OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ジョージ・ベンソン、帰ってこいよ

2008-09-10 16:28:54 | Soul Jazz

トップが混乱すると下が迷惑するのは社会常識ですよね。相撲協会、永田町、そして今度は隣の某国!?

ということで、本日は――

It's Uptown with the George Benson Quartet (Columbia)

今ではすっかり大衆的な人気スタアのジョージ・ベンソンも、本来は本格的なジャズギタリストだったという姿も確かにありますが、実はデビュー2作目のリーダー盤から既にポップスタアしての素養は十分に発揮していた証が、このアルバムです。

それは歌うギタリストとしての本領発揮、さらに聞いていて思わず腰が浮くほどのソウルグルーヴに満ちた演奏は魅力がいっぱいです。やはりメジャー会社のコロムビアは違うということでしょうか。

しかし決して売れたアルバムではなかったようで、1976年に例の「Breezin'(Warner Bro.)」で大ブレイクする以前のジャズ喫茶では、ほとんど鳴っていなかったようです。まあ、これが1966年頃の制作発売とあれば、ジャズは悩んで聴くのが本来の姿としていた我が国では、快楽的過ぎたというわけでしょうねぇ……。

実際、私もこのアルバムを初めて聴いたのは1970年代中頃の事でしたし、それでも既にCTIから出ていたクロスオーバーと称されていたフュージョン前期の諸作と比べて、明らかに物足りないと感じていました。なにしろ曲が短いですから……。

まあ、それはそれとして、演奏メンバーはジョージ・ベンソン(g,vo)、ロニー・スミス(org)、ロニー・キューバ(bs)、レイ・ルーカス(ds)、ジミー・ラヴレス(ds) 等々が参加しているらしく、それは当時のレギュラーバンドだったと言われているだけに、纏まりは最高です――

A-1 Clock Wise
 高速4ビートで演じられるジョージ・ベンソンのオリジナルで、このスピード感と切れ味は、ジャズとしては当時の他のバンドとは一線を隔すグルーヴが感じられます。
 ジョージ・ベンソンのギターはウェス・モンゴメリーからの影響に加えてグラント・グリーンやパット・マルティーノっぽいノリとフレーズも聞かれて興味深いところ♪
 またブヒブヒに吹きまくるロニー・キューバのバリトンサックス、ヒーヒー泣いてド派手なロニー・スミスのオルガン、ともにスピード感があって軽い雰囲気なのが実に新しいと思います。

A-2 Summertime
 ノッケからテンションの高いビートが気持ち良いイントロ♪ そして誰もが知っているガーシュインの名曲がソウルフルに歌われ、バックのリフがリー・モーガンの「Sidewinder」みたいな楽しさが、もうヤミツキの気持ち良さ♪
 もちろんギターソロはウェス・モンゴメリー直系のオクターブ奏法に豊かな音量を弾き出すピッキングが最高に上手いですねぇ~♪
 実はこれを初めて聴いたのは、例の「Masquerade」が大ヒットしていた時期なんですが、個人的には圧倒的にこっちの「Summertime」が好きでした。残念ながらギターとユニゾンのスキャットは聴かれませんが、昭和40年代歌謡グルーヴにも通じる味わいがあって、中毒症状♪ 完全に目覚めたというわけです。
 ロニー・スミスのオルガンも地味ながら、ハッとするほど良い感じの伴奏を聞かせてくれますよ♪

A-3 Ain't That Peculiar
 当時のR&Bヒットをカバーしたインストなんですが、このイナタイ雰囲気、絶妙のカントリーフィールがたまらない演奏です。ドラムスのリムショットが素敵なアクセント♪ そしてジョージ・ベンソンの瞬発力に満ちたギターソロ♪ これも本当にグッときます。

A-4 Jaguar
 さらに続くのが日活モードのジャズロック♪ ジョージ・ベンソンがオクターブ奏法でシビレるフレーズを連発すれば、重くてシャープなドラムスも冴えまくりです。
 オルガンとバリトンサックスがグルになって作り出すキメのリフも心地良く、こういうのを聴いていると、自分はやっぱりフュージョンよりもジャズロックが好き! と自覚してしまうのでした。

A-5 Willow Weep For Me
 ジョージ・ベンソンが正統派ジャズギタリストの本領を聞かせた名演で、スローテンポでじっくりと歌いあげるブルージーな味わいが流石だと思います。
 背後で味な伴奏を聞かせるロニー・スミスのオルガン、ジワジワと盛り上がる演奏を支えるドラムスのブラシ、時に早弾きフレーズも交えながらイヤミの無いジョージ・ベンソン♪ コード弾きの伴奏も上手いですねぇ~。
 フュージョン全盛期に聴けば地味な演奏も、実は何時までも古びない名演だったというわけです。

