■Miles Davis Vienna 1973 (Jazz Vip = DVD)
昨夜はおやじバンド再開に備えて楽器屋へ行ったついでにソフト屋も物色していたら、いろいろと衝撃的なブツを発見してきました。
その中で、まず本日ご紹介するのは、電化期のマイルス・デイビスが一番に尖がっていた1973年当時のライプ映像! これが物凄い悶絶演奏でした。
収録されたのは1973年11月3日のオーストリア巡業から、メンバーはマイルス・デイビス(tp,key)、デイブ・リーブマン(ss,ts,fl)、レジー・ルーカス(g)、ピート・コージー(g,per)、マイケル・ヘンダーソン(b)、アル・フォスター(ds)、ムトゥーメ(per) という7人編成のバンドで、これはもちろん同年6月に来日した時と同じメンツです。
01 Turnaroundphrase
02 Tune In
03 Ife
04 Right Off
05 Funk
06 Calypso Frelimo
収録演目は上記のようなチャプターが入っていますが、皆様がご存じのとおり、当時のマイルス・デイビスのバンド演奏は、特にライプの現場ではブッ通しの切れ目無しでしたから、ここでも約63分間の電撃ゴッタ煮ファンクが楽しめます。
正直に言えば、このバンドが1973年に来日した時にNHKがライプの会場からテレビ中継を行い、それに接した若き日のサイケおやじは、なんだか凄いことをやっているけど、ほとんど???の世界だったのです。
なにしろマイルス・デイビスはミュートのトランペットに電気のアタッチメントとワウワウを装着し、うつむいて意味不明のフレーズしか吹きませんでしたし、それを支えるリズム隊が作り出すビートはファンクとアフロとカリブラテンとフリーのドロドロギトギトの世界でしたから、唯一の王道ジャズっぽいのがデイヴ・リーブマンの存在だけというのでは……。
しかし、それが自分なりに凄い興奮に結びついて理解出来たような気分にさせられのは、次なる来日となった1975年のステージから作られた2組のライプ盤「アガルタ」と「パンゲア」を聴いてからです。そして追々、リアルタイムでは問題作としてジャズ喫茶やイノセントなファンからは異端の扱いを受けていた「オン・ザ・コーナー」や「マイルス・イン・コンサート」あたりの先端ファンク作品が楽しめるようになったのですから、このDVDにも期待があったとはいえ、ここまで緊張感と熱気が激ヤバだったとは、最高に嬉しいプレゼント♪♪~♪
実は前述したNHKの放送もブートとしてCDやアナログビデオが1980年代から出回っていましたが、今回のブツは当然ながらカラー映像として画質も「A」ランクですし、音質もバランスが良く、低音がド迫力に出ていながら、各楽器のバランスも実に分離が明確という優れものです。ただし演奏中のクレジットで、ピート・コージーを「レジー・ルーカス」と字幕を入れているのは大間違いの減点です。
まあ、それはそれとして肝心の演奏は、いきなりドカドカうるさいゴッタ煮ファンクビートがスタートし、例によって下ばっかり向いているマイスル・デイビスがワウワウ、ピッカビカのミュートトランペットで電気増幅させたフレーズを撒き散らしますが、パックではとにかくファンキーなリズムカッティングが至芸の域に達しているレジー・ルーカス、ジャズっほいキメなんか使わないマイケル・ヘンダーソンのエレキベース、ロックジャズに邁進するアル・フォスターのドラムス、さらにアフロとカリブの汎用打撃に集中するムトゥーメのパーカッションが、とにかく強烈な存在感!
そしてモードジャズに拘り抜くデイヴ・リーブマンのソプラノサックスが痛快ですし、ピート・コージーのデタラメ寸前なスケールがハナからケツまで暴走する展開には、完全に血沸き肉踊りますよ。
このパートが最初のチャプターで示される「Turnaroundphrase」でしょうが、ちなみにマイケル・ヘンダーソンはバンド加入以前はモータウンレコードのセッションプレイヤーでしたし、レジー・ルーカスはスティーヴィー・ワンダーの巡業バンドメンバーだったと言われていますから、完全にモダンジャズとは別世界で培われたキャリアが、ここでの新風となったのでしょう。
もちろん摩訶不思議なウネリに徹したギターソロを聞かせるピート・コージーにしても、本来はシカゴのチェススタジオをメインに活動していたセッションプレイヤーでありながら、同時にフリージャズをやっていたそうですから、そのスタイルの混濁性はムペなるかな!
