OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

聴き易いディランも良いでしょう

2009-12-25 14:54:19 | Singer Song Writer

New Morning / Bob Dylan (Columbia)

以前の「風に吹かれて」でも書いたとおり、これは私が初めて買ったボブ・ディランのLPです。と言っても、掲載したジャケ写は後に買い直した輸入盤ですが、そうなったのも、実は最初の日本盤が焼失したからで、そこには個人的に悲しい思い出がありますので、経緯について今回は、ご容赦願います。

で、とにかく最初に聴いた本格的なディラン体験としては、これで正解だったと今は思っています。

もちろん古くからのファン、あるいはディラン信者の皆様にとって、このアルバムはそれほどの存在感ではないかもしれません。

しかし私にとっては、ちょうど昭和46(1971)年という我国では空前のフォークブームの中で、その神様と崇められていた偉人の新譜として、邦題「新しい夜明け」に接することは大きな第一歩だったのです。

 A-1 If Not For You
 A-2 Day Of The Locusts / せみの鳴く日
 A-3 Time Passes Slowly / 時はのどかに流れてゆく
 A-4 Went To See The Gypsy / ジプシーに会いに行った
 A-5 Winterlude
 A-6 If Dogs Run Free
 B-1 New Morning / 新しい夜明け
 B-2 Sign On The Window
 B-3 One More Weekend
 B-4 The Man In Me
 B-5 Three Angels / 3人の天使
 B-6 Father Of Night

結論から言えば、ボブ・ディランの諸作中では、特に聴き易い1枚だと思います。

ジョージ・ハリスンも歌っているA面冒頭の「If Not For You」は、浮遊する曲メロをカントリー系フォークロックで彩った爽やかさが心地良く、逆にヘヴィなロックビートでゴスペル風に歌う「せみの鳴く日」へと続く流れは、1970年代ロックの王道を行くものでしょう。

ちなみにバックを務めた参加メンバーは、アル・クーパー(p,org,g)、チャーリー・ダニエルス(b,g)、バジー・フェイトン(g)、ラス・カンケル(ds) 等々、錚々たる名手が裏ジャケットに記載されていますが、ボブ・ディラン自身もギターやハーモニカの他にピアノやオルガンを弾いています。

そしてそれが、このアルバムに特徴的なサウンド作りの要として、実際にピアノが大きく使われているあたりが、これまでのボブ・ディランに対する私の印象を変えたポイントでした。

おそらくはボブ・ディランのピアノの弾き語りが最初にあったであろう「時はのどかに流れてゆく」は、妙に不思議な和みに満たされていますし、ピアノとオルガンとドラムスが浮かれた調子の「ジプシーに会いに行った」、まさに幸せなワルツを奏でる「Winterlude」が続いていく中でのボブ・ディランの歌いっぷりは、それまでのイメージとして強かった意図的なメロディ外しから、相当に丁寧なものへ変っていると感じます。

そのあたりは、ついにA面のラストでやってしまう、4ビートによるジャズ歌謡「If Dogs Run Free」で全開♪♪~♪ モダンジャズとブルースがたっぷりのピアノはセッションミュージシャンが弾いているのでしょうが、ボブ・ディランの意外にもキマッている語り気味のフェイクが良い感じ♪♪~♪ またデュエットの女性ボーカルはメイレッタ・スチュワートが歌うスキャットで、これがなかなかに粋な仕上がりなんですねぇ~♪ イノセントなジャズファンも、ちょいと良い気分にさせられてしまうんじゃないでしょうか。

そうしたボブ・ディランにしては些か軟弱な部分は、後に知ったところでは、他人の楽曲を主に歌った前作「セルフ・ポートレイト」でも顕著だったわけですが、個人的には決して「お遊び」や「煮詰まり」ではなかったと思いますし、そんな目論見があったとしても、このアルバムの聴き易さと無縁ではないはずです。

その意味でB面ド頭のアルバムタイトル曲「新しい夜明け」は、如何にも従来のディラン調が強く出た所謂ディランロック! また同系の「One More Weekend」はさらに力強いブルースロックのディラン的な解釈として、何度聴いてもカッコイイです!

しかも歌詞が、それまでのボブ・ディランとは些か違った、明るい分かり易さなんですねぇ。

もちろん「Sign On The Window」や「The Man In Me」といった、暗い翳りとか屈折した心情を歌ったと思われる曲にしても、演奏パートの力強さや分かり易さがありますから、ボブ・ディランの歌声の存在感の強さがイヤミになっていません。特に「The Man In Me」あたりは、レイドバック期のエリック・クラプトンが歌っても許されるような、実にシンプルで濃厚なサウンドスタイルが味わい深いところ♪♪~♪

そしてラス前の「3人の天使」が短い語りでありながら、妙に宗教的なバックのサウンドがクリスマス♪♪~♪ 街にいる天使に気がつかない愚かな人々を描写する歌の内容は、ちょいと哀しいながらも感動しますよ。

こうして迎える大団円が浮かれた調子のボブ・ディランがピアノの弾き語り! しかも歌いまわしが完全に十八番の節ばかりという「お約束」の実践は、潔いと思います。

ということで、アナログ盤の両面を通して、全く退屈しないボブ・ディランのアルバムは、それまでに無かったと思いますねぇ。と言うよりも、既に述べたように聴き易いんですよ。

だいたい英語を完全に理解していない日本人にとっては、まずボブ・ディランのボーカルによる語感の気持良さとか、バックの演奏のカッコ良さ、もちろんメロディの流れに惹きつけられるのが最初でしょう。しかしボブ・ディラン自身は当然ながら歌詞も大切にしているわけですから、それが分からないところでは退屈も避けられないのですが……。

これについては知り合いで、ロックが好きなアメリカ人に以前尋ねたところ、アメリカ人でもボブ・ディランの歌詞を理解している者は少ないんじゃ……、なんて答えをいただきました。

と、すれば、本人のボーカルも含めて、サウンド全体をメインに楽しむ聴き方も正当化されるわけですよね。まあ、これは自分が良い様に決め込んでいるわけではありますが。

そうして、ボブ・ディランを何となく分かったような気分にさせられるのが、このアルバムの良いところかもしれません。ほとんど連日、何回も針を落とした時期がありましたし、さらに「もっとディランを聴いてみよう!」と思わせられるんですよねぇ~♪

なんといっても、表ジャケットの求道者の如きボブ・ディランのボートレイトが、実に説得力の強い素晴らしいです。

コメント
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