A-6 A Foggy Day
 そしてA面ラストを飾るのが楽しいジョージ・ベンソンのボーカル♪ 意気込んだカウントからアップテンポで屈託無く歌いまくりですから、ウキウキさせられます。
 もちろんギターの伴奏も上手く、ロニー・キューバのバリトンサックスも流れるような歌心♪ 全く4ビートの快楽を堪能させてくれる名演になっています。

B-1 Hello Birdie
 スピード満点のハードバップ演奏ですが、ジョージ・ベンソンのギターからはジャズに加えてロックぽいノリも感じられます。このあたりはパット・マルティーノあたりにも共通するものですが、ジョージ・ベンソンの場合は、より黒人っぽさが強いのは当たり前ですから、痛快至極です。
 バックのドラムスがイケイケのグルーヴを敲き出しせば、ロニー・キューバはブヒブヒに吹きまくり!

B-2 Bullfight
 これが妙なメキシコ系メロディにボ・ディドリー風「土人のビート」を合わせたR&Bかと思いきや、実際の演奏はかなり深淵なモダンジャズという不思議な……。
 ジョージ・ベンソンはモードっぽいアプローチですし、ほとんどドラムスとのデュオで生真面目さをアピールしているような……。

B-3 Stormy Weather
 一転して再びスピード感いっぱいの演奏で、メインはジョージ・ベンソンのノリまくったボーカルです。メロディフェイクは素直すぎて、決して上手くありませんが、間奏のアドリブギターソロは圧巻! 短いながらも縦横無尽です。

B-4 Eternally
 そしてこれがモダンジャズギタリストとしての真髄を披露するジョージ・ベンソン! 重心の低いラテングルーヴ、深遠で妖しいムードが満ちたキャバレーモードの中、グリグリにジワジワと秘めた情熱を吐露していくアドリブは、本当に凄いと思います。
 あぁ、なんだか白木マリが踊りながら出てきそうな、そんな味わいもあって、見事な緊張と緩和です♪
 ロニー・キューバの営業っぽいバリトンサックスも、たまらんですね♪

B-5 Myna Bird Blues
 オーラスはウェス・モンゴメリーの影響も強く感じられる、アップテンポのハードバップ演奏! 流麗に、そして力強く突進するジョージ・ベンソンのアドリブは物凄く、時折出してしまうウェス・モンゴメリーの十八番フレーズも、借り物に敬意を表してのことでょうか。しかし私は憎めませんね。
 ちなみにこのアルバムのセッションに参加しているドラマーのひとり、ジミー・ラブレスは前年にウェス・モンゴメリーが敢行した欧州巡業ではツアーバンドのレギュラードラマーでしたから、ノリが似ているのも納得ではありますが♪

ということで、後にブレイクするジョージ・ベンソンの素晴らしい資質が、既にここで萌芽していたという楽しみが満喫出来ます。

ちなみにウェス・モンゴメリーがCTIレーベルで驚異の大ヒット盤「A Day In The Life」を制作発売するのは、この翌年のことですし、ジョージ・ベンソンがマイルス・デイビスの「In The Sky」セッションに呼ばれるのも翌年という因縁が興味深いところです。

またウェス・モンゴメリーは、早世した所為もあるかもしれませんが、何をやっても基本的にはジャズのフィーリングに自然体で拘っていたのとは異なり、ジョージ・ベンソンはロック&ソウルのグルーヴを、これも自然体で身につけていたように感じています。

最近はブラコン~大衆スタンダード路線を歩んでいるジョージ・ベンソンですが、今だからこそ初期のソウル&ジャズロックに回帰したアルバムを作って欲しいと思うのは、私だけでしょうか……。

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一度は見たかったゲッツのライブ

2008-09-09 15:55:02 | Jazz

過去はどうあれ、人間は「今」が大切! 最近、各界のいろいろな騒動から、私はそう、感じています。つまりそれはライブ感覚の生き方というか、瞬間的な緊張と緩和が必要で、これが難しいのが人生なんでしょうか……。

と本日も分からないなりに思うサイケおやじの生意気は――

Stan Getz At Storyville Vol.2 (Roost)

ジャズは絶対「生」が良い! とする気持ちは、つまり瞬間芸というジャズの本質を言い当てていますが、それとて実は優れた演奏家にしか適用出来ない嗜好でしょう。

と、いきなり硬い書き出しになってしまいましたが、実際、ライブの現場でメロメロ、あいるはそうならなくても、イモを演じたジャズメンに接するのはハラハラしてせつなくなったりします。

それが特に贔屓のバンドだったりすると、もう、いけません。

しかし極上の天才アドリブプレイヤーならば、何時だってOK♪

例えばスタン・ゲッツは白人最高峰のテナーサックス奏者として、その素晴らしさは多くのレコードに残されていますが、やはりライブは格別というのが、本日の1枚です。

録音は1951年10月28日、ボストンの有名店「ストーリーヴィル」でのライブで、メンバーはスタン・ゲッツ(ts)、アル・ヘイグ(p)、ジミー・レイニー(g)、テディ・コティック(b)、タイニー・カーン(ds)という夢のようなレギュラーバンドです。

