OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ポールのウイングスな意地っ張り

2010-06-24 16:39:50 | Beatles

Band On The Run / Paul McCartney & Wings (Capitol)

ポール・マッカートニーという偉大な音楽家の芸歴を振り返ると、ウイングスを率いていた1970年代は「意地っ張り期」というのが、サイケおやじの分類になっています。

まあ、これも毎度お馴染みの独断と偏見として、皆様は失笑と噴飯でしょう。

しかし結論から言えば、その時期のポールは明らかにビートルズとは違った自分だけの個性を追求するべく奮闘していたのであり、つまりはビートルズっぽさを意図的に封印していたと思うのです。

そのあたりがビートルズ以来の頑なファンを落胆させ、実際にウイングス名義で出される諸作がイマイチどころか、子供向け!? とさえ酷評されたことは決して局地的ではありませんでした。

それはビートルズの仲間だったジョンにしても、またジョージやリンゴにしても、各々が発表する楽曲が例の「ホワイト・アルバム」の延長にあるような個人的音楽性をそれほど変えていないことに比較して、ポールはあえてウイングスという自分の思い通りになるバンドまで結成し、ビートルズを捨て去る方向へとシフトしたが如き活動を……。

ですから、ウイングス名義の最初のアルバム「ワイルドライフ」が急造という側面はあったにしろ、その未完成と言うのも憚られる駄作のレッテルを貼られ、続く「レッド・ローズ・スピードウェイ」にしても、その発売当初は決して評判の良いものではありませんでした。

しかし同時期に発表していたシングル曲、例えば「Hi Hi Hi」や「My Love」等々の分かり易いポップロックなフィーリングは捨て難く、当然ながら大ヒットしていましたから、本日ご紹介のアルバムも新作として登場する以前から、相当な話題になっていました。

それは単に音楽性だけではなく、レコーディングがアフリカで行われていること、またウイングスが解散状態となり、現実の演奏はボールと子分のデニー・レインが中心となっていること等々!?

実はこの情報を知り得た当時のサイケおやじは、もしかして最初のソロアルバム「マッカートニー」のような、ほとんどデモテープと大差の無いチープなもの? という悪い予感に満たされていました。

ところが先行シングルとして1973年秋に出た「愛しのヘレン」の爽快さ、そしてついに同年末に姿を現したこのアルバムは、今に至るもウイングス名義では最高レベルの傑作だったのです。

 A-1 Band On The Run
 A-2 Jet
 A-3 Bluebird
 A-4 Mrs. Vandebilt
 A-5 Let Me Roll It
 B-1 Mamunia
 B-2 No Words
 B-3 Helen Wheels / 愛しのヘレン
 B-4 Pecasso's Last Words
 B-5 Ninteen Hundred And Eighty Five

まず、お断りしておきたいのは、掲載した私有LPはオリジナルのイギリス盤とは異なり、B面に「愛しのヘレン」が入ったアメリカ盤ということです。

実は前述した「愛しのヘレン」のシングル盤が我国で発売されたのは昭和48(1973)年12月20日のことでしたが、楽曲そのものは待望の新曲扱いとして、既に11月末頃からラジオで流れていました。

ですからサイケおやじが翌年の正月早々に某デパートで開催された輸入盤セールで、この未だ日本では出ていない新作アルバム「バンド・オン・ザ・ラン」を勇んでゲットしたのは、神様の思し召しでした。なにしろ日本盤が出たのは、それより更に遅れた2月初旬でしたからねぇ。もちろんその時点でイギリス盤は見たことありませんでしたから、「愛しのヘレン」は入っていて当然というのが、今に至るもサイケおやじの強い思い込みになっているのです。

さて、肝心の中身は説明不要と思いますが、とにかくA面ド頭の「Band On The Run」から「Jet」というドラマチックな二連発、さらに続く和みの「Bluebird」という流れが、楽曲の充実もあって、抜群です。特に「Bluebird」は、まさにポールでなければ書けないメロディと歌いまくりのベースワークが良い感じ♪ また既に述べたように、このアルバムのレコーディングセッションは基本的にボール(vo,g,b,ds,key) とデニー・レイン(g,b,key,vo) だけで行われ、ポールの当時の愛妻だったリンダ(vo,key) は、失礼ながら、まあ、そこに居るだけという役割でしたから、「Band On The Run」や「Jet」で聴かれる多重層的なメロディの繋がりや各種楽器の使い方は、緻密なオーバーダビングや熟練したテープ編集の魔法によるものというプロデュースが見事過ぎます。

特に幾つもの小さなメロディを継ぎ接ぎし、ひとつの曲に仕立て上げる手法は、ビートルズ時代の「アビーロード」のB面から連綿と受け継がれたポールならではの十八番ですが、それがこの時期、例えばこのアルバムより以前に出したシングル曲の007映画主題歌「死ぬのは奴らだ / Live And Let Die」、そしてここに収録された「Band On The Run」や「Pecasso's Last Words」で、相当な境地にまで到達しています。特に「Pecasso's Last Words」はアルバム収録曲の様々なパーツをモザイクのように用いた目論見があり、それゆえにB面ラス前という絶妙の位置付けがニクイばかり!

