らずにすることに意図があるのだろうか。
二首目。素直によくわかる歌。「美しき」は「うつくしき」と読んでも「はしき」と読んでも、どちらでも良いように思う。
三首目。動物園と毛皮がいわゆる「つきすぎ」の感じもするが、面白い歌。忘れ物の動物のしっぽのようにも見えて愉快。

余談ですが、日曜日に芦屋市谷崎潤一郎記念館に行ってきました。このあたりは、村上春樹が少年時代を過ごした土地でもあり、そこにいるだけで文学の香りに触れるような一日を過ごしました。写真は、谷崎の書斎を復元した座敷だそうです。

役割で人を呼ぶこと多き世に倦みて浮かれてペンネーム持つ
(近藤かすみ)

耳の伝説

2008-01-04 00:03:38 | つれづれ
塵かすかつきたるメガネ冬の陽に見て来しもののよごれふきとる

夜のそこひに沈みゆくごと風聞けば父の巨きな耳の伝説

サイモンとガーファンクルの髪うすくなりしを見つむ夜の画面に

仰向けになりておもえりわが年齢(とし)に父はいかなる夕日を見しや

団栗の独楽ころがせば陽の底に昨夜(きぞ)の瞋(いか)りはほそき炎(ひ)となる

向日葵のかげをこえゆく三輪車君だけの道いつまでもこげ

(小高賢 耳の伝説)

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柊書房の小高賢作品集から。
作者四十歳のときの第一歌集。講談社の編集の仕事を長くしていた人で、会社での会議など、仕事の難しさを詠んだ歌にもこころ惹かれた。会社員として働いていても、家族の一員であり、目線はいつも父、母、妻、子へ注がれている。むつかしい言葉やテクニックに走ることなく、わかりやすく真っ直ぐに読む人のこころの届く歌。

会社とは男の生の何もかも奪ふ処ぞ そののち怖し
(近藤かすみ)

初心

2008-01-01 13:48:11 | きょうの一首
初心とはいつでも帰れる貌をして傍らにありてすでに帰れず
(馬場あき子 帰れず 朝日新聞新春詠)

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新しい年になりました。
あけましておめでとうございます。

今日の朝日新聞朝刊に新春詠として、朝日歌壇、俳壇の選者の競作が載っている。
この歌は、内容にまず納得させられる。常套句として「初心に返る」と言うが、その真実は「すでに帰れず」なのだ。「初心忘るべからず」の方が正確と言える。
初心を「故郷」「実家」「青春」などと入れ替えてみても一興ではなかろうか。

あらたまの朝の雑煮に白味噌を溶きてつかのま妻の顔する
(近藤かすみ)