トップが混乱すると下が迷惑するのは社会常識ですよね。相撲協会、永田町、そして今度は隣の某国!?
ということで、本日は――
■It's Uptown with the George Benson Quartet (Columbia)
今ではすっかり大衆的な人気スタアのジョージ・ベンソンも、本来は本格的なジャズギタリストだったという姿も確かにありますが、実はデビュー2作目のリーダー盤から既にポップスタアしての素養は十分に発揮していた証が、このアルバムです。
それは歌うギタリストとしての本領発揮、さらに聞いていて思わず腰が浮くほどのソウルグルーヴに満ちた演奏は魅力がいっぱいです。やはりメジャー会社のコロムビアは違うということでしょうか。
しかし決して売れたアルバムではなかったようで、1976年に例の「Breezin'(Warner Bro.)」で大ブレイクする以前のジャズ喫茶では、ほとんど鳴っていなかったようです。まあ、これが1966年頃の制作発売とあれば、ジャズは悩んで聴くのが本来の姿としていた我が国では、快楽的過ぎたというわけでしょうねぇ……。
実際、私もこのアルバムを初めて聴いたのは1970年代中頃の事でしたし、それでも既にCTIから出ていたクロスオーバーと称されていたフュージョン前期の諸作と比べて、明らかに物足りないと感じていました。なにしろ曲が短いですから……。
まあ、それはそれとして、演奏メンバーはジョージ・ベンソン(g,vo)、ロニー・スミス(org)、ロニー・キューバ(bs)、レイ・ルーカス(ds)、ジミー・ラヴレス(ds) 等々が参加しているらしく、それは当時のレギュラーバンドだったと言われているだけに、纏まりは最高です――
A-1 Clock Wise
高速4ビートで演じられるジョージ・ベンソンのオリジナルで、このスピード感と切れ味は、ジャズとしては当時の他のバンドとは一線を隔すグルーヴが感じられます。
ジョージ・ベンソンのギターはウェス・モンゴメリーからの影響に加えてグラント・グリーンやパット・マルティーノっぽいノリとフレーズも聞かれて興味深いところ♪
またブヒブヒに吹きまくるロニー・キューバのバリトンサックス、ヒーヒー泣いてド派手なロニー・スミスのオルガン、ともにスピード感があって軽い雰囲気なのが実に新しいと思います。
A-2 Summertime
ノッケからテンションの高いビートが気持ち良いイントロ♪ そして誰もが知っているガーシュインの名曲がソウルフルに歌われ、バックのリフがリー・モーガンの「Sidewinder」みたいな楽しさが、もうヤミツキの気持ち良さ♪
もちろんギターソロはウェス・モンゴメリー直系のオクターブ奏法に豊かな音量を弾き出すピッキングが最高に上手いですねぇ~♪
実はこれを初めて聴いたのは、例の「Masquerade」が大ヒットしていた時期なんですが、個人的には圧倒的にこっちの「Summertime」が好きでした。残念ながらギターとユニゾンのスキャットは聴かれませんが、昭和40年代歌謡グルーヴにも通じる味わいがあって、中毒症状♪ 完全に目覚めたというわけです。
ロニー・スミスのオルガンも地味ながら、ハッとするほど良い感じの伴奏を聞かせてくれますよ♪
A-3 Ain't That Peculiar
当時のR&Bヒットをカバーしたインストなんですが、このイナタイ雰囲気、絶妙のカントリーフィールがたまらない演奏です。ドラムスのリムショットが素敵なアクセント♪ そしてジョージ・ベンソンの瞬発力に満ちたギターソロ♪ これも本当にグッときます。
A-4 Jaguar
さらに続くのが日活モードのジャズロック♪ ジョージ・ベンソンがオクターブ奏法でシビレるフレーズを連発すれば、重くてシャープなドラムスも冴えまくりです。
オルガンとバリトンサックスがグルになって作り出すキメのリフも心地良く、こういうのを聴いていると、自分はやっぱりフュージョンよりもジャズロックが好き! と自覚してしまうのでした。
A-5 Willow Weep For Me
