■Season Of Lights / Laura Nyro In Concert (Columbia)
家庭用ビデオもDVDも、ましてやネットなんていう文明の利器が無かった1970年代は、それゆえに好きなミュージシャンのステージに気軽に接することが出来るライプ盤が、なかなか重宝されていたと思います。
それは主人公のリアルな近況報告であり、またある意味ではベスト盤的な位置づけもありましたから、それを出すことが、すなわち人気のバロメーターでもあったのです。
さて、本日ご紹介の1枚は、私の大好きなローラ・ニーロが1977年6月に出した、待望のライプレコーディングによる新作! というのも、前年春に出した前作「スマイル」が当時流行のフュージョンサウンドを如何にもローラ・ニーロ的に活かした、全くのサイケおやじ好みでしたから、その直後のプロモーションも兼ねた全米ツアーから作られたというこのアルバムに期待するなというのが、無理というものです。
メンバーはローラ・ニーロ(vo,p,g) 以下、ジョン・トロペイ(g)、リチャード・デイビス(b)、マイク・マニエリ(vib,per,key)、アンディ・ニューマーク(ds)、ニディア・マタ(per)、カーター・コリンズ(per)、エレン・シーリング(tp)、ジーニー・ファインバーグ(fl,sax)、ジェフ・キング(sax) という、モダンジャズ~フュージョンやスタジオセッションの世界では超一流の面々ばかり!
ちなみにエレン・シーリング、ジーニー・ファインバーグ、ニディ・マタといった女性ミュージャンの起用も注目されますが、確かこの3人は女性がメインのブラスロックバンドだったアイシスの中心メンバーだったと記憶しています。
A-1 The Confession (from Eli & The 13th Confession)
A-2 And When I Die (from More Than A New Diccovery)
A-3 Upstairs By A Chinese Lamp (from Christmas And The Beads Of Sweet)
A-4 Sweet Blindness (from Eli & The 13th Confession)
A-5 Captain St. Lucifer (from New York Tenderberry)
B-1 Money (from Smile)
B-2 The Cat Song (from Smile)
B-3 Freeport (from Christmas And The Beads Of Sweet)
B-4 Timer (from Eli & The 13th Confession)
B-5 Emmie (from Eli & The 13th Confession)
とにかく全篇にローラ・ニーロ節が、ぎっしり凝縮されているのは言わずもがな、バックの演奏も素晴らしいの一言♪♪~♪
ジョン・トロペイのソリッドなギターワーク、意外なほど若々しく躍動するリチャード・デイビスのペース、ヘヴィなファンクビートを内包したアンディ・ニューマークのタイトなドラミング、浮遊感とシャープな感性を併せ持つマイク・マニエリのヴァイブラフォン等々、とにかく文句のつけようがありません。またエレン・シーリングのマイルスっほいミュートも良い感じ♪♪~♪ それとジェフ・キングのマイケル・ブレッカーとウェンイ・ショーターの折衷スタイルも憎めないんじゃないでしょうか。
しかし何んと言ってもローラ・ニーロの存在感は、その自然体と些かの人見知り、それでいて強い意志を感じさせる歌いっぷりにグッと惹きつけられるという、実に印象深い余韻を残します。
肝心の演目構成は、まず収録曲中で一番に知られているであろう「And When I Die」がアシッドフォークとファンキーロックが上手く融合したハードなAORという趣になっていますし、続くバンドメンバー紹介から「Upstairs By A Chinese Lamp」へと続く流れは、そのミステリアスなアレンジが一転して十八番のメロウな展開へと入っていく、その声質や歌の節まわしも含めて、吉田美奈子への影響力を露骨に提示してくれるという、ファンにとっては実に嬉しいものです♪♪~♪
いゃ~、本当に吉田美奈子を聴きたくなるんですよっ!
そういう本音は続く「Sweet Blindness」ではさらにミエミエとなり、今度は矢野顕子という「Captain St. Lucifer」へ見事に収斂していくのです。
あぁ、こんなことばっかり書いていて、良いんでしょうか?
