戦災あり震災ありて集められ目鼻の消えた地蔵らの立つ
朝焼けの窓あけて見るベランダに夢の続きのような鬼百合
人はみなマスクしており眼の高さを流れていった黄色い蝶々
海月ふわりふわりと浮かぶ悩まないはずがないのが人生だよと
ありふれたこの退屈が幸せというものだろう窓のそと見る
喫茶店の鏡のなかに道ありて看板の字はみんな逆向き
すれ違った男たしかに死んだはずあるいは死んでいるのは俺か
何本も赤い鳥居が立っていてくぐり抜ければ見知らぬ通り
まわるまわる輪廻の車はるかなる三千世界をわが船は行き
暗き日のにわかに雨ふるバス通りしなかったことが多い人生
(小谷博泰 三千世界を行く船 飯塚書店)
*****************************
「鱧と水仙」「白珠」所属の小谷博泰の第十六歌集。2019年2月から2022年7月までの作品を収める。読みやすい。もうこの作者の歌集を何冊も読んでいるからだろう。歌がたまると歌集を出すというスタイルの作者だが、それを出来る歌人は今や小谷博泰だけだ。死や異界を意識しながら、街をさまよう日常は続く。
朝焼けの窓あけて見るベランダに夢の続きのような鬼百合
人はみなマスクしており眼の高さを流れていった黄色い蝶々
海月ふわりふわりと浮かぶ悩まないはずがないのが人生だよと
ありふれたこの退屈が幸せというものだろう窓のそと見る
喫茶店の鏡のなかに道ありて看板の字はみんな逆向き
すれ違った男たしかに死んだはずあるいは死んでいるのは俺か
何本も赤い鳥居が立っていてくぐり抜ければ見知らぬ通り
まわるまわる輪廻の車はるかなる三千世界をわが船は行き
暗き日のにわかに雨ふるバス通りしなかったことが多い人生
(小谷博泰 三千世界を行く船 飯塚書店)
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「鱧と水仙」「白珠」所属の小谷博泰の第十六歌集。2019年2月から2022年7月までの作品を収める。読みやすい。もうこの作者の歌集を何冊も読んでいるからだろう。歌がたまると歌集を出すというスタイルの作者だが、それを出来る歌人は今や小谷博泰だけだ。死や異界を意識しながら、街をさまよう日常は続く。