OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

休日にナバロ

2008-09-20 11:25:28 | Jazz

The Fabulous Fats Navarro Volume 2 (Blue Note)

モダンジャズを聴き始めると、やがて圧倒され、好きになるトランペッターがクリフォード・ブラウンという早世した天才でしょう。

そしてその偉人が尊敬し、ルーツとしていたのがファッツ・ナバロという黒人トランペッターだと知ったとき、その演奏も聴きたくなるのが人情というものです。

ところがファッツ・ナバロという人はモダンジャズ創成期に活躍し、やっぱり早世しているので、きちんとしたアルバム用の音源は残されておらず、SPという所謂「3分間芸術」の世界でしか楽しむことが出来ません。

しかも以前の我が国では、その音源すら纏めて聴くのは困難で、存在の確かさよりも肝心のレコードが冷遇されていた雰囲気ですから、その中でどうにかファッツ・ナバロを楽しめたのはブルーノートで編集されていた12インチ盤だけでした。

それがご存じ、パド・パウエルの「The Amazing Vol.1」とファッツ・ナバロ自身をリーダーに見立てて関連音源を集成した「The Fabulous Vol.1 & 2」です。

というように、このブルーノート音源にしても、決してファッツ・ナバロのリーダーセッションでは無く、タッド・ダメロンのレギュラーバンド、そしてハワード・マギーやパド・パウエルのリーダーセッションにゲスト参加したものばかりなんですが、それでも聴かずにはいられない魅力が確かにありました。

で、私はその「Fabulous Vol.2」をよく聴きましたですね。それは、これまた私の大好きなワーデル・グレイ(ts) が聴けるからでもあります。

そして収録音源は前述したセッションから適宜選ばれていますが、その内容は12インチLP化するにあたり、初出未発表の別テイクを大量収録した好企画となっています――

A-1 Lady Bird (alternate)
A-2 Lady Bird (Blue Note 559-B)
A-3 Jahbero (alternate)
A-4 Jahbero (Blue Note 559-A)
A-5 Symphonette (alternate)
A-6 Symphonette (Blue Note 1564-B)
B-1 Double Talk (alternate)
B-2 Bouncing Wiht Bud (alternate-1)
B-3 Dance Of The Infidels (alternate)
B-4 The Skunk (alternate)
B-5 Boperation (Blue Note 558-B)

1948年9月13日録音:タッド・ダメロン楽団
 A-1 Lady Bird (alternate)
 A-2 Lady Bird (Blue Note 559-B)
 A-3 Jahbero (alternate)
 A-4 Jahbero (Blue Note 559-A)
 A-5 Symphonette (alternate)
 A-6 Symphonette (Blue Note 1564-B)
 A面全部がタッド・ダメロンのレギュラーバンドによる録音で、その中の半分がこのアルバムで初出の未発表テイクでした。メンバーはファッツ・ナバロ(tp)、ワーデル・グレイ(ts)、アレン・イーガー(ts)、タッド・ダメロン(p,arr)、カーリー・ラッセル(b)、ケニー・クラーク(ds)、チャノ・ポゾ(per) という精鋭陣♪
 まず「Lady Bird」はハードバップ時代にも頻繁に演奏されていたタッド・ダメロンの代表曲ですから、既にこの時点でリズム隊のグルーヴに粘っこい雰囲気があるのは当然かもしれません。しかしファッツ・ナバロのアドリブは端正で完成されたフレーズの連なりが見事であり、それがスリルの欠如に繋がっているような……。また別テイクでも、その展開があまり変わっていないという謎が解けています。あくまでも個人的な考えですが、これはファッツ・ナバロの特徴というか、テイクを重ねる度に自分のアドリブを良い方向に修正していった記憶力のある人だったんじゃないでしょうか? つまり「出来あがっているアドリブ」という……。
 しかしそれでも非常に魅力のあるトランペッターであることには違いなく、そのメロディに拘った表現、ソフト&ハードな音色は流石の存在感だと思います。特に「Symphonette」のマスターテイクは素晴らしいですねっ♪ 短いながらも、随所にクリフォード・ブラウンの元ネタが散見されますよ♪
 一方、気になるワーデル・グレイは、もうひとりのテナーサックス奏者であるアレン・イーガーと極めて似たスタイルで好演♪ フワフワと浮遊感のある音色とフレーズが特徴的な白人のアレン・イーガーとは対照的に、同じレスター派でありながら、黒人らしいハードエッジな音色とノリがヤミツキの魅力です。
 そしてタッド・ダメロンのアレンジは小型エリントンというか、秀逸な作曲能力を活かした快適さが良い感じ♪ 狂騒と先鋭が特徴的だったビバップに洗練されたアレンジを持ち込んだ功績は評価されて当たり前ですが、例えば「Jahbero」に聞かれるような幻想性が表出したラテン曲の演奏には、ある種のミステリアスなムードが漂う不思議な味わいがあります。ファッツ・ナバロも大名演を披露していますし、なんとなく新東宝映画のキャバレー場面のように、万里昌代か三原葉子でも踊り出て来そうな♪♪~♪
 という全3曲、計6テイクは録音状態も含めて、確かに古臭い演奏かもしれませんが、本当にモダンジャズの元ネタが秘められた遺産でしょう。聴けば聴くほどに目からウロコです。

1948年10月11日録音:ハワード・マギーのオールスタアズ
 B-1 Double Talk (alternate)
 B-4 The Skunk (alternate / LP master)
 B-5 Boperation (Blue Note 558-B)
 これも楽曲としては既にSPや10インチ盤で発表されていましたが、ここに収録された中の2つが初出という嬉しいプレゼント♪ メンバーはハワード・マギー(tp,p)、ファッツ・ナバロ(tp)、アーニー・ヘンリー(as)、ミルト・ジャクソン(vib,p)、カーリー・ラッセル(b)、ケニー・クラーク(ds) というビバップ野郎が集結しています。
 まず「Double Talk」は如何にもビバップという狂騒の中で秘術を尽くしたハワード・マギーとファッ・ナバロのトランペット対決が展開されます。尖鋭的なのがマギー、ソフトなフレーズを使うのがナバロでしょうか。意外にも本格的なミルト・ジャクソンのピアノ、シャープなアーニー・ヘンリーという共演者も好演で、とても残り物とは思えない出来だと思います。
 また「The Skunk」も別テイク扱いは勿体ない優れた演奏で、全篇にモダンジャズ特有のグルーヴィな雰囲気が横溢していますが、ファッツ・ナバロのスタイルには明らかにスイング系のノリも散見されるという温故知新が楽しいところ♪
 そして「Boperation」はファッツ・ナバロが書いた凝り過ぎのビバップテーマが暑苦しい感じですが、アドリブパートの展開も難しい雰囲気で、これはリアルタイムでも相当に前衛だったんじゃないでしょうか? ちなみにこの曲は最初、SPの片面として発売され、そこにカップリングされたのはセロニアス・モンク(p) の演奏でしたから、さもありなんですね。

1949年8月8日録音:バト・パウエルのクインテット
 B-2 Bouncing Wiht Bud (alternate-1)
 B-3 Dance Of The Infidels (alternate)
 ジャズ史的にも有名なパド・パウエルのセッションから、別テイクが2曲の初公開! これは当時も事件だったんじゃないでしょうか。メンバーはファッツ・ナバロ(tp)、ソニー・ロリンズ(ts)、パド・パウエル(p)、トミー・ポッター(b)、ロイ・ヘインズ(ds) という、硬軟自在の名手達です。
 とにかくビバップ真っ只中の決定的な演奏は、緊張感とハードな雰囲気、グルーヴィなモダンジャズ特有のノリ、さらに創造性に溢れた名演とした言えません。一端は不採用とされたテイクがここまでの出来なんですから、何度聴いても唖然とさせられますねっ!
 ファッツ・ナバロはもちろん快演で、「Bouncing Wiht Bud」ではソニー・ロリンズのアドリブが終わるのを待ちきれない感じで滑らかに突っ込みが凄いです! しかし「Dance Of The Infidels」では、些か情緒不安定気味なところがエキセントリックな曲調には合っているという苦しい言い訳が……。
 一説によると、ファッツ・ナバロとパド・パウエルは犬猿の仲だったとか!? お互いの自意識過剰がジャズという個人主義の芸能には好結果をもたらしたのでしょうか。ただしファッツ・ナバロに限っては、「Dance Of The Infidels」のマスターテイクの方が圧倒的に素晴らしいと思います。

ということで、決してリラックスして聞ける演奏ばかりではありません。もちろんアルバムとしてのLP片面の流れはそれなりに工夫してありますが、あくまでもスピーカーと対峙して勝負する気構えが必要かもしれません。

しかしモダンジャズという、ある種の「鑑賞用音楽」であれば、それも楽しみのひとつではないでしょうか。たまさかの休日には、こんな贅沢も許されるでしょう。

あっ、お彼岸のお墓参りに行かなければ!

