OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ジジ・グライスのガチンコ盤

2008-09-03 16:40:50 | Jazz

永田町のゴタゴタよりも、相撲協会の薬物汚染がトップニュースとは、これ如何に!? なにせ国技ですねからねぇ~。一応、ガチンコだし、こうなれば代議士の先生方にも真剣勝負の気構えを感じさせてほしいもんです。

ということで、本日は――

The Hap'nin's / Gigi Gryce (Prestige / New Jazz)


ジジ・グライスは知的なアルトサックス奏者、そして名アレンジャーとして我が国では紹介されていますが、評論家の先生方が仰るような認め方はあまりされていないのでは?

と、サイケおやじは不遜にも思ってしまいます。

なにしろジジ・グライスがドナルド・バードと率いていたバンドが「ジャズ実験室:Jazz Lab.」なんていう名前じゃあ親しみが無いし、作編曲家としても同時期のベニー・ゴルソンのようなヒット曲を出しているわけでもありません。演奏家としてもアクが無いというか、黒人らしいドライブ感が希薄なスタイルはイマイチ、ノリきれていないというか……。

しかしジャズ者にとって、実はそのあたりこそが気になる存在なんですねぇ。特に天の邪鬼なサイケおやじにとっては、分かるまで聴きたくなるのが、こういうプレイヤーなのです。

なにしろハードバップ勃興期の1954年にはアート・ファーマーと組んで名盤「When Farmer Met Gryce (Prestige)」を残していますから、その味わいが忘れられないという事情もありました。

さて、このアルバムは当時のレギュラーバンドが New Jazz に吹き込んだ三部作の中のひとつで、録音は1960年5月30日、メンバーはジジ・グライス(as,arr)以下、リチャード・ウィリアムス(tp)、リチャード・ワイアンズ(p)、ジュリアン・ユーエル(b)、ミッキー・ロッカー(ds) という隠れ名手揃い♪ こういうメンツを集めてしまうあたりにも、ジジ・グライスのマニア性というか、シブイ個性が滲み出ていると思います――

A-1 Frankie And Johnny
 アメリカでは良く知られた曲らしいですが、ちょっとトボケたようなゴスペル系のメロディは個人的にそれほど好きではありません。しかしこれがジジ・グライスのスタイルにはジャストミート♪ メリハリの利いたリズム隊の存在に助けられながら、気抜けのビールみたいなテーマ演奏、イヤミではないアレンジも鮮やかで、聴くほどに深い味わいが感じられます。
 ジジ・グライスのアルトサックスは黒くなく、白くもなく、云わば灰色というところですが、シンプルなフレーズと何気ないキメが流石というか、あまり熱くならないところが良いのかもしれません。
 しかし続けてリチャード・ウィリアムスのミュートトランペットが出ると、その場は一変! リズム隊がグッとグルーヴィに変質してグイノリ大会♪ リチャード・ワイアンズって、実にハードバップ好きの琴線を刺激するピアニストだと思います。
 全体のアレンジも気が利いていますし、メンバー全員のアドリブソロも秀逸ですが、実はこれでさえ、このアルバムでは露払いなんですから、全部を通して聴き終ると唖然とした余韻が……。 

A-2 Lover Man
 アルトサックス奏者にとっては神様のチャーリー・パーカーが、あまりにも歴史的に有名な演奏を残していますから、避けて通れないスタンダード曲でしょう。
 ジジ・グライスは独特のヌメリとクールな情熱で真摯な吹奏に徹していますし、細かい部分まで計算されたバンドアレンジにも感心させられます。
 しかしそれが一度聞いただけでは納得出来ないのも、また事実でしょう。少なくともサイケおやじは最初聞いた時、とても潔い演奏とは思えませんでした……。
 ただし在り来たりのハードバップには確かになっていません。これが「知的」と称される所以かもしれませんね。このあたりの感性は十人十色でしょう。

A-3 Minority
 ジジ・グライスの書いた中では、ビル・エバンスも演じているという一番有名な曲かもしれません。ここでは痛快なハードバップに仕立てられたアップテンポ演奏が、なかなかにたまりません。
 リズム隊はラテンビートを内包した熱いバックアップで見事ですし、リチャード・ウィリアムスは輝かしい音色と新しいフレーズで突進し、ジジ・グライスはエリック・ドルフィーを意識しつつも、ビバップ保守本流のアドリブでバランスの良さを主張しているのでした。

B-1 Summertime
 さて、これがこのアルバムの目玉というか、私自身は大好きでシビレが止まらないなぁ~~、と勝手に思い込んでいます。
 しかしこの曲はマイルス・デイビスの決定的な名演があり、また有名無名の快演も残されている人気スタンダードですから、このメンツといえども油断は出来ません。
 まずダークな雰囲気の前奏からグルーヴィなリズム隊の蠢動、思わせぶりなジジ・グライスのテーマ提示、そしてミュートで熱いフレーズを連ねていくリチャード・ウィリアムスのアドリブへと続く流れは抜群で、歓喜悶絶させられます。
 リチャード・ワイアンズのピアノにはビル・エバンスがゴスペルしたような響きも感じられますし、それでいてハードパップが基本的に持っている熱気が失われていません。ジュリアン・ユーエルの思慮深いペースソロも実に良い味出しまくりだと思います。
 さらに満を持して登場するジジ・グライスが、これまた素直に言えない愛情の告白というか、ちょっとネクラに泣きじゃくる絶妙のアルトサックス♪ 短くも熱いアドリブから独自に変奏して入るラストテーマとアレンジの妙も流石だと唸っていたら、演奏は終わっているのでした。

B-2 Nica's Tempo
 これもジジ・グライスの代表的なオリジナル曲で、自身も何度か録音していますが、その深い思惑が秘められたようなビバップ系のテーマメロディを聞くことは、まさにジャズ者の喜びでしょう。
 ここでは威勢の良いミッキー・ロッカーのドラミングに煽られているのでしょうか、ジジ・グライスが日頃の冷静さを失ったような熱いアドリブを披露すれば、リチャード・ウィリアムスは闇雲に突進、さらにリズム隊がハッスルしまくりのサポートで追い撃ちをかけています。
 もちろんアレンジもスマート♪ 明らかに普通のハードバップとは一線を隔したものを狙った感じです。

B-3 Don't Worry 'bout Me
 オーラスは、これも良く知られたメロディのスタンダード曲ということで、ミディアムテンポでスイングするバンドには魅力がたっぶり♪ ジジ・グライスのテーマ吹奏も素直で好感が持てますが、ここではアドリブ先発のリチャード・ワイアンズが歌心満点の小粋な快演♪ 地味なサポートに徹するベースとドラムスも良い感じです♪
 またリチャード・ウィリアムスが、これまたミュートで絶妙の歌心を聞かせてくれます。ボケとツッコミのバランスが絶妙なんですねぇ~。これにはリーダーのジジ・グライスも刺激を受けたのか、徹底して素直なアドリブで、独特の個性が一番分かり易いかと思います。

ということで、決して名盤ガイド本に登場するようなアルバムではありませんし、歴史的にどうこうされる意義もないかと思われますが、とても気になる1枚じゃないでしょうか。

ジジ・グライスのガチンコ体質が良くでた傑作だと思います。

コメント (4)
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