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南無煩悩大菩薩

今日是好日也

壊れながら修復され生成され続ける運動体

2019-05-16 | 古今北東西南の切抜
(gif/source)

私たちが見て、聞いて、嗅いで、触っているものは、素朴に「存在する」ものだと考えてしまいますが、それは飽くまで、私たちの感覚器官や脳が作り出したイメージです。

水晶体や網膜の調子がおかしければ、像は歪むし、微細な匂いが異常に拡大される人もいる。人によって見ているもの、聞いているものは異なり、世界は違うものとして立ち上がっているものです。こうした、私たちの知覚した結果を、「存在」ではなく、「現象」と呼ぶことにします。

観察する「わたし」がいて、わたしが感覚器官を働かせる時、そこに現象が立ち上がる。私たちは、存在するものを直接捉えることができず、現象を通して理解するのです。つまり、直接知覚できませんが、現象に対応するようなもの、現象として「わたし」に知覚を成立させるものが、実在として想定されることになります。


アリストテレスが論じた、物事の四つの原因(アリストテレスの4要因)を説明しましょう。それは、質量因、作用因、形相因、目的因の四つです。

家を建てることを例にすると、質量因とは、素材・材料ですので、木材、石材、鉄骨や釘などに相当します。作用因とは、事象を生起するための操作、力であり、家の場合、大工さん、様々な工作機械の操作に相当します。形相因は設計図に相当します。目的因は、家の場合、誰々さんが住むため、という建築目的に相当します。家の存在理由を問われるなら、目的因は、人が住むためと想定可能でしょう。

しかし例えば、熱帯低気圧の存在理由、カブトムシの存在理由、わたしの存在理由、と言われるとき、目的因とは何なのでしょうか。質量因、作用因、形相因については指定できます。熱帯低気圧の質量因は、それを発生させる局所的な気圧配置であり、形相因は流体力学、作用因は、結果的に熱帯低気圧をもたらすまでの、エネルギー供給などとなるでしょう。カブトムシもわたしも、同様に、質量因、作用因、形相因はなんとかなります。目的因はどうでしょう。

熱帯低気圧やカブトムシ、わたし自身は、なんらかの存在理由があって存在しているとは思えません。それらの存在を手っ取り早く納得させるような理由はみつからない。それらは、それ自体として存在するという事実だけでしか、その存在を根拠づけられない。むしろ、「存在それ自体」こそが、目的因だと思われるのです。

-切抜/郡司ペギオ幸夫「天然知能」より

壊れながら修復され生成され続ける運動体として存続する「わたし」。
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