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レイ・ブライアントの黒光り

2008-09-19 16:36:28 | Jazz

Ray Bryant Trio (Epic)

レイ・ブライアントもまた、歴史的に云々されるようなピアニストではありませんが、広くジャズ者の心を掴んで放さない人気者でしょう。というよりもジャズに留まらない大衆的なヒット盤さえ出しているわけですから、そのあたりが、例えば天の邪鬼なサイケおやじには、ちょいと虚心坦懐になれない部分です。

しかし実際にレイ・ブライアントのピアノが流れてくれば、やっぱりジャズって良いなぁ~♪ と思わざるをえないのですから、いやはやなんとも自己矛盾ですね。

さて、このアルバムはレイ・ブライアントの初リーダーアルバムとされる人気盤♪ 選曲が抜群なんですよねぇ~♪

録音は1956年4~5月、メンバーはレイ・ブライアント(p) 以下、ワイアット・ルーサー(b) を要に、ケニー・クラーク(ds)、ジョー・ジョーンズ(ds)、オシー・ジョンソン(ds)、キャンディド(per) という頑固一徹な名人が参加しています――

A-1 Cubano Chant (1956年5月3日録音)
 レイ・ブライアントといえば、まずはこれっ♪ というオリジナルの大名曲ですから、ライブの現場はもちろんの事、これまでに公式レコーディングも幾つか残されていますが、これこそ正真正銘の初出バージョンだと思われます。
 哀愁が滲むエキゾチックなメロディとラテンビートの泣ける融合は、聴くほどに味わい深く、キャンディドのパーカッションも本当に効果的♪
 アドリブパートでの快適な4ビート、転がりまくるレイ・ブライアントのピアノからは素敵なメロディが連続放射されるのでした。

A-2 Off Shore (1956年4月3日録音)
 ほとんど知らない曲タイトルですが、メロディそのものは、どっかで聞いたこのがあるような、とにかく「泣き」が効いています。そしてレイ・ブライアントは繊細にして黒っぽいタッチでテーマを変奏しているだけなんですが、これがクセになる大名演♪

A-3 Well, You Needn't (1956年5月11日録音)
 セロニアス・モンクが書いたエキセントリックなメロディも、レイ・ブライアントが弾けば、ちゃ~んと和みが漂いますから流石です。
 というか、ハードなスイング感と小粋なフィーリングの巧みな融合が独自の黒っぽさを醸し出しているようです。オシー・ジョンソンのブラシも気持ち良いですよ♪

A-4 Cry Me A River (1956年4月3日録音)
 これまた「泣き」が入った人気曲♪ それをレイ・ブライアントが弾いてくれるだけで、満足してしまう隠れ名演です。あぁ、このテーマメロディの思わせぶりな解釈、グッと粘っこいビート、それでいて非常にお洒落なフィーリング♪ たまらない世界です。
 アドリブ無くても、ジャズはジャズ!

A-5 In A Mellow Tone (1956年5月3日録音)
 デューク・エリントンが書いたジャズっぽくてリラックスしたリフが、レイ・ブライアントのスイング感と絶妙にマッチしています。さり気なく弾かれるテーマからグルーヴィなアドリブパートへの流れは、サポートメンバーとの息もぴったり♪
 ワイアット・ルーサーのベースソロも歌心の塊です。

A-6 You'er My Thrill (1956年5月3日録音)
 地味ながら味わい深いメロディが素敵なスタンダード曲で、こういう演目を選ぶあたりにレイ・ブライアントのセンスが窺えます。
 実際、シンミリとして心に沁み入るピアノの響き、中盤の力強い展開、ジワジワと盛り上げるクライマックスまで、本当に上手く組み立てられていると感じますが、それほどの計算高さは無いと信じております。

B-1 A Night In Tunisia (1956年5月3日録音)
 B面ド頭は再びキャンディドが参加した楽しいアフロハードバップ! 調子が良すぎるリズムへのノリ、分かり易いアドリブというレイ・ブライアントが十八番とする見本のような仕上がりだと思います。テキパキと転がるピアノが、本当に気持ち良いですよ♪

B-2 Goodbye (1956年4月3日録音)
 ペニー・グッドマンが自身のライブでお別れの曲に使っていた感傷的なメロディということで、これもレイ・ブライアントならではの小癪な選曲だと思います。
 しかもここでは素直にメロディを弾くだけの演奏から、限りなくジャズへの愛着が感じられるという、これは贔屓の引き倒しにはなっていないでしょう。聴いていただければ、万人が納得されると思います。 

B-3 Philadelphia Bound (1956年4月3日録音)
 溌剌としたスイング感が徹頭徹尾楽しめるアップテンポの快演です。ケニー・クラークのブラシも素晴らしく、短いながら爽快感がいっぱいです。

B-4 Pawn Ticket (1956年5月11日録音)
 これが如何にもというレイ・ブライアントのオリジナル曲で、つまりは自身が十八番のアドリブフレーズを使いまわしたようなテーマが痛快です。まさに4ビートの楽しさが実感出来る演奏で、もちろんオシー・ジョンソンのブラシも大活躍♪

B-5 The Breeze And I / そよ風とわたし (1956年5月3日録音)
 あまりにも有名なラテンの名曲を臆面もなく演じてしまうレイ・ブライアントは流石だと思いますねぇ~♪ ただし無理にジャズっぽくしようとしたアレンジがイマイチでしょうか……。
 それでも4ビートで展開されるアドリブパートには歌心とジャズ魂がいっぱい♪ これがレイ・ブライアントの「らしい」姿なんでしょうねぇ~。

B-6 It's A Pity To Say Goodnight (1956年5月11日録音)
 オーラスは小粋で楽しいレイ・ブライアントの本質が存分に発揮された名曲名演です。いゃ~、こういうのを聴いているとジャズって本当にやめられないと思いますねっ♪ テーマメロディのそこはかとない哀愁とレイ・ブライアントの溌剌としたピアノタッチのミスマッチが、実に素敵だと思います。

ということで、ほとんどの曲が3分前後の短さですが、LP片面の流れも良く、アッという間に聴き終えてしまうアルバムです。なにしろ演目が良いですからねぇ~♪

レイ・ブライアントはこの時、二十代半ばだったと思われますが、既にして洗練された雰囲気と黒っぽい感性をしっかりと身につけているのは、驚きとしか言えません。スタイルとしては、なかなか融通のきくタイプでしょうが、頑固さも一筋縄ではいかないところが感じられますし、すると後年の大衆路線も決してお仕着せではなかったんでしょうねぇ。

ジャケット同様、黒光りするレイ・ブライアントに乾杯!

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ゴルソン&ウイスパー・ノット

2008-09-18 16:55:24 | Jazz

Benny Golson's New York Scene (Contemporary)

ベニー・ゴルソンといえばハードバップの代表選手のひとりですが、本来のテナーサックス奏者よりは作編曲家としての評価が高いのは言わずもがなでしょう。まあ、個人的には、その日の気分しだいで、あのモゴモゴゴリゴリのテナーサックスも捨て難いという思いもあるのですが、やはり、そのプロデューサー的な感覚や演奏の現場監督としての働きのほうに、より大きな魅力があるミュージシャンだと思います。

さて、このアルバムはベニー・ゴルソンが上昇期にあった1957年の録音で、しかも発売が西海岸の有名レーベル「コンテンポラリー」というのが驚きです。

ご存じのように、当時のコンテンポラリーは西海岸を拠点に、所謂「ウエストコーストジャズ」と称される一派を主力商品にしていましたから、それが一転、ここではタイトルどおり、ニューヨークをメインに活動しているバリバリのハードパッパーが集結した作品なのです。

このあたりは当時、グングンと注目を集めていたベニー・ゴルソン、そして主流となっていた黒人系ハードバップのアルバムを作りたいという会社側の思惑なのか、あるいはベニー・ゴルソンからの売り込み企画だったのか、ちょっと判然としませんが、同社にしては珍しいニューヨーク録音作品というのも、ミソになっています。そして原盤裏の記載によれば、監修は高名なジャズ評論家のナット・ヘントフであり、コンテンポラリーの「らしい」音を作っていた録音技師のロイ・デュナンも関わっていません。

