気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

茶色い瞳  今井聡

2009-07-30 00:50:48 | つれづれ
自がことをイッヒとぞいふ独逸語の音(おん)をあやしむあやしみ忘る

心根の清きひとらに囲まれて一日(ひとひ)疼けりわが裡の澱

草食系男子ならんやとからかはれし日の夜めし屋の牛めしをくふ

顔を湯にあらひて拭ひむきあへば鏡の男茶色い瞳(め)をす

暴動のなきこの国のをかしさよ群なせど群も規範(ルール)に従きて

所有する土地なき鳥がそらをとぶことをかなしくおもふ折ある

坂道をくだりくる夜のテニスボールたかく弾みてわが傍を過ぐ

(今井聡 茶色い瞳 短歌現代八月号 短歌現代新人賞受賞作)

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奥村メール歌会の歌友、今井聡さんが第二十四回「短歌現代」新人賞を取られました。
選考委員四名全員が最高得点を入れたという文句なしの受賞。おめでとうございます。
三十首の中から、特に良いと思った作品をピックアップ、コメントさせていただきます。

一首目。大学時代にドイツ語を専攻されたのだろう。「イッヒ」を訝りながらも忘れてしまった。結句の「あやしむ」のリフレインがおもしろい。
二首目。ああこの気持ちわかると納得させられる歌。善良なひとに囲まれていると心地よさと共に、自分の澱のような悪意を感じることがある。
三首目。草食系男子という流行語をたくみに使って、実はそうじゃないぞとアピールしている。それで晩御飯は牛めし。牛丼や牛飯とすると俗になってしまうので「牛めし」と平仮名まじりにしたところに工夫あり。ほかの作品にも、漢字ひらがなカタカナの選択に充分神経が配られている。
四首目。鏡の中の自分と向き合う歌。文語調の詠いぶりのなか「茶色い」が口語だがこれも計算された「若さ」の演出だと思う。
五首目。大きな意味での時事詠。規範を「きはん」と読ませると堅すぎるので、ルールとルビをふるところにワザあり。
六首目。師匠である奥村晃作の「イヌネコと蔑(なみ)して言ふがイヌネコは一切無所有の生(せい)を完(まつた)うす」と対をなすと思われる歌。後半、ひらがなが多用されるが、「かなしく」に「愛しく」「哀しく」「悲しく」といくつもの意味をもたせて効果をあげている。個人的には「愛しく」と読みたい。
七首目。今井さんはもの静かな人で、年齢のわりに落ち付いておられる。もっと若かった学生時代からそうだったのだろう。テニスボールのように元気のいい弾けたキャラの若者を冷静に見ている眼を感じた。

ふだんから奥村晃作氏のもとで、地道に熱心に勉強されてきたことが今回の受賞という形で花開いたと思う。私などとてもまねのできないような真面目な勉強ぶりに頭が下がる。ますますのご活躍を心からお祈りします。



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