しかし、そうした部分が逆にビートルズ以来のファンの心理を逆なでしていることも、また事実で、あざとさばかりが目立っていることは否定出来ません。極言すれば分かり易さと裏腹のカッコ悪さがあるんじゃないでしょうか。

今日の歴史では、折しもビートルズで同僚だったリンゴが友人関係を総動員した珠玉のポップスアルバム「リンゴ」を、またジョンは人生の機微と夢を綴った傑作盤「ヌートピア宣言」を同時期に発売していますし、ジョージにしても、それに先駆けてソフト&メロウと精神世界の安逸を見事にリンクさせた「リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド」をヒットさせていましたから、ポールにしても当時は尚更に負けん気が強かったでしょう。

率先してビートルズを辞めた自分は、もう後戻りは出来ないという意地、それでもビートルズを牽引していたのも、また自分というプライドが確かにあったと思います。

それゆえに他の3人がやっていなかったバンド形態に拘ったのも充分に納得出来るのですが、結果的に結成したウイングスはポールのワンマンバンドであり、ビートルズが存在していたリアルタイムからのファンにとっては、共に歳月を積み重ねた分だけ、それは子供向け……。

ですから、この秀逸なアルバムも最初はそれほど勢い良く売れたわけではないようです。

しかしLP収録曲を積極的にシングルカットし、先行した「愛しのヘレン」から「Jet」、そして「Band On The Run」を3連続大ヒットさせたことにより、アルバムもロングセラーとなり、ビートルズ活動停止後のメンバーのソロ作品中では、この時点で最高の売り上げを記録し、ついにはグラミー賞まで獲得するのです。

客観的に聴けば、この「バンド・オン・ザ・ラン」は最高のポップスアルバムのひとつでしょうが、何故か「1970年代ロックの名盤」として認知されることは、未だに無いと思います。

実は告白すると当時、私は周囲の仲間に「このアルバム、良いよねぇ~♪」とか言ったが為に、「おまえ、まだ、そんなの聴いてんの!?」と完全に呆れられた過去があります。

結局、ポールはジョンのような社会を先導する立場にもなれず、ジョージのように内省的な精神性を逆手にとることも出来ず、あるいはリンゴのようなフレンドリーなタレント性も周囲が許しませんから、必然的にプロ意識の強さが金儲け主義と受け取られる損な役割を引き受けてしまったんじゃないでしょうか……。

人類の歴史の中で、この先もポールは偉大な作曲家という地位は揺るぐはずもありませんが、さて、それでは残されたビートルズ以外のレコードは? という問いが、常につきまとう宿命も携えています。

そんなところからでしょうか、1976年頃からウイングスのライプステージでは、ついにビートルズ時代の歌を自ら解禁し、近年では伝統芸能としてのビートルズに邁進するポールの姿が居直りどころか、なにやらせつないものに感じられます。

おいおい、「バンド・オン・ザ・ラン」を出していた頃の意地っ張りは、どうしたんですか?

なんていう些か無礼な質問をしたくなるほどなんですよ……。

もちろんサイケおやじにしても、近年のポールの懐メロライプには、やっぱり嬉しいものを否定致しません。

しかし時折、この当時のレコードを取り出して聴いてみると、ポールならではのツッパリが妙に心地良かったりするのです。

最後になりましたが、このアルバムの如何にもロックな音作りは、ビートルズ時代からのエンジニアだったジェフ・エメリックの手腕であり、なぁ~んだ、結局はポールってビートルズから離れられないのねぇ~♪ と目が覚めてしまうんですが、そこに普遍性が強く打ち出されていることを付記しておきます。

そして個人的にはB面のアコースティックな「Mamunia」や夢見るような「No Words」におけるコーラスワーク全開のハートウォームなトラックから、アメリカ盤だけの「愛しのヘレン」へと続く流れが好きでたまらないのでした。

コメント (10)
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