メンバーはベニー・ゴルソン(ts,arf) 以下、アート・ファーマー(tp)、ウイントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、チャーリー・パーシップ(ds) というクインテットをメインに、曲によってはジミー・クリーヴランド(tb)、ジジ・グライス(as,arr)、サヒブ・シハブ(bs)、ジュリアス・ワトキンス(frh) から成るホーンセクションが加わっています。

ちなみに録音日は1957年10月14&17日とされていますが、これには異説もあるようです――

A-1 Something In B Falt (1957年10月17日録音:Quintet / Gigi Gryce arr.)
 アルバム冒頭を飾るに相応しい景気の良いアップテンポのハードバップで、全員のハッスルした演奏が実に爽快です。メリハリの効いたバンドアンサンブルのアレンジは、ペニー・ゴルソンの盟友だったジジ・グライスというのもミソでしょうねぇ~。
 そしてアドリブパートではベニー・ゴルソンが直線的にツッコミを入れれば、アート・ファーマーは完ぺきなリップコントロールによるソフトな音色と歌心満点のフレーズで、まさに「モダンジャズのトランペットが、ここにあり!」の名演を聞かせてくれます。
 またウイントン・ケリーのファンキーなノリも実に楽しく、リズム隊が些かガサツな録音の所為でしょうか、逆に妙な存在感として印象に残ります。 

A-2 Whisper Not (1957年10月14日録音:Nonet / Benny Golson arr.)
 これはお馴染み、ペニー・ゴルソンが畢生の名曲ですから、このアルバムでもお目当ての演奏でしょう。ここでは特にホーン隊を増員して、あの「ゴルソンハーモニー」と呼ばれる柔らかでハードボイルドな雰囲気が、たっぷりと楽しめます。特にジュリアス・ワトキンスのフレンチホーンが一層にソフトな情感を盛り上げていると感じます♪
 もちろん作者自身のアレンジも冴えまくりで、出し惜しみのないキメのリフやカウンターのメロディ、味わい深いハーモニーが素晴らしく、当然ながらメンバーのアドリブも最高! 忍び泣くジジ・グライス、場の雰囲気を大切にしたジミー・クリーヴランド、美メロしか吹かないアート・ファーマー、そして抑えきれない心情吐露のベニー・ゴルソン♪
 もはや二度と再現不能という名演で、数多あるこの名曲の決定的なバージョンかもしれません。私は大好きです、と愛の告白♪

A-3 Step Lightly (1957年10月17日録音:Quintet / Benny Golson arr.)
 確かこの曲は、マックス・ローチとクリフォード・ブラウンのバンドでも演じられていたハードバップの隠れ名曲で、そのファンキーでメロウな味わいは絶品! もちろんここでのバージョンも特級品です。
 アート・ファーマーのミュートが歌心を秘めて咽び泣きすれば、ベニー・ゴルソンのテナーサックスは、どこまでも雰囲気を大切にしていますし、チャーリー・パーシップのハードエッジなドラミングも素晴らしい限りです。さらにウイントン・ケリーのファンキー節が、これまた辛抱たまらん状態なんですねぇ~♪ ポール・チェンバースのベースも強靭な名演でしょう。
 あぁ、ハードバップ、最高!!
 ペニー・ゴルソンのアレンジも実に気が利いています。

B-1 Just By Myself (1957年10月14日録音:Nonet / Ernie Wilkins arr.)
 これも有名なベニー・ゴルソンのオリジナル曲ですが、ここでは中型編成のバンドで演奏され、しかもアレンジがカウント・ベイシー楽団も手掛けていたアーニー・ウイルキンスなんですから、一味違います。
 結論から言えばハードバップというよりも、モダンスイングとウエストコーストジャズの奇妙な融合という感じに聞こえますが、演奏しているメンバーがバリバリですから、結果オーライかもしれません。
 ベニー・ゴルソンがモゴモゴと咆哮すれば、アート・ファーマーが安心印のアドリブ、さらにジジ・グライスとジミー・クリーヴランドが短いながらも個性を披露して、これも楽しい演奏になっています。

B-2 Blues It (1957年10月17日録音:Quintet / Benny Golson arr.)
 おぉ、これは日活アクションモードのハードボイルドパップ♪ グルーヴィなノリ、ビシッと決まるキメのリフ、そして何よりもカッコ良いモダンジャズの保守本流という響きが、たまりません。
 アドリブパートではアート・ファーマーのソフトな黒っぽさが素晴らしく、粘っこいリズム隊のグルーヴも最高ですから、ペニー・ゴルソンの内に秘めた闘志というようなテナーサックスが黒光りする名演になっています。
 既に述べたように、このセッションの録音は些かガサツな雰囲気で、当然ながらモノラルミックスなんですが、こういう曲調になるとドラムスの残響音やベースの存在感、些か安っぽいピアノの鳴りそのものが、なおさらに愛おしいのでした。

B-3 You're Mine You (1957年10月17日録音:Quartet)
 あまり有名ではないスタンダード曲ですが、その素敵なテーマメロディがベニー・ゴルソンのソフト&オールドなテナーサックスで奏でられると、その場はすっかり、ジャズの桃源郷♪
 実際、ある種のムードが満点ながら、甘さに流れるギリギリのところで静かに情熱を滾らせるベニー・ゴルソンは、やはりテナーサックス奏者としても一流の証を聞かせてくれます。
 それとウイントン・ケリーが、こういうバラード物で聞かせる世界も実に良い感じですね。
 後半のアドリブからラストテーマの変奏に流れていくベニー・ゴルソンの裏ワザも流石♪

B-4 Capri (1957年10月14日録音:Nonet / Gigi Gryce arr.)
 オーラスはジジ・グライスの作編曲となるビバップ系の快演曲で、確かJ.J.ジョンソンも演奏していたと記憶していたら、原盤裏ジャケット解説にも書いてありました。
 そしてアップテンポで繰り広げられるベニー・ゴルソンとアート・ファーマーのアドリブはゴキゲンの一言! ジジ・グライスも灰色の感性で健闘していますし、チャーリー・パーシップのドラムスも、ここぞという瞬間では暴れを聞かせてくれるのでした。

というアルバムは、例の「ジャズテット」の予行演習でもあり、またジジ・グライスが当時率いていた「ジャズ実験室」の理想型という感じですから、これは極めて纏まった優れものだと思います。

まあ、そのあたりのソツの無さがイマイチ評価されていない気がしています。ジャズガイド本にも掲載されるようなブツではないでしょう。

しかしアート・ファーマーの快演、ペニー・ゴルソンのヤル気、またリズム隊のハードエッジな雰囲気が絶妙の熱気を生み出し、全体のアレンジも冴えた名盤だと、私は思っています。

特にA面の3曲はハードバップのたまらない魅力に満ちていますよ。

欲を言えば、これがロイ・デュナンのすっきりした録音だったらなぁ~、と思う時もありますが、やはり黒人ハードバップはニューヨークとか「東海岸系の音」でこそ、真髄が楽しめるのかもしれません。

コメント (2)
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吼えろミンガス!

2008-09-17 17:05:33 | Jazz

下げる頭が幾つあっても足りない……、という1日でした。

ということで、本日は――

Oh Yeah / Charlie Mingus (Atlantic)

チャールス・ミンガスと言えばジャズ界では最も強面な親分というイメージでしょう。実際、「怒りミンガス」とさえ呼ばれるほど、常に暴虐的なエネルギーに満ちた演奏、そのラディカルな姿勢は、黒人音楽文化に深く根ざしていますから、ミンガス組が吐き出す「音」と「熱気」はモダンジャズのひとつのスタイルとして圧倒的です。

もちろん、そこに集められる子分達も筋金入りの曲者揃い! というか、生半可な実力と根性では、とてもバンドレギュラーは務まらないのが本当のところでしょう。ヘマをやらかして殴られた、破門同様に叩き出された者は伝説化したエピソードになっているほどです。

さて、このアルバムは、そんなミンガス親分が絶頂期に作った特異な人気盤♪ 何故「特異」かといえば、親分が何時もの担当楽器であるベースを弾かず、歌とピアノに専念しているからで、つまりは雰囲気作りとリーダーシップに精力を傾けているというわけです。

録音は1961年11月6日、メンバーはチャールス・ミンガス(vo,p) 以下、ジミー・ネッパー(tb)、ブッカー・アーヴィン(ts)、ローランド・カーク(ts,fl,manzello,stritch)、ダグ・ワトキンス(b)、ダニー・リッチモンド(ds) というアクの強い面々です――

A-1 Hog Callin' Blues
 いきなりミンガス流の「ハナモゲラ語」、続いてゴンゴン響くピアノが鳴りだして始まるのが、この「豚鳴きのブル~ス」です。曲そのものは8小節のリフなんですが、ホーン隊の味な真似が効いていますから、気分は完全に混濁のハードバップ!
 アドリブソロはローランド・カークがテナーサックスでブキー、ブキーと豚鳴きすれば、背後ではジミー・ネッパーのトロンボーンやミンガス親分の掛け声と叱咤のピアノが呻き、蠢きます。
 そしてついにはローランド・カークが驚異的なノンブレス奏法も使いながら激ヤバの世界を作ってしまうんですねぇ~♪ 本当にバンドが一丸となって豚小屋の喧噪を作り出していきます。
 豚は太るか、死ぬしかない!
 野太いリズム隊のグルーヴも圧巻!

