気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

秋の果実  山下柚里子 

2009-12-25 11:29:35 | つれづれ
濡るるがに光集めて形よき伊予柑ひとつ夜の卓の主

豆腐屋の釣銭水に濡れてゐてにはかに寒し師走くもり日

話題ふと途絶えたるときシクラメンの花色佳しと又褒めくるる

執拗に叱る主任との現場終へ若きが夕べうすき笑ひす

黒ばかり纏へる人がゆつくりと秋の日傘に隠るる真昼

弔ひの読経続きてゐる間(かん)も生者は腕の時計見るなり

うす闇に覚めて聞きしは壁に架かるおかめの面の笑ひ声にや

化粧することもなく農に生きし母紅ぬりやれば唇小さし

過去を探す作業ならねど家族らの古靴捨ててすこし疲るる

盛り置ける秋の果実のそれぞれに濃き淡きあり色あたたかく

暮らし方変へてみようか壁に傾(かし)ぐおかめの面が楽しげだから

(山下柚里子 秋の果実 六花書林)

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短歌人同人の山下柚里子さんの第一歌集を読む。
山下さんは埼玉県在住で、二十年以上短歌人に在籍され歌に取り組んで来られた。その間、寺院建築の会社に勤め、娘さんの結婚、お母様の他界がある。日常を切り取って歌にすることで、人生のあれこれを宥め、乗り越えて来られたように見受ける。
四首目。職場でのトラブルの歌だろう。「若きが夕べうす笑ひす」の下句にもやもや感がよく表れている。
五首目。なんということもないのだが、雰囲気のある歌。人物観察が巧み。
六首目。死者と生者とを隔てるものとして時計を配置してうまい。
八首目。母への挽歌。この一首ですべてが語られている。
九首目。ほんとうに身につまされて納得出来る歌。私はそれさえもできないのだが。家を出て行った家族のものの処分はほんとうに疲れる。やる気もおきません・・・。
十首目。集題になった「秋の果実」はここから取られている。この歌集が山下さんの果実。秋から冬へ、春へ詠いつづけていただきたい。


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