大西五郎さんの検証記事を転載します。
読売、日経9条改正に口閉ざす
~憲法記念日の新聞論調~
社説で「参議院の力が強すぎる」と不満(読売・日経)
5月3日憲法記念日の新聞各紙の社説を中心に、
憲法問題の論調を検証してみた。
全体として昨年までとは大きく様変わりしていて、
これまで毎年の憲法記念日に憲法9条の改正を声高に主張していた読売新聞が、
社説で9条改正を主張することなく、
自民党の思うようには政治が進まないことに苛立って、
参議院の衆議院への従属を主張する社説になっていた。
日経の社説もこれまでのように9条改正問題には触れずに、
衆議院の優位性をもっと強めよという主張にとどまっていた。
与党が参議院でも多数を占めていたときは、自民党は強行採決を繰り返し、
「良識の府」としての参議院の役割を軽視していたことを
忘れたような論調には賛同しかねるものがある。
唯一いまや「新聞界最右翼」(元共同通信編集局長原寿雄さんの言葉)となった
産経新聞だけが「日本のタンカーが海賊に襲われたら
自衛権を使えるようにすべきだ」と9条改正を主張していた。
9条とともに21条、25条が守られていないと告発(朝日・毎日・中日)
一方、護憲を基調としている朝日は、
憲法改正問題は国民の意識から遠ざかっていると指摘し、
格差と貧困の問題(憲法第25条)や、
映画「靖国」の上映中止問題や日教組の集会にホテルが
部屋を貸すことをキャンセルした問題に見られる
言論・表現の自由(憲法第21条)が危うくなっていることを
警告することに力点を置いていた。
毎日は、空自のイラク派遣を憲法違反と判断した
名古屋高裁の判決のもつ意味、
「憲法の前文は『平和のうちに生存する権利』をうたっているが、
それは単なる理念の表明ではない。
侵害された場合は裁判所に救済を求める根拠になる法的な権利である。
という憲法判断を司法として初めて示した」ことを強調していた。
その上で、憲法が保障する国民の権利と現実との間に乖離があるとして、
国会が生存権の侵害を監視すべきだと主張していた。
憲法は権力を縛り、国民の幸福を保障するもの(中日)
中日も、「『なぜ?』を大切に」と題する社説で、
第25条生存権、第27条勤労の権利などが行き過ぎた
市場主義、能力主義で公平、平等が損なわれている、と告発し、
名古屋高裁の自衛隊イラク派遣意見判決も政府は黙殺していることを
鋭く批判している。
イラク派兵反対のビラ配りも取り締まりの対象とされ、
これでは第21条表現の自由も絵に描いたモチになってしまう。
そして「憲法は政府・公権力の勝手な振る舞いを抑え、
私たちの自由と権利を守り幸福を実現する砦です」
「一人ひとりが憲法と現実との関係に厳しく目を光らせ、
『なぜ?』と問い続けたいものです」と憲法記念日の意味を強く訴えていた。
各紙解説・特集で「改憲の動き遠のく」
昨年の憲法記念日の頃は、安倍首相(当時)が
「私の任期中に憲法改正を政治的スケジュールに載せたい」語り、
国民投票法を成立させて、憲法改正の機運を盛り上げようとしていた。
しかし、自民党は参議院選挙で大敗し、安倍氏も政権を投げ出し、
改正の推進力が弱まっていると、各紙が揃って解説している。
朝日は3日、「政界改憲熱今は昔 首相抑制 民主も乗らず」(「時時刻刻」)と
昨年の熱気がもはや去ってしまったと断じた。
1日に行なった新憲法制定議員同盟の会合では、
会長の中曽根康弘元首相が「憲法を作り直して、
子孫に対する責任を果たしたい」と声を振り絞ったが、
同会の顧問に就任した民主党の鳩山幹事長や前原副代表は出席せず、
盛り上がらなかったと述べている。
中日も、「改憲論議一期に下火 参院選の与党惨敗響く」(「スコープ」)で、
選挙で大勝した民主党は「生活優先」を掲げて自民党との改憲協議を拒んでいる。公明党も9条の改正には賛成ではなく、加憲を唱えている。
自民党は党憲法審議会を設置して投票年齢の18歳移行などの問題点を論議しているが、
中堅議員は「改憲の機運が冷めないように、
アリバイ的に議論しているだけだ」と語っている有様だと報じた。
改憲推進派の産経ですら、解説の頁で「戻らぬ『熱気』
国民投票法施行まで2年」と政界の改憲熱の冷めたことを歎いていた。
