気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

夏の天球儀 中川佐和子 角川書店

2022-10-23 11:01:27 | つれづれ
長くながくかかりて選ぶ夏帽子卒寿の母に気力のわきて 

天球儀ながめておれば人間を小さく感ず夏の光に

デパートのうっすら寒き台の上(え)に袋詰めなる福らしきもの

咲くという大きな力 黄の色が喇叭水仙を浸(ひた)しはじめる

遠き葉は大きく揺れて近き葉が順のあるごと小さく揺れる

テーブルのうえの洋梨影の濃くひとつひとつが空間をうむ

こんなところに来てしまったと言う顔を海辺の猫にみておりわれは

死ののちに米のこされて食むことのあらざる母よ九十三歳

実印をシンガーミシンの抽斗に隠しし母に胸を突かれる

まやかしの言葉のようにひんやりと〈人道回廊〉ニュースに流る

(夏の天球儀 中川佐和子 角川書店)

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未来短歌会の中川佐和子の第七歌集。九十三歳で亡くなった母の思い出の歌が多い。シンガーミシンなどの銘柄が時代を反映していて懐かしい。「なぜ銃で兵士が人を撃つのかと子が問う何が起こるのか見よ」と詠った子供たちも成長しそれぞれの家庭を築く。家族の歌はもちろんのこと、デパートの福袋や植物を見て描写する確かな技術を感じる。天球儀の視線で人間を捉えるからだろう。

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