気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

電柱の  柏木進二 

2010-02-19 01:14:04 | つれづれ
十円のボンナイフもて鉛筆のかしこき秋の木の香を削る

理髪店はだいたいどこも清潔でラジオの鳴る場所だけが異なる

中学に通いはじめた金釦ソ連の雨に濡らしてしまう

歯科医院待合室に慎めばアサヒグラフの「わが家の夕めし」

ゴールデンアワーのプロレス中継の流血を見て老人死にき

歩きつつ笛のおさらいゆっくりと小学生は毬藻となりつ

夜の雨猫がやどりのガレージの車両の下は芙蓉の白さ

自動ドアでないんだと気づき閉めにかかる腋に襠(まち)ありツナギの男

サツマイモ片身におろし唐揚げにしてくれるんだ百円硬貨

東京のもののあわれは上野駅発ちてあさぼらけ尾久(おぐ)駅に停車す

(柏木進二 電柱の 沖積舎)

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柏木進二さんは短歌人の同人で、ごく最近まで会務委員として校正を長くして来られた方。一度、全国集会の席でお会いした記憶があるが、真面目で物静かな方だったように思う。このたび、第一歌集を上梓された。
あとがきには「文字は写真植字で自分で印字した。書体は細ゴジです。」とあり、字体にもこだわりを持って作られた歌集であると知る。
十円のボンナイフ、プロレス中継など、懐かしい昭和を思い起こさせる題材がうれしい。
六首目は、よく見る光景をとらえているが、結句の「毬藻となりつ」がなんとも恐ろしい。
八首目。「腋に襠(まち)ありツナギの男」は、よく見ていると感心した。
九首目。口語の軽い歌だが、サツマイモの唐揚げを百円で買ったということを、別の視点でとらえていて面白い。


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