ちなみにこの時のセッションからは12インチLPで2枚のアルバムが作られていますが、今回は特に私が好きな「第2集」を聴いています――

A-1 Hershey Ba
 アル・ヘイグの弾く軽快なピアノのイントロから流麗なテーマメロディが鳴り出せば、忽ちその場はゲッツ色♪ スピード感いっぱいの快適な演奏が展開されます。
 もちろんスタン・ゲッツのテナーサックスからは柔らかな音色で歌心満点のフレーズが連発され、それでいてアグレッシブな表現も抜かりはありません。
 またジミー・レイニーのギターが、これまた流麗の極み♪ 続くアル・ヘイグのピアノからも、そこはかとないマイナー感覚が滲み出て、幸福の桃源郷へ誘われるのでした。
 ただし残念というか、ラストテーマがブツ切れ状態で強引に拍手を被せたようなテープ編集が???

A-2 Rubberneck
 これもアップテンポで流れるような演奏が心地良いかぎりです。テーマメロディに秘められた哀愁を完全に活かしきったスタン・ゲッツのアドリブは、まさに名人芸♪
 ジミー・レイニーのギターやアル・ヘイグのピアノにも同種の輝きが感じられます。しかしここでは全体に躍動的で油断のならないリズム隊の働きが秀逸だと思います。

A-3 Signal
 ジミー・レイニーのクールなオリジナル曲で、アップテンポの凝ったテーマメロディが不思議な魅力を発散しています。
 というか、それがスタン・ゲッツのアドリブでジャズ的に翻訳されていく過程が素晴らしく、独特の浮遊感、緩まないスピード感が爽快の極みなんですねぇ~♪
 もちろん作者のジミー・レイニーも大健闘! ごまかしの無いフレーズ展開と上手いピッキングは流石です。
 そしてアル・ヘイグの素晴らしさは言わずもがなでしょう。

A-4 Everything Happens To Me
 ここまで同じような急速テンポの演奏が続いてきた後だけに、このバラード演奏には心底、和みます。曲が私の大好きなスタンダードというのも、嬉しいですねぇ♪
 そしてスタン・ゲッツが無限のイマジネーションを全開させれば、ジミー・レイニーは華麗に歌い、アル・ヘイグは一抹の哀愁を滲ませた名演です。
 いずれも短いアドリブソロですが、密度は最高なのでした。

B-1 Jumpin' With Symphony Sid
 これが躍動的な大名演! テーマメロディのワクワク感、アドリブパートの創造性、さらにグルーヴィなリズム的興奮が上手くミックスされていますが、これこそライブの醍醐味でしょうねぇ~♪
 実際、アップテンポで流れるように吹きまくるスタン・ゲッツも素晴らしいと思いますが、この演奏のようにミディアムテンポのドライブ感も強烈にジャズを感じさせてくれます。
 その縁の下の力持ちは、後のハードバップ時代でも大活躍するベースのテディ・コティックの存在かもしれません。グイノリのペースウォーキングが実にたまりませんし、ちょっと音程が危なくなっているアドリブソロでも臆することの無く、鋭いフレーズを披露しています。
 大団円の中華メロディも憎めませんねっ♪

B-2 Yesterdays
 これも有名スタンダードですから、安心してスタン・ゲッツの歌心が堪能出来ます。力強いビートに支えられながら、せつない「泣き節」を披露するという黄金の展開が最高ですし、スピード感に満ちたキメ、独特の浮遊感は唯一無二!
 これぞ天才の証だと思います。

B-3 Bude
 オーラスはビバップの白人的解釈の典型で、スピード感に満ちたバンドのノリが素晴らしく、スタン・ゲッツも十八番のフレーズを出しまくって燃えあがります。いゃ~、本当にアドリブのアイディアが止まらない感じで、特有の手クセっぽいフレーズも快感という他はありません。
 ジミー・レイニーとアル・ヘイグ、そしてタイニ・カーンも好演ですが、全ては主役のスタン・ゲッツに収斂していくのでした。

ということで、最高に素晴らしい名演ライブ盤なんですが、惜しむらくは「音」がイマイチ良くありません。なんとなくモヤモヤした録音にキレが無いのです。

ちなみに私有盤は掲載したアメリカ盤12インチ再発LPですから、録音年代も考慮すれば納得する他はありませんし、CD再発ではリマスターも施されているはずですが、それは例によって未確認……。う~ん、ひとつ買ってみましょうか。

とにかく名演には違いないと思います。そして1回でいいから、この当時のスタン・ゲッツをライブで聴いてみたかった……、と見果てぬ夢を見ています。

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マリガン&ベイカーの潔さ

2008-09-08 14:49:10 | Jazz

相撲協会の潔くない態度も今日で終止符!? そうあって欲しいと願っています。国技ですから……。

ということで、本日は――

Gerry Mulligan Quartet (Pacific Jazz)

