■Benny Golson's New York Scene (Contemporary)
ベニー・ゴルソンといえばハードバップの代表選手のひとりですが、本来のテナーサックス奏者よりは作編曲家としての評価が高いのは言わずもがなでしょう。まあ、個人的には、その日の気分しだいで、あのモゴモゴゴリゴリのテナーサックスも捨て難いという思いもあるのですが、やはり、そのプロデューサー的な感覚や演奏の現場監督としての働きのほうに、より大きな魅力があるミュージシャンだと思います。
さて、このアルバムはベニー・ゴルソンが上昇期にあった1957年の録音で、しかも発売が西海岸の有名レーベル「コンテンポラリー」というのが驚きです。
ご存じのように、当時のコンテンポラリーは西海岸を拠点に、所謂「ウエストコーストジャズ」と称される一派を主力商品にしていましたから、それが一転、ここではタイトルどおり、ニューヨークをメインに活動しているバリバリのハードパッパーが集結した作品なのです。
このあたりは当時、グングンと注目を集めていたベニー・ゴルソン、そして主流となっていた黒人系ハードバップのアルバムを作りたいという会社側の思惑なのか、あるいはベニー・ゴルソンからの売り込み企画だったのか、ちょっと判然としませんが、同社にしては珍しいニューヨーク録音作品というのも、ミソになっています。そして原盤裏の記載によれば、監修は高名なジャズ評論家のナット・ヘントフであり、コンテンポラリーの「らしい」音を作っていた録音技師のロイ・デュナンも関わっていません。
メンバーはベニー・ゴルソン(ts,arf) 以下、アート・ファーマー(tp)、ウイントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、チャーリー・パーシップ(ds) というクインテットをメインに、曲によってはジミー・クリーヴランド(tb)、ジジ・グライス(as,arr)、サヒブ・シハブ(bs)、ジュリアス・ワトキンス(frh) から成るホーンセクションが加わっています。
ちなみに録音日は1957年10月14&17日とされていますが、これには異説もあるようです――
A-1 Something In B Falt (1957年10月17日録音:Quintet / Gigi Gryce arr.)
アルバム冒頭を飾るに相応しい景気の良いアップテンポのハードバップで、全員のハッスルした演奏が実に爽快です。メリハリの効いたバンドアンサンブルのアレンジは、ペニー・ゴルソンの盟友だったジジ・グライスというのもミソでしょうねぇ~。
そしてアドリブパートではベニー・ゴルソンが直線的にツッコミを入れれば、アート・ファーマーは完ぺきなリップコントロールによるソフトな音色と歌心満点のフレーズで、まさに「モダンジャズのトランペットが、ここにあり!」の名演を聞かせてくれます。
またウイントン・ケリーのファンキーなノリも実に楽しく、リズム隊が些かガサツな録音の所為でしょうか、逆に妙な存在感として印象に残ります。
A-2 Whisper Not (1957年10月14日録音:Nonet / Benny Golson arr.)
これはお馴染み、ペニー・ゴルソンが畢生の名曲ですから、このアルバムでもお目当ての演奏でしょう。ここでは特にホーン隊を増員して、あの「ゴルソンハーモニー」と呼ばれる柔らかでハードボイルドな雰囲気が、たっぷりと楽しめます。特にジュリアス・ワトキンスのフレンチホーンが一層にソフトな情感を盛り上げていると感じます♪
もちろん作者自身のアレンジも冴えまくりで、出し惜しみのないキメのリフやカウンターのメロディ、味わい深いハーモニーが素晴らしく、当然ながらメンバーのアドリブも最高! 忍び泣くジジ・グライス、場の雰囲気を大切にしたジミー・クリーヴランド、美メロしか吹かないアート・ファーマー、そして抑えきれない心情吐露のベニー・ゴルソン♪
もはや二度と再現不能という名演で、数多あるこの名曲の決定的なバージョンかもしれません。私は大好きです、と愛の告白♪
A-3 Step Lightly (1957年10月17日録音:Quintet / Benny Golson arr.)
確かこの曲は、マックス・ローチとクリフォード・ブラウンのバンドでも演じられていたハードバップの隠れ名曲で、そのファンキーでメロウな味わいは絶品! もちろんここでのバージョンも特級品です。
アート・ファーマーのミュートが歌心を秘めて咽び泣きすれば、ベニー・ゴルソンのテナーサックスは、どこまでも雰囲気を大切にしていますし、チャーリー・パーシップのハードエッジなドラミングも素晴らしい限りです。さらにウイントン・ケリーのファンキー節が、これまた辛抱たまらん状態なんですねぇ~♪ ポール・チェンバースのベースも強靭な名演でしょう。
あぁ、ハードバップ、最高!!