ジョージ・ベンソンが正統派ジャズギタリストの本領を聞かせた名演で、スローテンポでじっくりと歌いあげるブルージーな味わいが流石だと思います。
背後で味な伴奏を聞かせるロニー・スミスのオルガン、ジワジワと盛り上がる演奏を支えるドラムスのブラシ、時に早弾きフレーズも交えながらイヤミの無いジョージ・ベンソン♪ コード弾きの伴奏も上手いですねぇ~。
フュージョン全盛期に聴けば地味な演奏も、実は何時までも古びない名演だったというわけです。
A-6 A Foggy Day
そしてA面ラストを飾るのが楽しいジョージ・ベンソンのボーカル♪ 意気込んだカウントからアップテンポで屈託無く歌いまくりですから、ウキウキさせられます。
もちろんギターの伴奏も上手く、ロニー・キューバのバリトンサックスも流れるような歌心♪ 全く4ビートの快楽を堪能させてくれる名演になっています。
B-1 Hello Birdie
スピード満点のハードバップ演奏ですが、ジョージ・ベンソンのギターからはジャズに加えてロックぽいノリも感じられます。このあたりはパット・マルティーノあたりにも共通するものですが、ジョージ・ベンソンの場合は、より黒人っぽさが強いのは当たり前ですから、痛快至極です。
バックのドラムスがイケイケのグルーヴを敲き出しせば、ロニー・キューバはブヒブヒに吹きまくり!
B-2 Bullfight
これが妙なメキシコ系メロディにボ・ディドリー風「土人のビート」を合わせたR&Bかと思いきや、実際の演奏はかなり深淵なモダンジャズという不思議な……。
ジョージ・ベンソンはモードっぽいアプローチですし、ほとんどドラムスとのデュオで生真面目さをアピールしているような……。
B-3 Stormy Weather
一転して再びスピード感いっぱいの演奏で、メインはジョージ・ベンソンのノリまくったボーカルです。メロディフェイクは素直すぎて、決して上手くありませんが、間奏のアドリブギターソロは圧巻! 短いながらも縦横無尽です。
B-4 Eternally
そしてこれがモダンジャズギタリストとしての真髄を披露するジョージ・ベンソン! 重心の低いラテングルーヴ、深遠で妖しいムードが満ちたキャバレーモードの中、グリグリにジワジワと秘めた情熱を吐露していくアドリブは、本当に凄いと思います。
あぁ、なんだか白木マリが踊りながら出てきそうな、そんな味わいもあって、見事な緊張と緩和です♪
ロニー・キューバの営業っぽいバリトンサックスも、たまらんですね♪
B-5 Myna Bird Blues
オーラスはウェス・モンゴメリーの影響も強く感じられる、アップテンポのハードバップ演奏! 流麗に、そして力強く突進するジョージ・ベンソンのアドリブは物凄く、時折出してしまうウェス・モンゴメリーの十八番フレーズも、借り物に敬意を表してのことでょうか。しかし私は憎めませんね。
ちなみにこのアルバムのセッションに参加しているドラマーのひとり、ジミー・ラブレスは前年にウェス・モンゴメリーが敢行した欧州巡業ではツアーバンドのレギュラードラマーでしたから、ノリが似ているのも納得ではありますが♪
ということで、後にブレイクするジョージ・ベンソンの素晴らしい資質が、既にここで萌芽していたという楽しみが満喫出来ます。
ちなみにウェス・モンゴメリーがCTIレーベルで驚異の大ヒット盤「A Day In The Life」を制作発売するのは、この翌年のことですし、ジョージ・ベンソンがマイルス・デイビスの「In The Sky」セッションに呼ばれるのも翌年という因縁が興味深いところです。
またウェス・モンゴメリーは、早世した所為もあるかもしれませんが、何をやっても基本的にはジャズのフィーリングに自然体で拘っていたのとは異なり、ジョージ・ベンソンはロック&ソウルのグルーヴを、これも自然体で身につけていたように感じています。
最近はブラコン~大衆スタンダード路線を歩んでいるジョージ・ベンソンですが、今だからこそ初期のソウル&ジャズロックに回帰したアルバムを作って欲しいと思うのは、私だけでしょうか……。