気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

今日の朝日歌壇

2008-05-26 21:01:14 | 朝日歌壇
思い出のひとつひとつを捨ててます百六十円のシールを貼って
(夕張市 美原凍子)

ダムダムとドリブルの音君がいる体育館わき歩み緩める
(岩手県 三尾恭子)

酒倉を案内(あない)する娘(こ)のやはらかき声の響くや春の暗闇
(東京都 長田裕子)

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一首目。朝日歌壇ですっかり有名になった美原凍子さんは、とうとう夕張市を離れるらしい。不用品を処分するのに費用を払わねばならないが、今はコンビニなどでシールを買って貼るシステムになっている。作者のお住まいの夕張市は、それが百六十円なのだろう。この具体的な金額と、思い出という値段のつかないものとの対比が面白い。捨ててます・・の口語も効いている。どこへ行っても、お元気でがんばってほしい。また別の住所からでも、美原さんの歌を読みたいと待っています。
二首目。バスケットボールの練習だろうか。ダムダムというオノマトペが新鮮。たしかにそう聞こえる。いまドリブルをしているのが、作者の憧れの人かどうかわからないが、それでも歩みを緩めて耳を澄ます心情が初々しい。三句目の「君がいる」が上句と下句をうまくつないでいる。
三首目。酒倉は大きくて、声がこもったように響くのだろう。その上、お酒の匂いもして酔ったような気分になるのかもしれない。結句の春の暗闇が艶かしく感じられる。

思ひではときをりわれを泣かしむるいつか娘と歩きし小道
(近藤かすみ)