A-2 Devil Woman
 これまたミンガス親分がピアノの弾き語りで、訳わからずの呻き歌! そしてグリグリに熱いブル~スの演奏が、スローで混濁したリズム&ビートで演じられます。
 ミンガス親分のピアノは決して上手いとは言えませんが、完全な味の世界で、気分は真っ黒! そしてローランド・カークのテナーサックスが伝統と不条理のラフミックスならば、ブッカー・アーヴィンは何時ものようにドロドロのヒステリック節です。
 あぁ、これもハードバップの極北でしょうねぇ~~♪
 なんて思っていたら、ジミー・ネッパーが幾分モゴモゴした音色で、棒読み台詞のようなブル~スを聞かせてくれるのでした。
 いや、実際、なんとも「ぶるうすなブル~ス」だと思います。

A-3 Wham Bam Thank You Ma'am
 全然、意味不明の曲タイトルですが、原盤裏解説によればマックス・ローチの口癖のようです。そして演奏は、ど真ん中の過激なミンガス流ハードバップ!
 分厚いホーンアンサンブル、ビシバシに容赦の無いリズム隊、そしてブリブリに突進するアドリブパートに熱くさせられます。ブッカー・アーヴィンの直線的なテナーサックスとローランド・カークのツボを外さないストリッチの対決が実に良いですねぇ~。ちなみに「ストリッチ」というのはローランド・カークが独自に開発したソプラノサックスとクラリネットのハーフみたいな楽器です。

B-1 Ecclusiastics
 ちょっとした哀感も漂うミディアムテンポの混濁ジャズです。
 と言っても、難解なところ無く、ミンガス親分が弾く妙な味わいのピアノが楽しめます。いや、実際、何とも言えませんねぇ~。ちなみにミンガス親分はピアノに専念した「Plays Piano (Impulse!)」なんていう珍盤(?)も作っているほどです。
 またローランド・カークが複数管楽器同時吹きという得意技を披露! バックのリズム隊との息もバッチリという快演を披露していますよっ♪
 う~ん、それにしても終始、「オ~、ヤ~」と叫び続けるミンガス親分の存在感は抜群!

B-2 Oh! Lord Don't Let Them Drop That Atomic Bomb On Me
 「神様、原爆を落とさないで」という、かなり意味深なタイトルの蠢きゴスペルジャズです。
 そしてアドリブパートではシンプルにして熱気溢れるミンガス親分のピアノ、ローランド・カークの特殊アルトサックスという、マンゼロが聞かれますが、背後から迫ってくる倦怠したホーンアンサンブルとの融合も、実に気持ち良いですねぇ~。

B-3 Eat That Chicken
 これは一転してドタバタと楽しい歌と演奏で、気分は完全にスイング&ディキシー♪ 意味不明の歌詞を歌うミンガス親分に調子を合せる子分達、特にジミー・ネッパーは潔い快感トロンボーンを披露しています。
 また伝統の再現に専念するローランド・カークも素晴らしく、ご存じのように、この盲目のジャズメンの才能と耳の良さには敬服する他はありません。

B-4 Passions Of A Man
 そしてオーラスは音のツギハギというか、フリージャズと言うか、ほとんど楽しくない演奏です。ミンガス親分の「ハナモゲラ語」もホラー映画の効果音か下手な漫談のように聞こえますし、ジャズにはお約束のアドリブパートだって明確にはありません。
 う~ん、???

というアルハム、最後はちょいと煮え切りませんが、それでもミンガス流のモダンジャズが楽しめる傑作だと思います。特にA面は良いですねぇ~。体の中からエネルギーが湧いてくるというか、中でも「Hog Callin' Blues」なんか朝一番に聴くと、今日も豚小屋のように騒がしい現実で頑張ろうという気力が蘇るのでした。

蘇る勤労意欲! ミンガス親分に感謝です。

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秋吉敏子の一途な情熱

2008-09-16 16:11:18 | Jazz

仕事場周辺を走り回る某野党の宣伝カーが、うるさいっ! 近くの学校の運動会の練習も、うるさいっ! こういう時って、闇雲にフリージャズでも聴きたくなり気持ちが分かりますね。

しかし私は、これを聴きました――

Toshiko Mariano Quratet (ニッポン・レコード / takt)

我が国を代表すると言うよりも、今やジャズの世界では偉業を成し遂げた女性ピアニスト&作編曲家という秋吉敏子は、戦後の混乱期からモダンジャズに人生をかけ、若くして渡米、そして光と陰の紆余曲折があって、今日に至りました。

その間、一番苦しかったのが1960年代であったろう事は、彼女自らの著作でも窺い知れますが、しかしジャズに対して決して諦めない情熱は、彼女が残した全てのレコーディングに聞かれます。

さて、このアルバムは1963年に一時帰国していた際に吹き込まれた隠れ人気盤♪ なにしろメンバーが当時の夫だったチャーリー・マリアーノ(as)、秋吉敏子(p,arr)、ジーン・チェリコ(b)、アルバート・ヒース(ds) という豪華なレギュラーバンドだったのですから!

ちなみに録音は1963年3月30日、東京で行われていますが、実はこのセッションを企画制作したのは大阪にあったニッポン・レコードという会社だそうです。残念ながら私は、そのオリジナル盤を見たことも、聴いたこともありませんが、後にタクトレコードから再発されたのが、このアルバムです。しかも中心となる演目が、有名ミュージカル「ウエストサイド物語」からの選曲♪ まったくニクイ企画です――

A-1 Tonight
 なんともスッキリした演奏で、あの有名なメロディが飛び出してくるあたりが快感というか、違和感というか……。しかし秋吉敏子のアドリブは、基礎となったパド・パウエルのスタイルから抜け出そうとする努力が新鮮です。
 またチャーリー・マリアーノは白人ながらエモーションに満ちたアルトサックスが実にカッコ良く、流石の実力を披露していますし、アルバート・ヒースのメリハリの効いたドラムス、さり気なく凄いことをやらかしているジーン・チェリコにも、ハッとさせられるのでした。

A-2 Something Coming
 秋吉敏子のピアノソロをメインにした繋ぎ的な演奏です。実際、あの有名なテーマメロディを変奏しているだけという短いパートで、このあたりは全体を組曲形式にアレンジした表れでしょうか。しかし、なかなか力強いピアノタッチには圧倒されます。

A-3 America
 そして今度はカルテットによるアップテンポの熱い演奏となり、チャーリー・マリアーノのアルトサックスが情熱的に泣きじゃくります。リズム隊とのコンビネーションが些か荒っぽいところもそれが逆にスリルに転嫁した、まあ結果オーライの部分が如何にもジャズっぽいという言い訳も聞こえてきますが、私は気に入っています。
 う~ん、それにしてリズム隊のドライブ感、特にジーン・チェリコは暴走しすぎという雰囲気ですが、アルバート・ヒースも怖いドラミングですし、秋吉敏子の過激な姿勢にも熱くさせられますねぇ~♪
 ちなみに付属解説によれば、当時の彼女は妊娠中だったとか!? こんなん胎教に良いんでしょうか? まあ、それでこの世に誕生したのが秋吉満ちる、ですから♪

A-4 Maria
 一転してチャーリー・マリアーノが静謐に歌い上げるスローな演奏で、じっくりと構えた感情表現が素晴らしいかぎり! ジワジワと染み込んでくる音選び、激情爆発のフレーズ、硬軟自在という音色の妙、流石は超一流の実力を遺憾なく発揮した名演だと思います。
 幻想的な伴奏を聞かせる秋吉敏子も素敵ですねっ♪

B-1 Cool
 B面ド頭は、これも「ウエストサイド物語」では有名すぎる名曲を新感覚のハードバップで表現した演奏で、テンションの高いテーマアンサンブルに続き、アルバート・ヒースの熱いドラムソロが炸裂します。この絶妙のタイム感覚は、当時の第一線という証でしょうねぇ~。

