気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

山鳩集 小池光 つづき

2011-06-17 22:51:31 | つれづれ
隣間(となりま)に洗濯物をたたみゐるきみのこの世の息のひそけさ

洗濯は洗濯機がするものにしてそのかたはらにわれは立つ人

嫁ぎたる子より電話きて妻のこゑ灯(とも)るがにあかるくなれるかなしも

耳元にくだ抜くなよとささやけばおもひもかけずうなづきかへす

滋賀県より琵琶湖大きいと思ふ人さあ手を上げなさい きみは手を上ぐ

「開け口」とかいてるとこから開けないとぐじやぐじやになる諸々(もろもろ)の事

誰のゐないベンチがわれを待つてゐるこのよろこびよ行くさきざきに

舌の上に切手置くとき空晴れて昭和のにほひかなしくするも

キオスクで売つてゐるなり茹卵(ゆでたまご)突発的に買ふ人のため

つかひみちなき七円切手いかにせむ泳ぐ金魚を額(ひたひ)に貼らむ

(小池光 山鳩集 砂子屋書房)

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『山鳩集』後半から、勝手に私の好きな歌をピックアップした。
いままで少なかった家族の歌に温かみを感じるが、ご本人が照れながら作っているのが見えて微笑ましい。実は違うものを作りたかったのに、こうなってしまったのかと想像する。
五首目のような「ひっかけ」に私は必ずひっかかってしまうだろう。小池さん、ひっかける人。私ひっかかる人。
八首目。「空晴れて」で場面が転換するところがうまいと思う。
どの頁を開けても、くすっと笑ってしまう歌集。ご本人を知っていれば、なおさらに。