ロックンロール以前、最高にヒップな音楽だったのがモダンジャズ! もちろんロックンロールが白人向けにアク抜きした黒人R&Bだったように、広く一般大衆に受け入れられたのは所謂ウエストコートジャズという白人御用達のスタイルです。つまり当時のアメリカでは白人に受け入れられなければ、何事もメジャーになれない事情が当たり前でした。

しかしその白人ジャズがリアルな黒人の演奏より劣っていたかというえば、ある意味では「否」でしょう。例えばジェリー・マリガンとチェット・ベイカーが組んでいたカルテットが1950年代前半に残した演奏は、スマートな音楽性とアンニュイな雰囲気、そして躍動するピートが爽やかにして不良性を帯びた退廃を感じさせるという、奇跡的な素晴らしさになっています。

さて、本日の1枚は、それらの中から選りすぐりを名演を集めた所謂ベスト盤という趣のアルバムですが、それはリアルタイムで発売されていた演奏が決してLP用ではなく、SPという両面2曲入りの体裁が初出という事情によるものです。当然、演奏時間は1曲3分前後ですが、その完成度の高さは驚異的!

しかもこのアルバムにだけ入ってるテイクもあるという、マニア性の高さも憎いところです。

メンバーはチェット・ベイカー(tp)、ジェリー・マリガン(bs)、カーソン・スミス(ds)、チコ・ハミルトン(ds) というオリジナルカルテットで、曲によってはラリー・バンカー(ds) が交代で参加しています――

A-1 Frenesi (1952年10月15日録音 / SP盤:PJ602)
 聞けば納得、誰もが知っているラテンの名曲を爽やかに躍動するモダンジャズに焼き直した演奏です。しかし真っ向勝負の姿勢は潔いかぎり!
 ちなみにこの曲は発売レーベルのパシフィック創業2枚目のレコードであり、もちろん会社そのものがこのバンドを売り出すために設立された経緯からすれば、大ヒットは目論見どおりだったというわけですが、それにしても鮮やかな演奏は何度聴いても飽きません。
 軽快なメロディをヘヴィなバリトンと溌剌としたトランペットで絡みながら奏でるという自然発生的なアイディアは秀逸で、しかも緻密なアレンジとメンバー全員の音楽的センス&力量が完全に発揮された名演としか言えません。
 中でもバンド内では唯一の黒人というドラマーのチコ・ハミルトンが敲き出す千変万化のビートはシャープで粘っこく、明らかにジャズの本質を表現していると思います。

A-2 Night At The Turntable (1952年10月15日録音 / SP盤:PJ602)
 前掲「Frenesi」のカップリング曲と発売されたジェリー・マリガンのオリジナルで、快適なテンポの中に絶妙の退廃性が滲む、これも名演だと思います。なんとなく虚ろな気分が心地良く、それでいてスマートな感性が当時の白人にはウケたのでしょうね。

A-3 Lullaby Of The Leaves (1952年8月29日録音 / SP盤:PJ601)
 これがこのバンドのデビュー曲というか、最初に発売されたSP盤B面に収録されていたものです。もちろんパシフィック最初のレコードでもありますが、A面曲の「Bernie's Tune」が大ヒットとなった所為で、こちらもラジオやジュークボックスでは人気が高かったそうです。
 肝心の演奏は哀愁系スタンダードのメロディを大切にした展開で、緩やかで力強いノリと白人らしい、ちょっと退廃した雰囲気のバランスが、ここでも絶妙だと思います。
 終盤の倍テンポアレンジも凝っていて、憎めません。

A-4 Jeru (1953年4月27日録音 / 10インチ盤:PJLP5)
 これに先立つマイルス・デイビスの「クールの誕生」セッションでも演じられていたジェリー・マリガンのオリジナル曲で、このバンドの演奏としては10インチ盤「gerry mulligan quartet (PJLP5)」に収録が初出だと思います。
 演奏メンバーとしてはドラマーがラリー・バンカーに交替していますが、バンドの路線は些かの変更も無く、アップテンポで尚更に力強い爽快感がいっぱい♪ チェット・ベイカーのハスキーな音色のトランペットがバリトン・サックスに絡んでいく美しき流れ、それを受け止めて流麗なバンドアンサンブルをリードしていくジェリー・マリガンの上手さと歌心♪ 最高ですねっ♪

A-5 Cherry (1953年2月24日録音 / SP盤:PJ611)
 これまた、ちょっとせつないメロディが実に素敵な演奏です♪ ミディアムテンポのビートが本当に気持ち良く、美女と2人で緩やかにダンスを踊りたくなるような♪♪~♪
 しかしジェリー・マリガンのアドリブは、かなりアグレッシブというコントラストも凄いですねぇ。