B-2 Fraisir D'amour
 これは「ウエストサイド物語」とは関係ない楽曲で、どっかで聴いたことがあるようなフランス風のメロディがテーマになっていますが、メインとなる演奏は緩急自在のモダンジャズ! ドラムスとベースが共謀して作り出すグルーヴが物凄く、特にアルバート・ヒースのブラシが生々しい躍動感です。
 そして秋吉敏子のピアノが、これまた凄い! 豪快なノリとスイング感、斬新な音選び、そして繊細にして豪胆なピアノタッチの素晴らしさ!! 何度聴いても圧巻です。

B-3 Malaguena
 チャーリー・マリアーノが激情を爆発させた快演! 演目はお馴染み、ラテンの名曲ですが、それを熱いモードで焼き直した展開が強烈に脂っこく、アルバート・ヒースの猛烈なラテンビートが興奮を煽ります。
 いゃ~、それにしてもこんな尖鋭的な演奏が当時の日本で録られていたというのは驚きで、それはつまり、このバンドの先進性の証でもありますが、リアルタイムの我が国では受け入れられたのでしょうか……? 本場アメリカでさえ、ちょっと……、という感じです。
 とにかくバンド全員のハッスルぶりは凄いの一言です。

B-4 Oleo
 オーラスはソニー・ロリンズが書いたハードバップの聖典曲ですから、秋吉敏子以下のバンドメンバーがモダンジャズ王道の演奏を聞かせてくれます。中でもアルバート・ヒースのドラミングは流石の物凄さ! 秋吉敏子もパド・パウエルが新主流派したような突進ぶりが微笑ましく、バンドアンサンブルも纏まっています。
 ただし残念ながらチャーリー・マリアーノのアドリブが無いという演奏時間の短さが勿体ないところです。

ということで、なかなか激しく、そして緊張と緩和が潔いアルバムだと思います。気になる録音状態もステレオミックスで、とにかくアルバート・ヒースのドラムスが素晴らしく良く録れていますし、ジーン・チェリコのペースにも存在感があります。ただし秋吉敏子のピアノが、やや薄いミックスなのが残念といえば、残念ですが……。

このあたりは実際のライブステージの音作りを活かした音作りかもしれません。十人十色の感性でしょうね。

しかし中身の凄さとは逆に、当時の日本では進み過ぎていたのでしょう。秋吉敏子の才能を活かしきる仕事は無かったようです。そして再び渡米しての活動となるのですが、その本場でさえ現実は厳しく……。

今となっては、そういう苦闘の時期さえも乗り越えて輝く秋吉敏子のエネルギッシュな魅力が楽しめるアルバムではありますが、逆に言えば大衆性を失いつつあった当時のモダンジャズを、なんとかせなあかん、というような意気込みが素晴らしいと思います。

しかし残念ながら、この後の日本にはエレキブームが到来、さらにビートルズを筆頭にロックの大津波が襲来し、我が国の大衆音楽はGSが一番人気となったのは、皆様がご存じのとおりです。

そしてその端境期に残された最高にヒップなジャズは、このアルバムに記録されたのではないでしょうか。

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ソニー・クラークのアンチ偽装盤

2008-09-15 17:11:07 | Jazz

今日は「敬老の日」、しかし私は親孝行もせず、仕事に忙殺され……。若い者には煽られるし、疲れきって反省もしていない始末でした。

という本日は――

Sonny Clark Quintets (Blue Note / 東芝)

日本でのソニー・クラークは人気ピアニストとして屈指の存在ですが、その決定版は、ご存じ「Cool Struttin' (Blue Note)」でしょう。これぞファンキーハードバップの聖典として、何時までも聴き飽きない名盤だと思います。

そしてそこに未発表の演奏があったなら!? という夢が叶った大事件のアルバムが、これです。オリジナルデザインを巧みに活かしたジャケットの稚気も最高ですねっ♪ ちなみに発売は我が国優先だったようです。

ただし結論から言えば、その「続・Cool Struttin'」はA面の2曲だけでした。しかしB面に収められた別なメンツによる3曲が、これまた素晴らしく、まるっきり「新・Cool Struttin'」とも言うべき、プログラムピクチャー王道のような仕様が実に楽しいところです――

1958年1月5日録音 /「Cool Struttin'」未発表演奏
 A-1 Royal Flush
 A-2 Lover
 メンバーは今更の説明は不要かと思いますが、アート・ファーマー(tp)、ジャッキー・マクリーン(as)、ソニー・クラーク(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) という不滅の5人組♪ やっばり、この名前にはワクワクさせられますねぇ~。
 肝心の演奏は、まずド頭の「Royal Flush」からして翳りを帯びた「ソニクラ節」のテーマメロディが嬉しいところ♪ 実はこれ、このセッションから2年後の1960年3月に録音・制作されたソニー・クラークが畢生のピアノトリオ盤「Sonny Clark Trio (Time)」では、「Nica」というタイトルで親しまれていた名曲ですから、それがこのメンツで! というだけでたまりませんねっ♪ 調子の良いフィリー・ジョーのドラミングに煽られて青春の情熱を滾らせるジャッキー・マクリーン、柔らかなソフトファンキーで歌心を優先させたアート・ファーマー、もちろんソニー・クラークはちょいとネクラなアドリブメロディで、控え目ながらファンキーな「節」を聞かせてくれます。どっしり構えたポール・チェンバースも地味に良いですねっ♪
 そして続く「Lover」は急速テンポで演じられる事が多いスタンダード曲ですが、ここではテーマにちょっとしたお遊びアレンジも楽しい名演になっています。もちろんアドリブパートは猛烈な4ビート大会で、ジャッキー・マクリーンが些かトンパチに突進すれば、アート・ファーマーも流麗なフレーズの連続技で勝負! リズム隊の躍動感も流石だと思います。これがハードバップですねぇ~~♪ しかし肝心のソニー・クラークが本格的なアドリブを聞かせてくれないのは減点です。まあその分、フィリー・ジョーが豪快なドラムソロを披露しているのですが……。

1957年12月8日録音 / 未発表セッション
 B-1 Minor Meeting
 B-2 Eastern Incident
 B-3 Little Sonny
 冒頭で「新・Cool Struttin'」なんて書きましたが、実はこちらの方が約1か月前に録られていたセッションで、もちろんオクラ入りしていた音源です。
 メンバーはクリフ・ジョーダン(ts)、ケニー・バレル(g)、ソニー・クラーク(p)、ポール・チェンバース(b)、ピート・ラロッカ(ds) という、こちらもなかなかの曲者揃い♪
 まず何と言っても「Minor Meeting」でしょうねぇ、前述した「Sonny Clark Trio (Time)」ではトリオでの演奏として決定版が残されていますが、ここでのソニー・クラークも実にたまらない「ソニクラ」節の大洪水♪ ファンキーなマイナーメロディが存分に楽しめます。また続くケニー・パレルが、そのアドリブへの入り方が奇跡の一瞬という感じで、本当にゾクゾクさせられます。クリフ・ジョーダンも好演ですし、ソニー・クラークは再度のアドリブパートまで演じるという大サービス♪
 続く「Eastern Incident」はタイトルどおりというか、些か勘違いな中華メロディが??? もちろんアドリブパートは典型的なハードパップなんですが……。そういうモヤモヤをブッ飛ばすのがオーラスの「Little Sonny」で、ケニー・バレルの熱演を筆頭に、アップテンポの爽快さにシビレます。本領発揮のクリフ・ジョーダン、そしてファンキーに突っ走るソニー・クラークという出来栄えからして、これの続篇も期待したのですが……。

ということで、なかなかジャズ者の琴線を刺激するアルバムです。やっぱり名演名盤の未発表物は強いということでしょうね。既に述べたようなジャケットの魅力というか、洒落になっていないデザインもキッチュじゃないでしょうか。

現在では収録音源の全てがCD化されていますが、やはりこのアナログ盤ジャケットの魅力は絶大で、こういうブツを作ってしまった日本のレコード会社の遊び心と商売魂には敬服するしかありません。

世の中、様々な「偽装」がまかり通っている昨今、しかしこれは大歓迎なのでした。

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夜通しオールスタアズ

2008-09-14 17:40:52 | Jazz

飛行機のトラブルか、仕事のスケジュールが狂った感じで、待ち人来たらず……。今はケイタイの時代でしょう。そんなんじゃ、人望無くするよぉ~。

ということで本日は――

All Night Long (Prestige)

