今、「日本病 長期衰退のダイナミクス」という本を読んでいる。岩波新書の本で、経済学者の金子勝と、東京大学アイソトープ総合センター長兼東京大学先端科学技術研究センター教授と肩書きがある児玉龍彦との共著である。この本はいずれ全体的にご紹介する積もりだが、今日は表題のことを、日本大企業の外国人株主保有比率でもって示してみたい。予想はしていたものの、この本を読み進んで僕が驚いた部分である。このまえに、この事自身が安倍政権の経済目標すべてにとって持つ大きな意味を少々。
アベノミクスが失敗したことは今や明白である。物価目標2%は達成時期をどんどん遅らせてもまったく目処が立たず、賃金に至ってはこの本が出来る半年前の2015年6月まで実質賃金指数は26か月連続でマイナスになっていると言う。
この政権が唯一「自負する」所、それが株価なのであって、当ブログ拙稿でもこれを、株価資本主義と揶揄してきたところだ。賃金も上がらない株価高どころか、トリクルダウン説が嘘と分かったように内部留保がどれだけ増えてもその分賃金が下がっているという現実があるとは、ここで何度も述べてきたこと。年金基金などをどれだけ注ぎ込んでも一般国民には一切意味がなかったということなのである。この株価高はそれだけではなく、実は、「日本売り」を示しているというそのことが、この本第2章に出てくるのである。安倍政権の「官製相場」を外国人投資家がいかに食い物にしてきたかというそのことが示されているのである。
『外国人株主の保有比率は小泉政権期に飛躍的に伸びて20%台に乗った』
『アベノミクスがスタートしてからは30%を超え、2014年度では31・7%に達した。売買に占める外国人シェアは60%を超えており、日本の株式市場は外国人投資家に席巻されている。「官製相場」が外国人投資家の格好の餌食になるのは、日銀や年金基金の介入で相場を読んで、吊り上げては売る利食いが比較的容易だからである』
そこから、外国人保有比率が30%以上とされた「外資系企業」が問題になっていく訳だが、この本に例示されている外国人保有率が4割を超える企業名を示してみよう。
『金融機関では、三井住友FG、りそなホールディングス、第一生命、東京海上日動、損保ジャパン日本興亜、不動産建設では三井不動産、三菱地所、製造業では日産自動車、スズキ、コマツ、日立製作所、ソニー、ファナック、栗田工業、オムロン、住友重機、村田製作所、任天堂、コニカミノルタ、中外製薬、アステラス製薬、その他にもオリックスやセコムなどが・・・・。』
これを観ていて、僕は改めてこんなことを考え込んでいた。
日本という国の賃金が下がっても死守してきたと言えるような株高が、一体どれだけ国民のためになってきたのだろうか。トリクルダウンはないのだし、法人減税とか「ケイマン脱税」とかのメリットは享受しているのだろうしというわけで、こんな他の全てを犠牲にしたような株高にどれでけの意味があるのかということだ。企業純益の4割を株主還元として受け取っているこれらの会社は日本国民に何を返してくれているのだろう。一般国民はどこまで行っても国民なのだが、外資はその国民の利益をどう考えてくれるのだろうか? 彼らにとっては日本国家は利用するものでしかないはずだが・・・。
このような『国家がなくなる時代』では、一般ピープルの基本的人権は誰が守ってくれるのだろう。中小国では日本よりも外資が遙かに容易に入れて、かつ自由に動けるはずなのだ・・・。
国連のような所の役割強化が新たにますます必要になってきているのではないか。これがないと、諸国家が国民の基本的人権を守るべきとされた「公共」という仕組みそのものが地上からどんどん消えていくのではないか? これを守りたいと思っても税収がないと、カネはみんな世界の脱税法人が持って行ってしまったと、そんな時代になったのだろう。国家累積赤字がアメリカ8000兆円とか、日本1000兆円とかいうのは、そんな奈落の底への最終段階の一里塚と観ることが出来るのである。それでも日米ともに軍需、軍拡を続けるというのは、「こういう国」だから敵が多くなると、そう考えているとしか思えないのである。
とにかく、資本の世界的自由だけがあって、その力に押されて国民の基本的人権がどんどん消えていく時代だと、改めてそんな気がした。そして、安倍政権についてこんなことも訝っていた。
「これだけ企業(職場)を外資に売り渡しておいて、その背後でこれだけの『日本を取り戻す』って、こんなナショナリズムの称揚って、一体何のつもりか? 経済を売り渡した分、頭は日本人でって、例え一時成功したとしても持続不可能な、幻想というものだろう!」
『このような『国家がなくなる時代』では、一般ピープルの基本的人権は誰が守ってくれるのだろう。中小国では日本よりも外資が遙かに容易に入れて、かつ自由に動けるはずなのだ・・・。』
日本がこうであれば、他国は推して知るべし。南欧の失業者は既に世界に有名な現象、難民問題というのも実は、このエントリー内容と密接な関係があると観ています。
例えば北アフリカ諸国の難民というのは、その国家が人権を守る機能が無くなって、国家に捨てられた人々。世界金融がこれだけ失業者や難民を作った上に、イラクやシリアに観るように国家機能まで破壊しているとも言える世界なのだと思う。この世界一体どこへ行ってしまうのか。
ついでながら、ブラジルの大統領停職も、アメリカの大衆運動画策である、とも。あの「アラブの春」のやり方そのものであるし。
離米南アメリカの一方の雄・ブラジルがアメリカにやられるのは、通貨戦争も含めて、これで何度目だろう。なお、アルゼンチンの左翼政権もひっくり返されたし、ベネズエラもそろそろ危ないから、キューバの国交回復も危ない綱渡りのようなもんだ。キューバは国際金融資本、マネーゲームのやり口など、無知に近いのではないか。
「衣食足りて礼節を知る」。逆に、「貧すれば鈍する」。国家累積赤字が8000兆円もあるのに軍拡を続けようというアメリカは、国の死を避けるためには何でもやるということだ。それでいて、パナマ、ケイマン、バージン諸島の脱税には手を付けないのだろう。金持ちが買っている国家だからだ。税を払わぬ代わりに、政治家を買っているのである。日本も同じだ。
『あの時、このように、これだけ、日本をアメリカに売ったのだ』
『それでいて「日本を取り戻す」を、政権至高の目的としていたのだから、呆れる』
『21世紀もかなり経ってから、多少反省も始まったようだが、もう既に遅かった。国家自主権防衛に関わる障壁をあれもこれもと、アメリカに売り渡してしまった』