客は私だけ。
そこに、もう引退を考えているという教授が一人おみえになる。
静かな店内であるから、自ずと話し声が耳に入る。
「いやあ、年寄りの会合でしたが、抜け出してきました。なんせ話題と言えば、病気と孫の話、酔いがまわると昔の自慢話ですわ。はっはっは。」
店主が答える「そうですか、しかし私も孫がいますが、ありゃかわいい」
「そう、そうなんですわ。」と、その氏もひと瀬、孫を喜び自分の病気を歎き今の仕事の仔細を誇ったのであった。
「しかし、マスター、ひとはみんな同じですね。」
「そういうことでっしゃろなぁ」
今日も、杯は静かに進み、夜は更けていく。