ジャズの醍醐味のひとつにアドリブ合戦があるのは言わずもがな、それをレコード化して発売するのは業界の王道です。しかし制作が比較的容易な反面、その場のリラックスした雰囲気と緊張感を両立させた作品は、それほど多くありません。

そのあたりはプロデューサーの手腕、現場の仕切る者の人望と度量、さらに参加ミュージシャンのその日のコンディション等々が大きく関与するのかもしれませんが、そういうレコーディングを得意にしていたのがプレスティッジという会社です。

実際、その手の作品をどっさり発売していた実績は無視出来ず、それがジャズの歴史の中でどうこう云われる価値とは無縁でも、間違いなく当時リアルタイムの熱気とモダンジャズ黄金期の勢いが封じ込まれたアルバムは楽しいかぎりなのです。

本日の1枚は、まさにそうした中の代表作で、録音は1956年12月28日、メンバーはドナルド・バード(tp)、ハンク・モブレー(ts)、ジェローム・リチャードソン(ts,fl)、マル・ウォルドロン(p)、ケニー・バレル(g)、ダグ・ワトキンス(b)、アート・テイラー(ds) というバリバリの凄腕達です――

A-1 All Night Long
 ワイワイガヤガヤしたスタジオの雰囲気からアート・テイラーの素晴らしいシンバルが4ビートの美学を敲き出し、ケニー・バレルがそれを受け継ぐリードのアドリブ、そしてダグ・ワトキンスの強靭なウォーキングベースが響いてくれば、その場は完全なハードバップに染まります。
 あぁ、これがジャズの醍醐味でしょうねぇ~♪ 自然体のグルーヴがハードバップそのもので、この最初の雰囲気を聴きたいがために、私はこのアルバムを取りだすほどです。
 ちなみに演奏には特に明確なテーマメロディが無く、自然発生的にケニー・バレルがペース設定のアドリブを展開し、リズム隊が快適なバックキングというツカミが本当にたまりません。
 そしてジェローム・リチャードソンが滋味豊かなフルートを聞かせれば、続くハンク・モブレーは柔らかな音色でタメとモタレの至高の芸術♪ さらにマイルド&パワフルという、まさに「モブレー節」のテナーサックスが最高です。
 またドナルド・バードの溌剌としたトランペットは、些かの力みがかえって好感を呼ぶほどですし、ダグ・ワトキンスがいろいろと仕掛けてくるリズム隊の強靭なグルーヴは、これが当たり前と思ったらハードバップ全盛期の凄さに震えがくるほどです。
 しかもジェローム・リチャードソンがハードエッジなテナーサックスを聞かせる二度目のお勤めとなるのですから、たまりません! LP片面全部を使った長い演奏ですが、各人のアドリブパートでは背後から楽しいリフが様々に聞かれたりして飽きませんし、クライマックスでのアート・テイラーをメインとしたソロチェンジも、流石の楽しさに溢れています。

B-1 Boo-lu
 ハンク・モブレーのオリジナル曲で、フルートとラテンリズムを上手く活かしたアレンジが新鮮です。
 もちろん、そのフルートを操るジェローム・リチャードソンがここでも名演を披露♪ 時折入れるヒステリックなフレーズもイヤミではなく、あくまでもハードバップの範疇という正統派の主張に徹しています。
 ちなみにアドリブパートはグルーヴィな4ビートになっていますから、ケニー・バレルの安定感、ドナルド・バードの丁寧なノリ、ハンク・モブレーの味わい深さは「お約束」ながら、アート・テイラーのドラムスが何時ものヴァン・ゲルダー録音よりは強くミックスされているので、演奏に「芯」が入ってる感じです。

B-2 Flickers
 ちょっとホレス・シルバーかハンク・モブレーが書きそうなファンキーメロディですが、実はマル・ウォルドロンの作曲!? 力強いリズムアレンジも魅力ですし、グイノリのリズム隊をリードするダグ・ワトキンスが流石の働きです。
 しかしアドリブパートは短めで、各人がいずれも好演なだけに勿体感じ……。中でもジェローム・リチャードソンのフルートが実に良いですねぇ~♪ ハンク・モブレーとドナルド・バードがソロチェンジで進めるパートも楽しいところです。

B-3 Lil' Hankie
 タイトルどおり、これもハンク・モブレーのオリジナル曲で、如何にもという、ちょっと燻ったファンキー節にグッとシビレます。 もちろんアドリブパートの先発はハンク・モブレー自身ですが、これが珍しく意気込み過ぎたというか、入り方に何時ものタメがなく、それゆえにアート・テイラーがオタオタする様子が面白いところ♪ まあはっきり言えばイモったわけですが、その後のハンク・モブレーは平常のペースを取り戻し、モブレーマニアには感涙のフレーズを連発してくれますから結果オーライ♪ と苦しい言い訳をしておきます。
 しかし続くドナルド・バードがミュートで快演を聞かせ、ケニー・バレルの張り切ったギターが続くあたりは、如何にもハードバップな日常として痛快です。
 ちなみにケニー・バレルは、これがプレスティッジに移籍しての初レコーディングでしょうか? だとすればハッスルぶりも憎めませんね♪

ということで、なかなか味わい深くて楽しいアルバムですが、録音の良さというか、その場の雰囲気がしっかりと残されているのは流石です。特にアート・テイラーのドラムスの迫力とシンバルの鳴りの良さ、ジェローム・リチャドーソンのフルートの音色等々、なかなかリアルだと思います。ギシギシと軋むダグ・ワトキンスのペースも凄いですねぇ~♪

それと特に目立つアドリブは演じていないものの、実はこういうセッションではバンマスだったと言われるマル・ウォルドロンの存在は、多分ここでもヘッドアレンジやメンバー召集に手腕を発揮しているものと推察しています。

人徳が必要なのは何もジャズに限ったことではありませんが……。

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ずぅ~と、します、1956

2008-09-13 16:27:11 | Jazz

世間は三連休! しかし私は例によって休めない……。

ということで、和みを聴いたのは――

Zoot! / Zoot Sims (Riverside)

ジャズ者にとってズート・シムズの1956年物といえば名演の代名詞になっていますが、実際、この年のセッションから作られたアルバムは快演盤ぞろい♪ 本日の1枚もそのひとつです。

録音は1956年12月13&18日、メンバーはズート・シムズ(ts,as)、ニック・トラビス(tp)、ジョージ・ハンディ(p,arr)、ウィルバー・ウェア(b)、オシー・ジョンソン(ds) という、ちょいと馴染みのない組み合せながら、そこがまたジャズ者の琴線に触れるのです――

A-1 Why Cry ?
 このセッションではアレンジも担当しているピアニストのジョージ・ハンディが提供した楽しいオリジナル曲で、快適なテンポのウキウキするテーマメロディからは古き良き時代のジャズの香りがたまらないところ♪ もちろんズート・シムズは絶好調で歌いまくりのフレーズを連ねていきます。録音の所為でしょうか、テナーサックスの音色が同時期に比べて幾分柔らかめなのも高得点♪
 トランペットのニック・トラビスはスタジオやビックバンドの仕事がメインの職人系ですが、やはり名手に違いなく、ここでも安定したアドリブを披露しています。
 またベースのウィルバー・ウェアは翌年、ソニー・ロリンズのライブ傑作盤「A Night At Village Vanguard (Blue Note)」に参加し、裏街道的な存在感を示したマニア性の高いプレイヤーですが、ここでも異端の緊張感を醸し出す役割というか、セッションに独特の味わいを持たせる起用は大正解でしょうねぇ。

A-2 Echoes Of You
 これもジョージ・ハンディのオリジナルながら、スタンダードのような素敵な味わいのスローな名曲で、メンバー全員が遺憾無く実力を発揮した演奏は本当に心に沁み入ります。
 特にズート・シムズは素晴らしい歌心、味わい深い感情表現がひとつになった大名演だと思います。仄かに甘いサブトーンの魅力も絶大ですねぇ~~~♪ 何度聴いてもシビレます。
 またニック・トラビスのトランペットが愁いの滲む音色と枯れたフレーズでジンワリとした歌心を披露して、ズート・シムズに負けない好演です。
 このあたりは、あまりに地味すぎて、ジャズ喫茶あたりではウケない演奏でしょう。しかし自宅で聴けば、これが今の時期、初秋にはジャストミートの名演だと思います。

A-3 Swim, Jim
 これがまた快適なテンポでモダンスイングの真髄に迫った心地よい演奏です。決してハードバップではない小粋な味わいがたまらないところですが、ズート・シムズのアルトサックスが意外なほどに鋭いツッコミを聞かせてくれますし、オシー・ジョンソンのシンバルワークも目立たないながら流石♪ ちなみにこの人も我が国では全く評価されていませんが、スイング期からビバップ創成期、さらにモダンジャズ全般で歌伴奏も上手い名手として、敲いたセッションでは駄演が無い、と私は思っているのですが……。