A-6 Seinghouse (1953年4月27日録音 / 12インチ盤テイク)
 ジェリー・マリガンのオリジナルで、曲としての初出は前述した10インチ盤「gerry mulligan quartet (PJLP5)」だと思われますが、ここでは新たに別テイクが収録されるという罪作り! なにしろ私がこのアルバムを入手した1970年代には、そのオリジナル10インチ盤は高嶺の花というか、入手はなかなか困難でした……。
 しかしこの演奏が気に入っていた私は聴かずにはいられず、八方手を尽くした艱難辛苦も、今では懐かしい思い出です。
 肝心の演奏はアップテンポでアンサンブルも見事の一言! もちろんアドリブパートも秀逸ですから、まさにこのバンドの全盛期の勢いが存分に楽しめるのでした。
 最後のパートにはバンドテーマみたいな短い演奏がオマケに入っているのも、楽しいところです。

B-1 I May Be Wrong (1953年4月30日録音 / 12インチ盤テイク)
 これまた前述の「Seinghouse」と同様、10インチ盤「gerry mulligan quartet (PJLP5)」に収録された演奏とは別のテイクが、このアルバムに用いられました。既に述べたように、その10インチ盤が入手困難な現在、こちらの方が馴染みのある演奏かもしれません。このあたりはCDの再発状況も気になるところですが、未確認なのでご容赦願います。
 演奏そのものは快適なテンポで安定感のある名演♪ ラリー・バンカーのブラシ、カーソン・スミスのウォーキングベースも楽しい限りです。

B-2 Aren't You Glad You're You (1952年10月15日録音 / SP盤:PJ607)
 あまり有名ではないスタンダード曲ながら、この軽妙洒脱なアレンジとアンサンブルは絶品で、私なんか長らく、ジェリー・マリガンのオリジナルだと思っていたほどです。
 このあたりはピアノ抜きのバンドという、当時としては特殊な構成の面白さが存分に楽しめるのでした。

B-3 I'm Beginning To See The Light (1953年4月30日録音 / 12インチ盤テイク)
 またまた10インチ盤「gerry mulligan quartet (PJLP5)」に収録された同曲とは別なテイクが登場! これははっきり言うと、個人的にはこちらの方が好きですね。僅かですがテンポが速くなり、メリハリの効いた演奏に感じられます。
 というか、こちらに耳が馴染んでいたので、10インチ盤のテイクがヌルイ雰囲気に聞こえたのですが、演奏の質はどちらも秀逸ですので、十人十色の感想でしょうか……。
 最終パートのデキシーアレンジも楽しさの極み♪

B-4 The Nearness Of You (1953年4月30日録音 / 10インチ盤:PJLP5)
 人気スタンダードのバラード演奏ですから、ジェリー・マリガンとチェット・ベイカーという天才の歌心が、じっくりと味わえます。実は2人とも、ほとんどオリジナルメロディの変奏に徹しているだけなんですが、そこにジャズそのもののリアルな緊張感が滲み出て、しかも心底、和みますねぇ~~~♪

B-5 Makin' Whoopee (1953年2月24日録音 / SP盤:PJ611)
 なんとも気だるい休日の昼下がり、ビールでも飲んでウダウダやっている時のような演奏です。ダラけた気持ち良さというか、こういう感性って、黒人ジャズには求められないものだと思います。
 というか、生活感覚の違いなんでしょうね。これが1950年代初頭の西海岸ということでしょう。強いアメリカ、威張っていた白人……。

B-6 Tee For Two (1953年4月30日録音 / 10インチ盤:PJLP5)
 これも楽しいスタンダード曲を爽やかなアンサンブルで聴かせてくれる、このバンドの典型的な演奏です。メンバー全員の息の合い方が絶妙なんですねぇ~~♪
 しかし悲しいかな、バンドが人気絶頂になるのと反比例するように、メンバー間には様々な確執が表面化したようで、ほどなくバンドは解散……。というか、ジェリー・マリガンが悪いクスリで逮捕され、チェット・ベイカーはラス・フリーマン(p) と新しいバンドを結成しますが、その後はご存じのとおり……。
 その意味で、このバンドの演奏記録こそ、チェット・ベイカーはもちろんの事、ウエストコーストジャズ最良の瞬間が楽しめる聖典かもしれません。

ということで、これは名演ばかりが集められた素敵なアルバムです。おそらく発売された時には前述の事情から、バンドの実態は無くなっていたと思われますが、レコード産業の発展ともにその仕様もSPからLP、それも10インチから12インチと盤のサイズも変わっていった時期に編集されたアルバムとしては、最良の1枚かもしれません。

まあ、欲を言えば記念すべきデビューヒットの「Bernie's Tune」が入っていないことも残念ですが、片面毎の曲の流れも最高ですし、気楽に聴いて疲れないところは名盤の証明だと思います。

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ウィルカーソンのラストジャンプ

2008-09-07 15:27:41 | Jazz

今日も仕事だ、休めなかった……。

なんか虚しい気分は、これで解消です――

Shoutin' / Don Wilkerson (Blue Note)

