気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

山鳩集 小池光

2011-06-12 15:32:58 | つれづれ
山門を出で来し揚羽とすれちがひ入りゆく寺に夏はふかしも

伊右衛門の胴にはつかなくびれありひとたび飲(いん)しふたたび飲(いん)す

だしぬけに箪笥のうへに舞ひ上がるこのいきものはさつきまで猫

お茶のんでだしぬけに妻が言ひしこと「勝つてふてくされる野茂がかはいい」

がたがたになりし鏡台立ちてあり「パピリオ」の壜 乳液しろく

バラストに鉄のこな散り夏のひかりただ簡浄な鉄路のわかれ

おーい列曲がつてゐる、と言ひかけて 眼(まなこ)閉ぢれば春の日はさす

牛乳を四合も飲みて青年のごとくになりぬ山の牧場(まきば)に

階段の下から三段目に夕日たまるむすめふたりが居たはずなのに

皿の上に寿司乗つて寿司にこにこと近づいてくる 人生は漫画

(小池光 山鳩集 砂子屋書房)

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小池光の第八歌集『山鳩集』が、第三回小野市詩歌文学賞を受賞。昨日、その授賞式が行われた。
受賞の挨拶の中で、「この歌集は亡くなった妻のために作ったもので、一冊でもよかったのだが、・・・」という言葉を聴き、奥様との絆がいかに強かったかを改めて知り、神妙な感動を覚えた。
この歌集の歌を作っている時期に、高校教師の仕事を退職され、奥様を看取られ、人生の転機をいくつも経験されている。
歌としては、いままでそんなになかった家族についての作品が少しずつ現れ、しみじみと読者に迫ってくる。
言葉へのこだわりは、相変わらず快調で、楽しませていただく。