B-1 Here And Now
 そのオシー・ジョンソンのスイングしまくった最高のシンバルワークに導かれ、快適に始まるアップテンポの演奏です。些か荒っぽいテーマアンサンブルが逆に熱気を感じさせ、アドリブ先発のニック・トラビスが浮かれたような調子なら、ズート・シムズは完璧な歌心で応戦しています。
 しかしやっぱり、ここでの主役はドラマーのオシー・ジョンソンというのが、天の邪鬼なサイケおやじの気持ちです。メリハリの効いた伴奏からクライマックスのソロチェンジまで、ハッとするほど良い感じ♪ 裏街道っぽいペースワークを聞かせるウィルバー・ウェアとのコンビネーションもバッチリです。
 
B-2 Fools Rush In
 哀愁系のスタンダード曲ですから当然、ズート・シムズはスローな解釈で誠心誠意の歌心を聞かせます。録音の状態かもしませんが、何時もよりも幾分柔らかめに感じるテナーサックスの響き、サブトーンの鳴りそのものが既にして快感ですねぇ~♪ ちなみに録音技師は Jack Higgins とクレジットされています。
 ニック・トラビスも落ち着いたアドリブソロを聞かせてくれますし、このアルバムでは全く地味なプレイのジョージ・ハンディのピアノが、ここでは意外に素敵なアクセントになっています。

B-3 Osmosis
 一転して強烈にテンションの高いハードバップ! 刺激的なイントロからグイノリに展開される演奏では、またまたオシー・ジョンソンのシンバルが冴え、ウィルバー・ウェアの重量級ベースが変態ウォーキングで存在感をアピールしています。
 ただしそれゆえでしょうか、ズート・シムズが何時もの安定感を乱している感じで……。まあドラムスとベース中心に聴けば良いのかもしれませんが。

B-4 Takin A Chance On Love / 恋のチャンスを
 オーラスは和みの歌物スタンダード♪ スタートはちょっと曖昧な雰囲気ですが、演奏が進につれてバンドのグルーヴが安定していくところが如何にもジャズっぽい感じです。
 そしてキモとなるアドリブパートでは、ズート・シムズが得意の「節」を出し惜しみせず、ニック・トラビスにも安心感がいっぱいですが、う~ん、何かが足りないというか……。
 このあたりは贅沢というもんでしょう、きっと。

ということで、些か竜頭蛇尾という感じがしないでもないアルバムです。おそらく名盤名演が多いズート・シムズの作品中では、それほどの高評価ではないかもしれませんが、しかしやっぱり「1956年物」の味わいは絶品! これほどのモダンジャズが現代で作れるかと問われれば、答えに窮するでしょう。

気になるジョージ・ハンディの参加は、それほどの効果があるとは断言出来ませんが、原盤裏ジャケット解説によればアレンジャーとしてポイド・レイバーン楽団で働いていたとか……。きっとリアルタイムでは注目されていたのでしょう。このセッションではアルバムA面全部とB面1曲目にオリジナルを提供していますし、さりげないバンドアレンジも担当しているようですが、個人的には「Echoes Of You」が名曲名演として忘れ難いところ♪

ゆえに個人的にはA面を深く愛聴しています。

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ソニー・レッドに片思い

2008-09-12 16:50:54 | Jazz

今日は出かけた先で局地的な集中豪雨! 全然、車が動かない渋滞に巻き込まれましたが、こんな時こそ車中でジャズ三昧をきめこみました。そこで聴いたのが――

Images / Sonny Red (Jazzland)

ソニー・レッドはチャーリー・パーカー直径のアルトサックス奏者で、知名度は決して高くありませんが、なかなか味わい深い存在だと思います。というよりも、こういう人がいるからこそ、モダンジャズ全盛期は深いということでしょう。実際、このあたりのポジションには隠れた人気盤やシブイ好盤がどっさりあって、ジャズ者を一喜一憂させるのです。

さて、このアルバムは、ちょっと知的な雰囲気も漂うデザインも印象的で、録音は1961年6月(A面)と12月(B面)、それゆえにメンバーも異なりますが、なかなか豪華な面々が参加しています。

まず6月のセッションは、ソニー・レッド(as) 以下、ブルー・ミッチェル(tp)、バリー・ハリス(p)、ジョージ・タッカー(b)、レックス・ハンフリーズ(ds) というバリバリのハードバッパーが集合し、息の合ったところを聞かせてくれます――

A-1 Images
 ソニー・レッドが書いたアルバムタイトル曲で、おぉ、これは有名スタンダード「Speak Low」のモード的展開というか、クールで熱い、カッコイイ演奏です。ジョージ・タッカーの淡々としたベースもエグイ存在感を示していますねぇ。
 アドリブに入っては先発のブルー・ミッチェルが戸惑いながらも「らしい」フレーズを聞かせてくれますし、バリー・ハリスは何を弾かせても全く上手く、ここではパド・パウエルがモードを演じたら!? という回答のひとつを披露しています。
 そして満を持して登場するソニー・レッドが、細い音色に静かな闘志を秘めて聞かせるアドリブは決して饒舌ではありませんが、新しい時代のジャズを演じているという自負が感じられます。それが例え、無理な背伸びだとしても、私には憎むことが出来ません。
 レックス・ハンフリーズのリムショットも、基本に忠実なモード演奏の手本という感じです。

A-2 Blues For Donna
 前曲とは一転、正統派ビバップの再現を狙った素直な演奏で、これこそがソニー・レッドの資質にはジャストミート! あぁ、この幾何学的なテーマメロディとテンションの高い4ビートの魅力♪ これがモダンジャズの基本という味わいが魅力です。
 もちろんソニー・レッドは本家チャーリー・パーカーのアドリブフレーズを借用しまくっていますが、ここまで徹底してくれると逆に潔い感じです。
 またブルー・ミッチェルは十八番の分かり易いアドリブフレーズ、バリー・ハリスは自然体でビバップの真髄を追求していきますが、ジョージ・タッカーだけがひとり、強靭過ぎるベースワークでファンキー&ハードバップに拘っているのが味わい深いと思います。

A-3 Dodes City
 これまたビバップ~ファンキー路線の演奏で、ソニー・レッドのオリジナルとされていますが、どっかで聴いたことがあるような……。
 まあ、それはそれとして、ソニー・レッドが生真面目にビバップを演じれば、ブルー・ミッチェルはリラックスして安直なフレーズに独特の味わいを滲ませているようです。
 そしてバリー・ハリスが素晴らしい快演! まさにこれがビバップだっ! と強烈な自己主張もありながら、実はソフトなスイング感もたまらないのでした。

さて、続く12月のセッションは、ドラムスがジミー・コブに交代し、さらにグラント・グリーン(g) が参加するという嬉しい顔ぶれになっています――

B-1 Blue Sonny
 ジョージ・タッカーの強靭なベースに導かれて始まる、スローテンポで蠢くブルース演奏です。じっくり構えたバリー・ハリスのピアノも良い感じ♪
 そして基本に忠実というか、シンプルなフレーズを積み重ねながらも時折ヒステリックに泣くソニー・レッド♪ これがまた、たまらん味わいなんですねぇ~。決して超一流とは言えませんが、実に好感の持てるジャズメンだと思います。
 気になる特別参加のグラント・グリーンは十八番の展開とあって余裕のフレーズを連発していますが、録音技師がヴァン・ゲルダーではないので音色が一連のブルーノートの諸作とは異なり、ちょっと細い感じで、違和感が……。 

B-2 The Rhythm Thing
 アップテンポで爽快なハードバップ! 熱血に吹きまくるソニー・レッドは些か時代錯誤のビバップ野郎という感じですが、それこそが実は何時までも古びないモダンジャズの真髄という感じで好ましいです。
 続くグラント・グリーンもビバップ系のフレーズを出して珍しく、バリー・ハリスは得意の絶頂というノリが最高です。
 そしてクライマックスはソニー・レッド対ジミー・コブという定番ですが、流石はジミー・コブという瞬発力が強烈に熱いです。
 ビバップ、万歳っ!!!