一方、デイヴ・リーブマンは白人ながらエルビン・ジョーンズ(ds) のバンドレギュラーも務めた若手の実力派として、正統派モダンジャズの中では特にジョン・コルトレーンを信奉するスタイルを押し通しますし、ここでは濁った8ビートを叩きまくるアル・フォスターにしても、本来は4ビート派ですから、決して妥協は許さない親分の意図を裏切りません。
またリズムとビートの立役者になっているムトゥーメも、かつてはマイルス・デイビスと一緒にハードバップをやっていたジミー・ヒース(ts,ss) の実子ですから、本来のジャズフィーリングは体に染み込んでいるんじゃないでしょうか。どんなにハチャメチャな展開になっても、実に芯のしっかりした演奏が爽快至極です。
そして、そうした子分達を率いるマイルス・デイビスは、例え電気増幅の世界に飛び込んで、しかも意味不明のフレーズを独り言的に撒き散らしても、それが完全にマイルス・デイビスでしかないという唯我独尊が、まさに帝王の証明でしょう。
そういえばマイルス・デイビスを我国で「帝王」の称号で奉ったのは、この時期以降じゃないでしょうか?
ですから、そのファッションにしても、所謂ロンドンブーツ系の踵の高い靴、白いロングスカーフにベルボトム、さらに大きなサングラスとアフロなアクセサリーが、ロックスタアにも負けないド派手なフィーリングで、このあたりは黒人フッションのロック的な表現としても若い皆様には見逃せない楽しみかと思います。
もちろんバンドメンバーのフッションと佇まいも同様に凄いですよ♪♪~♪
ほとんどがアフロファンキー、そしてサイケデリックの残滓ともいうべきセンスの塊なんですが、中でもピート・コージーの怪人的な風貌は、椅子に座りっぱなしでエレキを抱え、トンデモ系のスケールを駆使した痛烈なアドリブソロを披露しまくる全篇において、もはや天下無敵の独演会!
そんなこんなが混然一体となったステージでは、演奏そのものがハイテンションの極みとはいえ、決して全員がデタラメをやっているわけではなく、おそらくは暗黙の了解によるアドリブのやり方があるんでしょう。聴いていて圧倒されるそこには、親分の指示で突如として急ブレーキ的にストップするリズム隊、しかしそこには留まらないアドリブソロの演奏者の独り善がり、またキーボードまでも弾きながら、バンドメンバーを自在に泳がせ、締め付けるマイルス・デイビスの存在感が恐ろしいばかりに際立っていくのです。
それは終盤の「Calypso Frelimo」のパートへと収斂し、怖いほどの緊張感と不安定なカタルシスの提供によって、演奏は唐突に終了するのですから、観客は呆気にとられて拍手するのがやっと……。
これが当時、ロックをも超越していたジャズの最先端!
今にして思えば、そう納得するほかはありませんねぇ~~♪
例えリアルタイムで気がつかなくとも、こうして当時の映像と演奏が楽しめるのですから、天国のマイルス・デイビスは「してやったり」でしょうか。
最後になりましたが、レジー・ルーカス、マイケル・ヘンダーソン、そしてムトゥーメはマイルス・デイビスのバンドを辞めた後、堂々とブラコンやポップスの世界で大輪の花を咲かせていますし、デイヴ・リーブマンとアル・フォスターはモロジャズやジャズフュージョンへの拘りを強め、ピート・コージーはアングラな活動へと舞い戻って行ったのが、今日の歴史です。
その意味で、全員が尖がりまくっていた頃が実際に追体験出来るのですから、これは素敵な復刻でしょう。決して万人向けではありませんが、熱い、本当に熱い演奏は最高♪♪~♪