気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

月蝕書簡 寺山修司 つづき

2008-05-19 01:11:25 | つれづれ
酔いて来し洗面台の冬の地図鏡のなかで割れている父

かくれんぼの鬼のままにて死にたれば古着屋町に今日もくる父

つむりたるわが目蛍となりゆきて夢に情死の母を見にゆく

セールスマンの冬のソフトにはさまれし家族あわせの母が一枚

履歴書に蝶という字を入れたくてまた嘘を書く失業の叔父

目つむれば夜のプールにうつりいるわれの老後と一本の藁

(寺山修司 月蝕書簡 岩波書店)

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寺山修司の短歌は映像的なものが多い。セールスマンの歌は、映画の一場面のようだ。
一首目は「鏡のなかで割れている父」というフレーズが魅力的。また「かくれんぼの鬼」のような既視感のある言葉がよく出てくる。
五首目にもあるが、これらの歌は嘘と言えばみんな嘘なのだ。
享年四十七歳は若いが、年取った寺山修司は想像できない。早世であっても本人にふさわしい年齢であったのかもしれない。