OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

インビテーションを吹くコルトレーン

2008-09-27 14:59:06 | Jazz

Standard Coltrane / John Coltrane (Prestige)

ジャズは素材を如何に料理するかという瞬間芸だと思いますが、やはり「素材」に魅力があったほうが美味しくなるのは、言うまでもありません。

ですから、如何に良い素材=曲を演じているかがレコード購入の大きな決め手となり、それに釣られてゴミが増えるという危険性もあるわけですが、アバタもエクボという諺どおり、やっぱり曲=素材の魅力は絶大です。

さて、私にとってのそのひとつが「Invitation」というスタンダード曲で、事の発端はジョー・ヘンダーソン(ts) の代表作にしてジャズ喫茶の人気盤「Tetragon (Milestone)」でしたが、その静謐な幻想性や如何様にも変化させていくことの出来る曲の味わいは、非常にたまらないものがありましたですね。

作曲したのはブロニスロウ・ケイパーという職業作家で、この人は他にも「On Green Dolphin Street」というモダンジャズでは定番となった名曲も書いているとおり、それらのミソはモード的な解釈にも耐えうる懐の深さかもしれません。

そしてこの曲を求める奥の細道で出会ったのが、アル・ヘイグ(p) やミルト・ジャクソン(vib) の同名タイトル盤でしたが、しかしジョン・コルトレーンがこれを演じていると知っては、聴かずに死ねるか! これが1970年代にジャズ的な青春を過ごしたサイケおやじの偽らざる心境です。

で、このアルバムは皆様が良くご存じのとおり、ジョン・コルトレーンがレッド・ガーランドを参謀役として膨大なセッションを残したプレスティッジの音源から編まれた中の1枚で、タイトルとは裏腹に、あまり有名ではないスタンダード曲が素材として選ばれています。

録音は1958年7月11日、メンバーはジョン・コルトレーン(ts)、ウィルバー・ハーディン(tp)、レッド・ガーランド(p)、ポール・チェンバース(b)、ジミー・コブ(ds) となっていますが、やはり当時のマイルス・デイビスのバンドではレギュラーを務めていたリズム隊の参加が嬉しいところでしょう――

A-1 Don't Take Your Love From Me
 ほとんど有名ではない曲ですから、我が国ではスタンダードとは呼べないのかもしれませんが、なかなか魅惑的なメロディです。というか、ジンワリしたスローなテンポで魂の吹奏を聞かせるジョン・コルトレーンが本当に素晴らしいかぎり!
 いきなりのなめらかな滑り出しから、独特の「泣き」を含んだ音色の魅力、素直さに心がこもるテーマメロディの解釈、アドリブパートでの緊張と緩和♪ もちろん得意技の音符過多フレーズも適度に混ぜ込んで飽きさせません。
 それにしてもこんな地味な演奏をアルバムトップに持ってくる編集方針は、現代の視点からすれば???なんでしょうが、アナログ盤時代はA面ド頭に一番良い演奏を置くのが「お約束」でしたし、実際、このLPの中では最高の仕上がりになっています。
 ウィルバー・ハーディンもハスキーな音色と繊細な歌心で出色ですが、リズム隊のサポートの上手さも特筆されます。
 ちなみに一連のプレスティッジセッションではレッド・ガーランドが演目を選んでいたそうですから、こういう地味でも素敵なメロディが聞けるのは喜ばしく、レッド・ガーランドもジョン・コルトレーンの引き立て役に徹して潔いと思います。

A-2 I'll Get By
 ビリー・ホリデイの名唱が有名な古いスタンダード曲を、ここではミディアムテンポのハードバップに焼き直そうとした目論見なんでしょうが、メンバー全員が低調な雰囲気……。
 もっさりとして煮え切らないジョン・コルトレーン、全くインスピレーションが冴えないウイルバー・ハーディン、ありきたりのレッド・ガーランド……。なんとかその場を盛り上げようと奮闘するジミー・コブのリムショットも虚しく響くだけです。
 しかし後半に入って、ようやく奮起したジョン・コルトレーンが聞けるのは、救いというよりも現実の厳しさでしょう。
 実はこのアルバムが発売されたのは1960年代中頃だと思われますが、これがオクラ入りしていたのも無理からんところとはいえ、当時は既に神様に祀り上げられていたジョン・コルトレーンの演奏はフリー街道を驀進中でしたから、こういうダレ場演奏も案外と一般のファンにはウケていたのかもしれませんね……。

B-1 Sprig Is Here
 繊細にして粋なメロディが魅力の人気スタンダードを、これもハードバップに焼き直した演奏ですが、それにしてもテーマ合奏のダサダサの雰囲気は???です。
 しかしアドリブパートではジョン・コルトレーンがスピード感満点の過激節を展開し、ウネウネと迷い道を彷徨いながらも、痛快な時間を提供してくれます。
 またウィルバー・ハーディンは「アート・ファーマーもどき」かもしれませんが、ポール・チェンバース&ジミー・コブというクールで熱いリズムコンビに煽られての必死さが、なかなか良い感じです。もちろんポール・チェンバースのベースソロのバックではジミー・コブのドラミングが、まさにコンビネーションプレイの至芸を聞かせてくれますよ♪

B-2 Invitation
 さて、これが私のお目当ての演目だったわけですが、まずジョン・コルトレーンがじっくりと腰を据えてのテーマ吹奏! 所謂スピリチュアルな雰囲気がジワジワと空間を支配していく、このあたりは往年のジャズ喫茶に親しんだ皆様には、本当にたまらないところかと思います。
 もちろんジョン・コルトレーンはテーマメロディの変奏にフレーズの圧縮と解凍を用いながら、こみあげる想いの心情吐露! そしてバックではポール・チェンバースが思い切ったペースワークを披露していますから、レッド・ガーランドが些か浮いてしまったような……。
 後年の名演「Naima」の予行演習としても立派ですが、もちろんここでの些か饒漫なところは、未完成の魅力です。ちなみにウィルバー・ハーディンの出番は、ほんのちょい、です。

ということで、アルバム単位としてはジョン・コルトレーンの諸作中、それほどの人気盤ではないと思います。実際の仕上がりも良いとは言えません。

しかしA面1曲目の「Don't Take Your Love From Me」だけは名演だと思います。もしジョン・コルトレーンのベスト盤を作るとしたら、私は迷わず選んでしまうでしょう。

コメント
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