夜半しづかに猫は寄り来つ生涯の終りの恋のごとき気配に
千疋屋のメロンでなければいやと言ひ美しき顔せりそれより七日
あどけなく寐ねたりしかば死にがほに通へるを見きそれより三日
シルバー券が嬉しい一人と恥づかしい一人観覧車に歳は暮れつつ
床屋さんの兎飴ん棒につながれて麗かやひと日ひくひくしてゐる
(酒井佑子 矩形の空)
************************
この歌集には、猫と死の匂いがしている。
それより七日、それより三日、の歌を読むと、胸が締め付けられるような感覚に襲われる。わたしは自分の父や母の最期をこんなに丁寧に見て来なかった。母は急死だったし、父のときはこわくて現実から逃げていた。この歌に出てくる死者はおなじ病棟のひとで他人だから、冷静なのだろうか。ほかにも挙げたい歌はいっぱいあった。床屋さんの兎の歌、なんとも自在な詠いぶり。
こうして、いろんな歌集をつぎつぎ読んで、いいなあと思ってまた次を読んでまったく飽きない。読み飛ばすような読み方をするのは、作者に失礼だし、じっくり読みたいが、また次々読みたいものが出て来る。
そう言えば、五月の第二日曜は母の日。夕方、娘から「母の日やね~」と電話があった。
人生はひと色ならず亡き母のオパールの指輪秋の陽にかざす
(近藤かすみ)
千疋屋のメロンでなければいやと言ひ美しき顔せりそれより七日
あどけなく寐ねたりしかば死にがほに通へるを見きそれより三日
シルバー券が嬉しい一人と恥づかしい一人観覧車に歳は暮れつつ
床屋さんの兎飴ん棒につながれて麗かやひと日ひくひくしてゐる
(酒井佑子 矩形の空)
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この歌集には、猫と死の匂いがしている。
それより七日、それより三日、の歌を読むと、胸が締め付けられるような感覚に襲われる。わたしは自分の父や母の最期をこんなに丁寧に見て来なかった。母は急死だったし、父のときはこわくて現実から逃げていた。この歌に出てくる死者はおなじ病棟のひとで他人だから、冷静なのだろうか。ほかにも挙げたい歌はいっぱいあった。床屋さんの兎の歌、なんとも自在な詠いぶり。
こうして、いろんな歌集をつぎつぎ読んで、いいなあと思ってまた次を読んでまったく飽きない。読み飛ばすような読み方をするのは、作者に失礼だし、じっくり読みたいが、また次々読みたいものが出て来る。
そう言えば、五月の第二日曜は母の日。夕方、娘から「母の日やね~」と電話があった。
人生はひと色ならず亡き母のオパールの指輪秋の陽にかざす
(近藤かすみ)