ジャズのバンドでは特にレギュラーとも言うべきリズム隊が人気を集めるケースが、多々あります。例えばカウント・ベイシー楽団ならばフレディ・グリーン(g) を要とした「オールアメリカン・リズムセクション」とか、マイルス・デイビスのクインテットではレッド・ガーランド(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) の「ザ・リズムセクション」とか、枚挙に暇がありません。

そうした中で私が特に好きな3人組がグラント・グリーン(g)、ジョン・パットン(org)、ベン・ディクソン(ds) という、イケイケ&コテコテのリズム隊で、彼等は1960年代前半のある時期に名門ブルーノートの看板とまではいきませんが、それなりに大きな働きをした録音を集中的に残しています。

本日の1枚は、まさに私がグッとシビレる彼等の魅力が堪能出来るアルバムで、録音は1963年7月29日、メンバーはドン・ウィルカーソン(ts)、グラント・グリーン(g)、ジョン・パットン(org)、ベン・ディクソン(ds) というファンキーで土の香りが充満した名演集になっています――

A-1 Movin' Out
 と、ノッケからリズム隊の事ばかり書いてしまいましたが、本盤の主役は黒人テナーサックス奏者のドン・ウィルカーソンで、この人はレイ・チャールズのバンドレギュラーから独立してジャズ~
R&Bの世界で活躍していた名手です。そしてモダンジャズの最前線に登場したのはキャノンボール・アダレイ(as) の推薦によってリバーサイドにリーダー盤「Texas Twister」を吹き込んだ1960年頃からでしょう。なんと言っても、その野太いファンキー感覚が大きな魅力です。
 そしてブルーノートに移籍してからは、よりジャズ色を強めながらも、持前の所謂テキサステナーの奥義を披露する3枚のリーダー盤を吹き込み、これはその最後のアルバムというわけですが、いずれも密度の濃い仕上がりになっています。
 さて肝心の演奏は、このド頭の楽しくトボケたファンキー節の連発で、いきなりの高得点♪ グラント・グリーンの合の手リズムギター、ブギウギ調のサビで躍動するジョン・パットンのオルガン、そしてゴスペルっぽい残響音が特徴的なペン・ディクソンのドラムスは、タンバリンようなオカズも痛快なシンバルワークも鮮やかです。
 もちろんドン・ウィルカーソンのテナーサックスも分かり易く、そして熱っぽく歌いまくりですし、リズム隊との相性も抜群だと思います。ジョン・パットンのオルガンも冴えたアドリブというか、分かり易くて、実に良い雰囲気なのですが、それゆえにフュージョンが流行る以前のジャズ喫茶では忌嫌われたという……。

A-2 Cookin' With Clarence
 豪快な4ビートが冴えまくったアップテンポのブルースですから、ドン・ウィルカーソンも大ハッスル! リズム隊も強靭な正統派グルーヴを聞かせてくれます。特にジョン・パットンのフットペダルによるウォーキングが凄いですねぇ~♪ グラント・グリーンの半畳的なリズムギターも楽しいところですが、もちろん単音弾きのアドリブも薬籠中の名演だと思います。
 う~ん、それにしてもバンドの一体感は素晴らし過ぎます♪ ペン・ディクソンは我が国では全く評価されていないようですが、正統派のドラミングも全く上手いです。

A-3 Easy Living
 一転して有名スタンダードのスローな演奏ということで、ドン・ウィルカーソンがキャバレーモードに浸りきった名演を聞かせてくれます。ジョン・パットンの営業っぽいオルガン伴奏も味わい深いですねぇ~♪ 前曲までのイケイケがイナタイ雰囲気に変質していて、グッときます。
 しかしもちろん主役はドン・ウィルカーソンの黒いサブトーンが心に染み入るテナーサックスです。この柔らかい音色は絶品で、ソフトな黒っぽさという、全ての黒人音楽に共通の魅力が堪能出来ますよ。
 ラストテーマでは忍び泣きっぽい高音域を使った名人芸を披露して、流石です!

B-1 Happy Johnny
 これがまた、最高にカッコイイ、強烈にテンションの高いモダンジャズの決定版! アップテンポで弾ける演奏はモード手法も入っている感じですが、そんな事は気にする暇もなく、豪快にドライヴしまくるバンドの勢いがアブナイほどです。
 ジョン・パットンは相変わらず威勢の良いアドリブと伴奏のキメも鮮やかですし、グラント・グリーンのギターソロは時間の短さが残念なほどですが、ペン・ディクソンの大暴れには溜飲が下がります。
 テーマ部分のアンサンブルが特に痛快!