ただ産経は同じ面に、中曽根新憲法制定議員同盟会長へのインタビュー記事を載せ、
中曽根氏は「安倍内閣が続いていれば憲法論議の方へ動いただろうが、
福田君の時代は国会対策と外交問題で余裕がない」と歎いていた。
ただ「福田君の次だね。次の総選挙で当選する新しい議員たちは、
憲法問題を国家構造の問題として真剣に考え、取り上げるだろう」と、
まだ諦めない心境を語っていた。
中曽根氏は相変わらず「現憲法は占領下に作られた」と
“押し付け憲法論”を唱えていた。
この他、毎日新聞が11・12面見開きで「憲法を考える」。
映画「靖国」の上映中止問題やプリンスホテルの日教組の集会場キャンセルを
「じわり危機 表現の自由」と捉えて
清水英夫青山学院大学名誉教授へのインタビューなどを。
また国会で憲法改正問題の論議が進まないことを「
ねじれで改憲熱冷め」と記者が解説した。
日経も、26・27面見開きで
「政治混迷、改憲かすむ 安保、恒久法など課題」の特集を組み、
中山太郎自民党憲法審議会長と鳩山由紀夫民主党幹事長へのインタビューや
記者のレポート。
読売も、中山太郎自民党憲法審議会長、大石真京都大学教授、
猪瀬直樹東京都副知事、北岡伸一東京大学教授の出席で、
「憲法座談会 ねじれ国会の教訓と国民投票法公布1年」を組んだ。
読売の座談会では、「参議院の役割見直し」に論を費やし、
「衆議院の再可決は2分の1にすべきだ」(大石教授)など、
読売社説を補強する論者を集めた座談会になっていた。
なお、3日のテレビのJNNニュースは、新しい憲法を作る国民大会で、
自民党憲法審議会の船田元会長代理が
「本来なら、いまごろ国会で憲法改正論議が相当議論されているはずです」と、
苦笑まじりで改憲論議がストップしていることを歎いていたのを映像で伝えた。
5月4日 大西 五郎
読売、日経9条改正に口閉ざす
~憲法記念日の新聞論調~
社説で「参議院の力が強すぎる」と不満(読売・日経)
5月3日憲法記念日の新聞各紙の社説を中心に、
憲法問題の論調を検証してみた。
全体として昨年までとは大きく様変わりしていて、
これまで毎年の憲法記念日に憲法9条の改正を声高に主張していた読売新聞が、
社説で9条改正を主張することなく、
自民党の思うようには政治が進まないことに苛立って、
参議院の衆議院への従属を主張する社説になっていた。
日経の社説もこれまでのように9条改正問題には触れずに、
衆議院の優位性をもっと強めよという主張にとどまっていた。
与党が参議院でも多数を占めていたときは、自民党は強行採決を繰り返し、
「良識の府」としての参議院の役割を軽視していたことを
忘れたような論調には賛同しかねるものがある。
唯一いまや「新聞界最右翼」(元共同通信編集局長原寿雄さんの言葉)となった
産経新聞だけが「日本のタンカーが海賊に襲われたら
自衛権を使えるようにすべきだ」と9条改正を主張していた。
9条とともに21条、25条が守られていないと告発(朝日・毎日・中日)
一方、護憲を基調としている朝日は、
憲法改正問題は国民の意識から遠ざかっていると指摘し、
格差と貧困の問題(憲法第25条)や、
映画「靖国」の上映中止問題や日教組の集会にホテルが
部屋を貸すことをキャンセルした問題に見られる
言論・表現の自由(憲法第21条)が危うくなっていることを
警告することに力点を置いていた。
毎日は、空自のイラク派遣を憲法違反と判断した
名古屋高裁の判決のもつ意味、
「憲法の前文は『平和のうちに生存する権利』をうたっているが、
それは単なる理念の表明ではない。
侵害された場合は裁判所に救済を求める根拠になる法的な権利である。
という憲法判断を司法として初めて示した」ことを強調していた。
その上で、憲法が保障する国民の権利と現実との間に乖離があるとして、
国会が生存権の侵害を監視すべきだと主張していた。
憲法は権力を縛り、国民の幸福を保障するもの(中日)
中日も、「『なぜ?』を大切に」と題する社説で、
第25条生存権、第27条勤労の権利などが行き過ぎた
市場主義、能力主義で公平、平等が損なわれている、と告発し、
名古屋高裁の自衛隊イラク派遣意見判決も政府は黙殺していることを
