墓前に樒(しきみ)をたて、線香をたき、般若心経をとなえる。
くゆるけむりに、とけこむ不如帰(ほととぎす)の声。
山裾落ち、清流抱える座敷に立ち返り、朴訥堅牢の田舎豆腐を、冷涼鮮明なる麦酒で戴く。
銘なる酔とともに、染み渡り聞こゆるは、鶯の声明。
時忘れるほどに、杯を重ねるほどに晩妙を向かえ、対岸に返しそぼふり鳴く河鹿の序章。
ぽつぽつと立ち現れては消ゆるほのかなる、鳴かぬ蛍が身を焦がす。
立ち枯れつつも立ち枯れぬ古木のごとき時間。
ある一日。
ここにしかない豆腐を食えば、ちさきころがよみがえる。
ふるさとは とうふにありて おもうもの。