B-2 Blurs For J
 このメンバーならではの粘っこいスロ~ブル~スの世界です。あぁ、このモタれて黒い雰囲気にシビレが止まりません。特にドン・ウィルカーソンのソフト&ハードボイルドな表現力と泣き節には脱帽で、特に終盤からラストテーマへの解釈あたりは、最高すぎて絶句ですし、寄り添うように忍び泣くオルガンも良い感じ♪
 そしてグラント・グリーンが十八番の分野とあって、本当にたまらないギターソロを聞かせてくれますよっ♪ これぞモダンジャズのブル~スっていう真髄だと思います。

B-3 Sweet Cake
 オーラスはこれまでの流れの中では些かテンションが低い雰囲気も漂いますが、アルバムのラストという位置を鑑みれば、この和んで気だるい演奏も捨て難い魅力があります。
 この、絶妙に脱力したグルーヴも黒人音楽ならではというジャズ&ソウルの真髄なんでしょうねぇ、きっと。ジョン・パットンの場違いなハッスルが微笑ましい部分さえありますから。

ということで、既に述べたとおり、ジャズ喫茶全盛期の我が国では完全に無視されていたアルバムです。しかし廃盤屋では、それなりに良い値段が付いていたという隠れ人気盤でした。おそらくプレス枚数が少なかったのかもしれません。

というのもリーダーのドン・ウィルカーソンは、このセッションからしばらく後に悪いクスリで塀の中……。以降の消息を私は知りません。

そしてパットン、ディクソン&グリーンという驚異のリズム隊も、これが公式レコーディングでは、ほとんど最後の顔合わせじゃないでしょうか?

 それゆえに一層の愛着が私にはあるのでした。

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MJQの安心ライブ

2008-09-06 16:28:24 | Jazz

昨夜から緊急の仕事が入り、全く休めません……。これも仕事だ、人生だっ、と割り切って本日は――

European Concert Vol.1 / The Modern Jazz Quartet (Atlatic)

モダンジャズカルテット=MJQの人気と音楽性を確立したとされる初期アトランティック盤は、確かに密度の濃い演奏集でしたが、何故か録音がイマイチ……。しかもオリジナルであっても、レコードそのものの盤質が良くありませんでしたから、私なんか最初、なんでこれが歴史的名盤なのか? どうもピンッときませんでした。

ところが本日ご紹介のライブを聴いて、目からウロコ! 演奏の充実度は言わずもがな、その録音の良さには吃驚でした。まあ、それゆえに素晴らしい演奏を堪能し、MJQの魅力に開眼したようなわけでして……。

録音は1960年4月11~13日、ストックホルムでのライブから選りすぐったテイクが収録されているようですが、メンバーはお馴染み、ジョン・ルイス(p)、ミルト・ジャクソン(vib)、パーシー・ヒース(b)、コニー・ケイ(ds) という纏まりの良い4人組――

A-1 Django (1960年4月12日録音)
 MJQと言えば、これが出なければ収まらない代表曲ですから、ライブの幕開けにはジャストミート♪ まあ、実際のコンサートはどのようなプログラムだったのか不明ですが、ライブアルバム化するとしたら、これしかない編集だと思います。
 肝心の演奏は纏まりすぎて面白みが無いほどに完璧で、ステレオ盤では左にジョン・ルイスのピアノ、真中にドラムスとベース、右のジョン・ルイスのヴァイブラフォンが定位した基本的なミックスが潔く、前述したように、この時代としては音の良さが特筆ものです。

A-2 Bluesology (1960年4月12日録音)
 これもバンドにとっては十八番の演目で、スタジオレコーディングとしてはアルバム「Fontessa (Atlantic)」に収録された1956年のテイクが決定版とされていますが、音が悪く……。
 それがここでは音の良さに加えて奔放なミルト・ジャクソンのヴァイブラフォン、躍動的なベース&ドラムス、要所を締めるジョン・ルイスの存在感が綺麗に纏まった快演♪
 正直言えば、そのあたりにMJQ特有の限界も感じられますが、しかしそれが大きな魅力になっているのも、また事実だと思います。私は大好きです、この演奏♪

A-3 I Should Care (1960年4月12日録音)
 前曲のブルースに続いて、同じくミルト・ジャクソンが得意といするメロディラインを大切にしたアドリブが冴えまくる名演です。とにかく流麗なヴァイブラフォンの響きが素晴らしいですねぇ~~♪
 リズム隊も力強く、決して甘さに流れないところは流石だと思います。特にパーシー・ヒースの芸の細かさには驚嘆ですよ。
 
A-4 La Ronde (1960年4月12日録音)
 そのパーシー・ヒースが主役となったビバップの室内楽的解釈という、如何にもMJQな演奏です。しかしパーシー・ヒースは過激な姿勢というか、相当にツッコミの鋭い存在感を披露! このあたりはペースの音の魅力をしっかりとらえた録音の良さが光ります。

