よく撓ふのが佳き萩ぞよその萩を見てきて称(たた)ふわが白萩を
七回忌の姑(はは)夢に来て機嫌よしなぜか私も死にたくなりぬ
銀化してガラスは貴くなるものをいつまでかあらんわが歌の命
ななそぢといふ齢かな新しき死者増えふるき死者とほざかる
瘠せやせて四十五キロの夫の傍(かたへ)雌かまきりになつた気がする
嵩たかき妻に苦しみたる人か敵(かたき)とるごとく病みて耄(ほう)けぬ
(石川不二子 ゆきあひの空 不識書院)
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石川不二子の最新の歌集『ゆきあひの空』を読む。
石川不二子は、1933年神奈川県生まれ。父は新聞社の学芸部長、母もヨーロッパで二年半ほど暮らした経験があるという、インテリの家庭に育つが、
東京農工大に進学したことがきっかけで、岡山県の開拓地に入り、農業を営む。17歳から、心の花で、佐佐木信綱の弟子として歌を作りはじめる。
この歌集では、長年連れ添った夫の看病と死別を中心に、自然との触れあいや日常の食生活などが、詠われている。十年ぶりの歌集ということだが、その間、夫と姑を長い看病の末に看取って、それでも歌も農業の仕事も続けている。体格がよく、性格もおおらかで、のびのびしておられるように感じた。しかし内面に繊細な感性がないと、歌は作れない。豪胆と繊細という相反する性質を持っておられることが、魅力かと思う。
特に五首目の雌かまきりの歌には、泣かされた。
七回忌の姑(はは)夢に来て機嫌よしなぜか私も死にたくなりぬ
銀化してガラスは貴くなるものをいつまでかあらんわが歌の命
ななそぢといふ齢かな新しき死者増えふるき死者とほざかる
瘠せやせて四十五キロの夫の傍(かたへ)雌かまきりになつた気がする
嵩たかき妻に苦しみたる人か敵(かたき)とるごとく病みて耄(ほう)けぬ
(石川不二子 ゆきあひの空 不識書院)
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石川不二子の最新の歌集『ゆきあひの空』を読む。
石川不二子は、1933年神奈川県生まれ。父は新聞社の学芸部長、母もヨーロッパで二年半ほど暮らした経験があるという、インテリの家庭に育つが、
東京農工大に進学したことがきっかけで、岡山県の開拓地に入り、農業を営む。17歳から、心の花で、佐佐木信綱の弟子として歌を作りはじめる。
この歌集では、長年連れ添った夫の看病と死別を中心に、自然との触れあいや日常の食生活などが、詠われている。十年ぶりの歌集ということだが、その間、夫と姑を長い看病の末に看取って、それでも歌も農業の仕事も続けている。体格がよく、性格もおおらかで、のびのびしておられるように感じた。しかし内面に繊細な感性がないと、歌は作れない。豪胆と繊細という相反する性質を持っておられることが、魅力かと思う。
特に五首目の雌かまきりの歌には、泣かされた。
痩せやせて四十五キロの夫の傍雌かまきりになつた 気がする
この歌を目にするたびごとに思うのですが、閨秀歌人は、よくご自身のご夫君を題材にして傑作・秀作をお創りになられることがあります。この作品の、「雌かまきりになつた気がする」という下の句は、ご自身のそうした行為を反省してのご感慨ではないでしょうか。
歌人・石川不二子氏のご夫君同様、歌人・近藤かすみ氏のご夫君もまた、食われ尽くされ、「四十五キロの夫」になってしまうのではないでしょうか。もし、そうだとしても、「それはそれで本望」というものでしょう。
果て果ては四十五キロに痩せさすも好し 歌人かす みよ夫(つま)を食へ食へ
久しぶりに新記事を目にした嬉しさのあまり、少し冗談が過ぎました。お気にさわりましたら、ご削除下さい。
「一方は前衛短歌、他方は酪農従事者のリアリズム短歌」と簡単に片付けていたのはいささか早計でした。
雌かまきりの歌は、石川不二子さんのだんな様が病気で痩せてしまわれたことを詠ったものだと思います。
前後の歌や歌集のほかの歌からそう判断して間違いないでしょう。
寺山修司との共通点は、私にはまだわかりません。
このところの戯れ歌の類を、こちらのコメント欄に一々ご披露下さるのはお控え下さい。辟易しています、ご賢察を。
かすみ様、突然の闖入をお許し下さいませ。
石川不二子さんの同窓の者です。
大学は東京農大(私大)ではなく、東京農工大学(国立)です。
仲間と共に島根県・三瓶開拓に入り、その後に岡山県の鳴滝牧場に転じています。
歌集「牧歌」は農工大学から三瓶開拓時代の歌が収められています。
いま確認しましたら、やはり東京農工大でした。私の間違いでした。お詫びして訂正いたします。ご指摘ありがとうございました。
前川佐美雄賞と迢空賞のダブル受賞との事同年代の方なので、私は短歌は詠めませんが鑑賞するのは大好きです。
古い記事をたどって読んでいただいて、ありがとうございます。
この歌集は友達に借りて読んで、返してしまいました。買う値打ちのある歌集ですね。
朝日新聞の記事は私も読みました。僭越ですが、石川不二子さんが評価されることはとても嬉しい気がします。