気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

豆ごはんまで 坪内稔典歌集

2008-05-10 11:55:16 | つれづれ
てのひらに火種をにぎっているような恋人といてけやきのみどり

ふっくらと豆ごはんあり建て売りの家の窓々開け放ちたり

三十に立たず四十に惑いつつ桜の下の河馬に至りぬ

帰途という言葉拒みて坂下の猫じゃらしなど友としている

どこへ行く当てもない日でありますが粒アンパンは買いに行きます

豆ごはんふっくらと炊く人といて裏口に吹く麦秋の風

(坪内稔典 豆ごはんまで ながらみ書房)

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プライベート多忙で、今週は歌集がなかなか読めなかったが、坪内稔典『豆ごはんまで』をやっと読む。
稔典先生とは、某俳句教室にちょっとだけ行っていたことがきっかけで、親しくさせていただいている。いままで纏まって短歌を読んでいなかったのが不思議な気もする。

稔典先生のお好きなものは、アンパン、河馬、柿の三点セットで、お話にも歌にもよく出てくる。それにこれからは、豆ごはんもプラスしよう。
白髪で一見好好爺風だが、心は若々しく精力的。短歌や俳句にも恋をテーマにしたものが多い。

一首目。てのひらに握っている火種とは、消せない恋心だろう。そしてけやきのみどりを見ている。火種の赤と、けやきのみどりの色の取り合わせが美しい。
二首目。建て売りの家の窓を開けるというささやかに見えて、実は晴れ晴れと大きい幸福感がある。ふっくらと美味しい豆ごはんがあり、炊いてくれるパートナーもいる。ほのぼのと温かい気持ちになる一首。
四首目。そんな温かい家庭でも、ときには道草を食ってみたくなる。猫じゃらしなど友としている子供っぽさが魅力。
六首目。麦秋は夏の季語。陰暦四月の異称。俳人の作る短歌には、やはり季節感が短歌のみの歌人より多い。これは私たちも学ぶべきところだと思う。

三合の雑穀ごはん一食づつラップで包みチンする夕餉
(近藤かすみ)