もちろんこれはリアルタイムではそれほどでもなく、後々になって聴けば聴くほどの心情吐露なんですよ。当然ながら、吉田美奈子も矢野顕子も私は大好きです。だって、彼女達の歌を聴くほどに、アッ、ローラ・ニーロ! とニンマリさせられる事が多々あったのですから♪♪~♪
そしてB面に針を落とせば、このバンドの演奏力が存分に堪能出来る「Money」が心地良く、そのあたりはA面ド頭の「The Confession」にも共通している魅力なんですが、バンドアンサンブルと縦横無尽な各人のアドリブソロは、演じている方が楽しいという雰囲気がたまりません。
ですからゆったりとした「The Cat Song」でも、その基本のグルーヴは決して弛緩することがありません。
しかし、このアルバムのクライマックスはローラ・ニーロがピアノで弾き語る「Freeport」「Timer」「Emmie」の三連発における自作の歌に対する真摯な姿勢です。これが観客も共感しての心からの拍手によって、実にリアルな良いムード♪♪~♪
ということですから、サイケおやじは当時、連日連夜、このアルバムを聴き狂っていましたですねぇ。それは今でも全く変わらない気持です。
ところが残念ながら、このアルバムは評論家の先生方からはケチョンケチョンに糾弾され、また現実的にも売れませんでした。
というのも、実はこのアルバムは当初、2枚組として企画され、サンプル盤までも業界に出回りながら、一説によれば会社側の意向によって編集を施され、1枚物に変更された経緯があったとか……。
しかしそれはライプ盤には当然つきまとう宿命であり、当たり前の詐術でしょう。
そんな裏事情を知らない多くのファンは、これはこれで楽しんでいたと思います。
まあ、正直言えば、多くの歌手やバンドにカパーされた有名曲が「And When I Die」だけなのが物足りず、また演目の後に注釈を入れたとおり、これまでのアルバムからバランス良く選ばれたわりには、ちょいと地味……。
そして1980年代になって、件の2枚組LPのサンプル盤からパイレートされたカセットコピーが局地的に出回り、サイケおやじも勇んで聴いたところ、確かに曲数も増え、演奏パートも未編集(?)のロングバージョンだったり、ミックスやテイクそのものが異なるトラックが幾つ入っていしまたから、相当に驚愕させられました。
ところが同時に、一般向けに世に出たオリジナルアルバムに馴染んだ耳には、どうにも散漫で……。
なによりもクライマックスだった弾き語りの「Timer」と「Emmie」がバンドバージョン&別テイク!?
また曲順が異なるために、「And When I Die」から「Upstairs By A Chinese Lamp」へと続くバンドメンバー紹介も含んだ心地良い流れが、無残にも蔑に……。
ですから、それは嬉しい反面、聴いていて馴染むものではありませんでした。
こうして月日が流れた1993年、その未発表2枚組アルバムが我国優先でCD化されるという快挙があったんですが、天の邪鬼なサイケおやじはもちろ即ゲットはしたものの、なんだかなぁ……。収録時間に余裕のある2枚組でありながら、アナログ盤LPでしか聴けないテイクが入っていなかったのも減点でした。
そして現在では紙ジャケット仕様のCDとなって、最初の企画どおりの音源に加え、前回のCD化では見送られたアナログ盤オンリーの「Timer」と「Emmie」も、しっかりと1枚のディスクに纏められています。
しかし、それだったら今日流行のデラックスエディションとして、1枚にはアナログ盤と同じ音源のリマスター、もう1枚にはサンプル盤だけで幻となった企画音源を入れるのが、最良じゃないかと思います。
ファンの中には、初めてこのアルバムに接する時、いきなり真オリジナルの2枚組用音源を聴き、楽しまれている皆様もいらっしゃるでしょう。確かにそれはローラ・ニーロやバンドメンバー、そしてスタッフの望んだものだったかもしれませんが、決して正しい歴史ではありません。
その点を鑑みれば、後追いで聴くほどに、最初の公式盤LPを大切に聴かなければならないのです。そして実際、そこに凝縮されたローラ・ニーロの素晴らしき歌の世界に感動しなければ勿体無いですよ。
とにかくLP片面毎の流れと盛り上がりは最高!
と、そんなことを思うのは、頑固なサイケおやじの独断と偏見にしか過ぎないことも、私には分かっているつもりなんですが、どうにも、ねぇ……。
結局は自分に馴染んだ「昔」を捨てきれないという、今日も偏屈な独り言で失礼致しました。