気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

ゆきあひの空 石川不二子

2008-05-24 17:07:18 | つれづれ
よく撓ふのが佳き萩ぞよその萩を見てきて称(たた)ふわが白萩を

七回忌の姑(はは)夢に来て機嫌よしなぜか私も死にたくなりぬ

銀化してガラスは貴くなるものをいつまでかあらんわが歌の命

ななそぢといふ齢かな新しき死者増えふるき死者とほざかる

瘠せやせて四十五キロの夫の傍(かたへ)雌かまきりになつた気がする

嵩たかき妻に苦しみたる人か敵(かたき)とるごとく病みて耄(ほう)けぬ

(石川不二子 ゆきあひの空 不識書院)

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石川不二子の最新の歌集『ゆきあひの空』を読む。
石川不二子は、1933年神奈川県生まれ。父は新聞社の学芸部長、母もヨーロッパで二年半ほど暮らした経験があるという、インテリの家庭に育つが、
東京農工大に進学したことがきっかけで、岡山県の開拓地に入り、農業を営む。17歳から、心の花で、佐佐木信綱の弟子として歌を作りはじめる。
この歌集では、長年連れ添った夫の看病と死別を中心に、自然との触れあいや日常の食生活などが、詠われている。十年ぶりの歌集ということだが、その間、夫と姑を長い看病の末に看取って、それでも歌も農業の仕事も続けている。体格がよく、性格もおおらかで、のびのびしておられるように感じた。しかし内面に繊細な感性がないと、歌は作れない。豪胆と繊細という相反する性質を持っておられることが、魅力かと思う。
特に五首目の雌かまきりの歌には、泣かされた。