ペニー・ゴルソンのアレンジも実に気が利いています。
B-1 Just By Myself (1957年10月14日録音:Nonet / Ernie Wilkins arr.)
これも有名なベニー・ゴルソンのオリジナル曲ですが、ここでは中型編成のバンドで演奏され、しかもアレンジがカウント・ベイシー楽団も手掛けていたアーニー・ウイルキンスなんですから、一味違います。
結論から言えばハードバップというよりも、モダンスイングとウエストコーストジャズの奇妙な融合という感じに聞こえますが、演奏しているメンバーがバリバリですから、結果オーライかもしれません。
ベニー・ゴルソンがモゴモゴと咆哮すれば、アート・ファーマーが安心印のアドリブ、さらにジジ・グライスとジミー・クリーヴランドが短いながらも個性を披露して、これも楽しい演奏になっています。
B-2 Blues It (1957年10月17日録音:Quintet / Benny Golson arr.)
おぉ、これは日活アクションモードのハードボイルドパップ♪ グルーヴィなノリ、ビシッと決まるキメのリフ、そして何よりもカッコ良いモダンジャズの保守本流という響きが、たまりません。
アドリブパートではアート・ファーマーのソフトな黒っぽさが素晴らしく、粘っこいリズム隊のグルーヴも最高ですから、ペニー・ゴルソンの内に秘めた闘志というようなテナーサックスが黒光りする名演になっています。
既に述べたように、このセッションの録音は些かガサツな雰囲気で、当然ながらモノラルミックスなんですが、こういう曲調になるとドラムスの残響音やベースの存在感、些か安っぽいピアノの鳴りそのものが、なおさらに愛おしいのでした。
B-3 You're Mine You (1957年10月17日録音:Quartet)
あまり有名ではないスタンダード曲ですが、その素敵なテーマメロディがベニー・ゴルソンのソフト&オールドなテナーサックスで奏でられると、その場はすっかり、ジャズの桃源郷♪
実際、ある種のムードが満点ながら、甘さに流れるギリギリのところで静かに情熱を滾らせるベニー・ゴルソンは、やはりテナーサックス奏者としても一流の証を聞かせてくれます。
それとウイントン・ケリーが、こういうバラード物で聞かせる世界も実に良い感じですね。
後半のアドリブからラストテーマの変奏に流れていくベニー・ゴルソンの裏ワザも流石♪
B-4 Capri (1957年10月14日録音:Nonet / Gigi Gryce arr.)
オーラスはジジ・グライスの作編曲となるビバップ系の快演曲で、確かJ.J.ジョンソンも演奏していたと記憶していたら、原盤裏ジャケット解説にも書いてありました。
そしてアップテンポで繰り広げられるベニー・ゴルソンとアート・ファーマーのアドリブはゴキゲンの一言! ジジ・グライスも灰色の感性で健闘していますし、チャーリー・パーシップのドラムスも、ここぞという瞬間では暴れを聞かせてくれるのでした。
というアルバムは、例の「ジャズテット」の予行演習でもあり、またジジ・グライスが当時率いていた「ジャズ実験室」の理想型という感じですから、これは極めて纏まった優れものだと思います。
まあ、そのあたりのソツの無さがイマイチ評価されていない気がしています。ジャズガイド本にも掲載されるようなブツではないでしょう。
しかしアート・ファーマーの快演、ペニー・ゴルソンのヤル気、またリズム隊のハードエッジな雰囲気が絶妙の熱気を生み出し、全体のアレンジも冴えた名盤だと、私は思っています。
特にA面の3曲はハードバップのたまらない魅力に満ちていますよ。
欲を言えば、これがロイ・デュナンのすっきりした録音だったらなぁ~、と思う時もありますが、やはり黒人ハードバップはニューヨークとか「東海岸系の音」でこそ、真髄が楽しめるのかもしれません。
しかし、凄いメンバーではないですか!
未聴でありながらコメントは僭越ですが、アート・ファーマーのプレイが気になりますね。
ゴルソンのモゴモゴテナーも結構好きです。
うーん、聴いてみたい作品です。
これっ、ぜひとも聴いてみて下さいませ。
A面は最高にゴルソン流のハードバップですよ。
ちなみに1970年代の我が国では廉価盤も発売されていますし、アメリカ盤もそんなに珍しいブツではないと思います。
ジャズ喫茶なら、置いてある店が多いかと思います。