鋭く批判している。
イラク派兵反対のビラ配りも取り締まりの対象とされ、
これでは第21条表現の自由も絵に描いたモチになってしまう。
そして「憲法は政府・公権力の勝手な振る舞いを抑え、
私たちの自由と権利を守り幸福を実現する砦です」
「一人ひとりが憲法と現実との関係に厳しく目を光らせ、
『なぜ?』と問い続けたいものです」と憲法記念日の意味を強く訴えていた。
各紙解説・特集で「改憲の動き遠のく」
昨年の憲法記念日の頃は、安倍首相(当時)が
「私の任期中に憲法改正を政治的スケジュールに載せたい」語り、
国民投票法を成立させて、憲法改正の機運を盛り上げようとしていた。
しかし、自民党は参議院選挙で大敗し、安倍氏も政権を投げ出し、
改正の推進力が弱まっていると、各紙が揃って解説している。
朝日は3日、「政界改憲熱今は昔 首相抑制 民主も乗らず」(「時時刻刻」)と
昨年の熱気がもはや去ってしまったと断じた。
1日に行なった新憲法制定議員同盟の会合では、
会長の中曽根康弘元首相が「憲法を作り直して、
子孫に対する責任を果たしたい」と声を振り絞ったが、
同会の顧問に就任した民主党の鳩山幹事長や前原副代表は出席せず、
盛り上がらなかったと述べている。
中日も、「改憲論議一期に下火 参院選の与党惨敗響く」(「スコープ」)で、
選挙で大勝した民主党は「生活優先」を掲げて自民党との改憲協議を拒んでいる。公明党も9条の改正には賛成ではなく、加憲を唱えている。
自民党は党憲法審議会を設置して投票年齢の18歳移行などの問題点を論議しているが、
中堅議員は「改憲の機運が冷めないように、
アリバイ的に議論しているだけだ」と語っている有様だと報じた。
改憲推進派の産経ですら、解説の頁で「戻らぬ『熱気』
国民投票法施行まで2年」と政界の改憲熱の冷めたことを歎いていた。
ただ産経は同じ面に、中曽根新憲法制定議員同盟会長へのインタビュー記事を載せ、
中曽根氏は「安倍内閣が続いていれば憲法論議の方へ動いただろうが、
福田君の時代は国会対策と外交問題で余裕がない」と歎いていた。
ただ「福田君の次だね。次の総選挙で当選する新しい議員たちは、
憲法問題を国家構造の問題として真剣に考え、取り上げるだろう」と、
まだ諦めない心境を語っていた。
中曽根氏は相変わらず「現憲法は占領下に作られた」と
“押し付け憲法論”を唱えていた。
この他、毎日新聞が11・12面見開きで「憲法を考える」。
映画「靖国」の上映中止問題やプリンスホテルの日教組の集会場キャンセルを
「じわり危機 表現の自由」と捉えて
清水英夫青山学院大学名誉教授へのインタビューなどを。
また国会で憲法改正問題の論議が進まないことを「
ねじれで改憲熱冷め」と記者が解説した。
日経も、26・27面見開きで
「政治混迷、改憲かすむ 安保、恒久法など課題」の特集を組み、
中山太郎自民党憲法審議会長と鳩山由紀夫民主党幹事長へのインタビューや
記者のレポート。
読売も、中山太郎自民党憲法審議会長、大石真京都大学教授、
猪瀬直樹東京都副知事、北岡伸一東京大学教授の出席で、
「憲法座談会 ねじれ国会の教訓と国民投票法公布1年」を組んだ。
読売の座談会では、「参議院の役割見直し」に論を費やし、
「衆議院の再可決は2分の1にすべきだ」(大石教授)など、
読売社説を補強する論者を集めた座談会になっていた。
なお、3日のテレビのJNNニュースは、新しい憲法を作る国民大会で、
自民党憲法審議会の船田元会長代理が
「本来なら、いまごろ国会で憲法改正論議が相当議論されているはずです」と、
苦笑まじりで改憲論議がストップしていることを歎いていたのを映像で伝えた。
5月4日 大西 五郎
新聞界の憲法を巡る新動向がよく分かりました。こういう動向は嬉しいものがありますね。
こう思ったものです。
「新聞もおおいに読者を気にするのだな。そりゃそうだ、何かヘマをやったら、活字離れの読者がたちまちさらに減るだろうから。民主党にも良い顔しなきゃならなくなっただろうし。福田や麻生じゃ、次の衆院選次第では民主が与党になるかも知れないご時世だもの」
「やはり、形式的で中身が伴わなくとも、民主主義は良いもんだ」と、こうも思ったものです。