B-3 Bewitched, Botherde And Bewilderde
 さてオーラスは、このアルバムで唯一のスタンダード曲の演奏で、これが素晴らしいかぎり♪ ソニー・レッドが素直な心情吐露で畢生の名演を聞かせてくれます。
 そこには決して複雑なフレーズも、また抜群のメロディフェイクもありませんが、その感情表現の切々とした部分に強く惹きつけられるという、まさにジャズ者だけが個人的事情で好きになる片思いみたいなものです。ジャズ的な純愛物語……♪

ということで、これも名盤ガイド本には載ることがないアルバムでしょう。しかしジャズ者にとっては至福の一時を約束される地味な傑作じゃないでしょうか。

ちなみに私有のアナログ盤はモノラル仕様ですが、どうしてもステレオミックスが聴きたくなった私はCDも買ってしまったほどで、そこでは左チャンネルに定位したジョージ・タッカーのペースが快感を呼びます♪ もろちんそれゆえに、車の中でも愛聴覚しているというわけです。

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デューク・ジョーダンの泣き節は素敵

2008-09-11 15:54:15 | Jazz

世渡りが上手くない人っていうのは、どんな世界にもいるでしょう。矜持があるわけでもないのに、なかなか自分を曲げることが出来ないというか、貧乏クジに文句も言えない私もそのひとりだと思いますが、こうしていれば、いつかはきっと、良いこともあるだろう……、なんて儚い希望を持っているのも、また事実……。

そんな気分を支えてくれるのが――

Duke Jordan (Signal / Savoy)

ケニー・ドリューと並んで1970年代に大ブレイクしたピアニストがデューク・ジョーダンでした。そのきっかけは欧州で制作したアルバム「Flight To Denmark (Steeple Chase)」の好評で、その一抹の哀愁が滲むピアノタッチと泣き節フレーズが広くジャズ者の心を掴んだのです。

なんというか、ちょっとネクラな感性に惹かれるというか、特に私は忽ち大ファンになりました。

そして同時に、その不遇な半生も広く知られるようになり、例えばモダンジャズ創成期のトップバンド、つまりチャーリー・パーカーのバンドレギュラーを務めた実力がありながら、その後、何故かレコーディングに恵まれず、ついにはタクシー運転手やホームレスをやっていたとか……。あるいは名曲「危険な関係」の印税をごまかされたとか……。マイルス・デイビスとソリが合わずにホサれたとか……。

とにかくそういう人生の哀感や機微を知ってしまうと、なおさらにデューク・ジョーダンのピアノが心に染み入るのは否定出来ません。

さて、このアルバムはモダンジャズ黄金期に残された数少ないリーダーセッションから、ピアノトリオとクインテットという、2種類の演奏が楽しめる好盤です。

録音は1955年10月と11月、メンバーはデューク・ジョーダン(p)、パーシー・ヒース(b)、アート・ブレイキー(ds) のトリオ演奏がA面に、そしてB面にはエディ・バート(tb) とセシル・ペイン(bs) が入ったクインテットの演奏が収録されています――

A-1 Forecast (1955年10月10日録音)
 いきなりデューク・ジョーダン特有の「泣き節」が出たイントロ、そしてせつないテーマメロディが快適なテンポで演奏されるという、完全にツカミはOKの名演です。なんとも言えない寂しさが滲み出たピアノタッチも良い感じですねぇ~。
 アート・ブレイキーも豪放磊落なイメージとは逆の、全くシブイ伴奏が憎らしいほどのドラミングを披露♪ マイペースながら歌いまくりのペースソロを聞かせるパーシー・ヒースも流石だと思います。
 あぁ、それにしても全く無駄のない仕上がりで、何度聴いても飽きません。

A-2 Sultery Eve (1955年10月10日録音)
 これまた哀感が滲み出たデューク・ジョーダンのオリジナル曲で、スローテンポで微妙に「横ゆれ」したノリがたまりません。もちろん胸キュンのメロディとアドリブは最高で、晩年まで愛奏しつづれたのも納得の名演になっています。

A-3 They Can't Take Thay Away From Me (1955年10月10日録音)
 これもデューク・ジョーダンが十八番としているスタンダード曲で、というよりも、ここでの名演があっての十八番というべきでしょうか。
 ミディアムテンポで淡々と進む演奏は地味ながら力強いビートに支えられ、それに身を任せるようにデューク・ジョーダンが弾き出す「泣き節」フレーズには心底、泣けてきます。リズムへのノリとタメも最高過ぎますねぇ~~♪

A-4 Night In Tunisia (1955年10月10日録音)
 モダンジャズには欠かせない名曲の中の大名曲ですが、デューク・ジョーダンのイメージからすれば選曲はミスマッチ……。しかし参加ドラマーのアート・ブレイキーにとっては自身の代名詞ともいうべき演目ですから、どのような仕上がりになっているか、聴く前からワクワク状態です。
 そして結果は地味ながらもスイング感満点の好演で、あぁ、こういう「チュニジア」もあったのかっ!? と初めて聴いた時は肩透かしながらもシビレた記憶が鮮明です。
 気になるアート・ブレイキーは得意のアフロリックを出しまくっていますが、敲き方は抑え気味という珍しいところを披露しています。しかしこれも名人芸でしょうね。

A-5 Summertime (1955年10月10日録音)
 これが隠れ名演というか、数多いこの曲のジャズバージョンの中でも哀愁的解釈としては天下逸品だと思います。
 ちなみにここでは完全なデューク・ジョーダンの独奏、つまりピアノソロで演じられているのが高得点♪ その絶妙に「横揺れ」したノリは、全く個人的な感想ですが、なんとなくスイング期のピアニストから影響を受けているような……。
 もちろん歌心は、最高!

B-1 Flight To Jordan (1955年11月20日録音)
 B面に入ってはトロンボーンとバリトンサックスという低音楽器コンビを従えてのハードバップ大会! といっても、ド派手な部分よりは、デューク・ジョーダン特有の愁いが滲む、ソフトパップという感じが好ましいところです。
 この曲はデューク・ジョーダンが書いた中でも有名なメロディですし、晩年まで常に愛奏していたわけですが、ここでの演奏からは既にして枯れた哀愁が滲みだしています。
 もちろん共演者達も歌心優先モード♪ アート・ブレイキーのトラムソロさえも抑えた感情が……。

B-2 Two Lovers (1955年11月20日録音)
 これもデューク・ジョーダンが書いた傑作曲の中では人気があるメロディでしょうね。ゆったりしたテンポで切々とテーマを奏でるエディ・バートのトロンボーンが最高に深い味わいです。
 そしてセシル・ペインのソフトなバリトンサックスが、これまた素晴らしい感情表現で、本当に泣けてきますねぇ~~♪ 演奏時間の短さが残念至極です。

B-3 Cuba (1955年11月20日録音)
 タイトルどおり楽しいラテンジャズの小粋な快演♪ エディ・バードのトロンボーンはウキウキ感が最高ですし、アート・ブレイキーも本領発揮のアフロリックで燃えています。

B-4 Yesterdays (1955年11月20日録音)
 一転して憂愁のスタンダード曲がジンワリと演奏されます。とにかくデューク・ジョーダンのイントロからして寂しさがいっぱい……。セシル・ペインの柔らかなバリトンサックスも実にせつないです。
 もちろんデューク・ジョーダンのアドリブも哀切のフレーズ、枯れたピアノタッチで、とても当時三十代だったとは思えない、うらぶれた雰囲気が……。
 まあ、こういうネクラなところに、私はグッと惹きつけられるわけですが、やはりメロディ感覚の素晴らしさは絶品だと思います。

B-5 Scotch Blues (1955年11月20日録音)
 オーラスはこれもデューク・ジョーダンが書いた有名オリジナルで、マーチテンポの豪快な、と書きたいところですが、作者本人のオリジナルバージョンは威勢が良いというよりも……。
 しかしその絶妙のミスマッチ感覚が最高なんですねぇ~~♪ ちなみにこの曲にはアート・ブレイキーが率いるジャズメッセンジャーズのバージョンも残れさていますから、聴き比べも興味深いと思います。

ということで、デューク・ジョーダンの魅力が存分に楽しめる素敵なアルバムです。ハードバップ全盛期に残された貴重なリーダーセッションという事実もありますが、ファンにとっては、いつまでも古びないデューク・ジョーダンの真髄に触れることで喜びがいっぱい♪

共演者も好演で、特にアート・ブレイキーはド派手な印象からしてミスマッチかと思いきや、実はシブイ伴奏と臨機応変のドラミングも上手いという証明になっています。このあたりはキャノンボール・アダレイの傑作盤「Somethin' Else (Blue Note)」にも通じる魅力ですが♪

とにかくA面ド頭の「Forecast」を聴けば、最後まで聴き通さずにはいられない名演集だと思います。

コメント (2)
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