B-1 I Remember Clifford (1960年4月11日録音)
 このアルバムの目玉演奏というか、天才トランペッターに捧げられたモダンジャズ屈指の人気曲がMJQによって演じられるという、まさに嬉しいプレゼント♪
 もちろん演奏は素晴らしく、淡々とした中に深い悲しみが感じれ、数多あるこの名曲のジャズバージョンでは出色だと思います。特に音符を切り詰めたスタイルのジョン・ルイスが味わい深いところでしょう。
 このあたりは出来すぎというか、あらかじめ考え抜かれたアレンジと存在のアドリブという意地悪な気分にもさせられて、賛否両論かもしれません……。
 
B-2 Festival Sketch (1960年4月11日録音)
 人気盤「At Music Inn (Atlantic)」でも披露されていた代表曲ですが、ここでのバージョンはそれを凌駕する出来だと思います。とにかく流麗なミルト・ジャクソンが圧巻!
 安定したリズム隊にも躍動感が漲り、それでいて品格も漂うという、これがまさにMJQのイメージどおりなのでした。

B-3 Vandome (1960年4月13日録音)
 名盤「Pyramid (Atlantic)」に収録され、それはこの巡業直前という1月の録音でしたから、ここではピカピカの新曲として披露されたはずです。実際、前述のレコードも発売されていたか、ギリギリの時期でしょう。
 ですから何の挨拶もなく、前曲の拍手に追いかぶせるように演奏をスタートさせるバンドの勢いは、このクラシック~バロック趣味に彩られた名曲にジャズ的な興奮を加味することに成功しています。
 コニー・ケイのドラミングがシャープでグルーヴィ♪ 途中で誰かが、思わず「イェ~」と叫ぶのも良い雰囲気です。

B-4 Odos Against Tomorrow (1960年4月12日録音)
 こうして盛大なアンコールの拍手に迎えられ、じっくりと演奏されるのが、これも名曲の中の大名曲ですから、たまりません。ハードボイルドな哀愁、ジンワリと退廃した雰囲気から一転、躍動するモダンジャズの快楽性も鮮やかな展開には、グッと惹きつけられます♪
 もちろん最終パートは再び緩やかなテンポに戻り、素晴らしい余韻を残してコンサートは終了するのでした。

という構成も冴えまくりの傑作盤になっています。成熟して完成された演奏の密度も抜群です。ただしこうした出来すぎのところはスタジオ録音と変化無しというか、ジャズという瞬間芸、即興性という面からすれば問題あり? つまり安定感がありすぎて、スリルが無いという贅沢も言いたくなります。

しかし既に述べたように、このアルバムの録音は当時としては抜群に素晴らしく、それゆえに初期のベスト盤という趣が強く感じられます。

こうした特性は有終の美を飾った名盤「The Last Conccert (Atlantic)」にもあることですが、MJQ入門用としては最適なアルバムでしょう。ちなみに続篇「Vol.2」も同様に素晴らしく、合わせて聴けば、未だマンネリしていない全盛期の人気と実力が実感されると思います。

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ケニー・ドリューは4ビートの救世主!?

2008-09-05 16:41:30 | Jazz

今日も残暑が猛烈で、それについて語る気も失せています。

永田町の先生方の中から救世主は現れるのでしょうか?

とりとめがないので、本日は――

If You Could See Me Now / Kenny Drew (Steeple Chase)

1970年代に入ってジャズ喫茶の人気者となったのが、黒人ピアニストのケニー・ドリューでした。そのきっかけは欧州録音のリーダー盤「Dark Beauty (Steeple Chase)」で、その豪快にスイングするハードバップのピアノトリオ演奏は、フリーやモード、あるいは電化ジャズに毒されていた当時のジャズ喫茶を、グルーヴィな4ビートの世界に引き戻す働きをしたのです。

もちろんリアルタイムではクロスオーバーと称されていたフュージョンの大きなウネリを止めることは出来ませんでしたが、それに釣られてジャズを聴き出したファンさえも、確実にモダンジャズ本流の素晴らしさに目覚めさせた功績は、間違いなくあったと思います。

さて、このアルバムは前述の「Dark Beauty」と同じメンツで同日に吹き込まれていた音源ですから、内容の良さは保証付き!

録音は1974年5月21~22日、メンバーはケニー・ドリュー(p)、ニールス・ペデルセン(b)、アルバート・ヒース(ds) という人気トリオです――

A-1 In Your Own Sweet Way
 デイブ・ブルーベック(p) のオリジナルというよりも、マイルス・デイビス(tp) の名演が記憶に焼き付いている和みの名曲ですから、その秘められた歌心を如何に表現するかという命題が厳しい演目だと思います。
 しかしケニー・ドリュー以下、ここでのトリオは、さり気ないイントロからテンションの高いテーマ演奏、そして豪快にスイングしまくったアドリブパートという最高に美しい流れを堪能させてくれます。
 些かバタバタしたアルバート・ヒースの重たいドラムスもジャズ喫茶の大音量システムでは快感に他ならず、当時は「軽い」と玄人から決めつけられていたニールス・ペデルセンのペースも、私のような素人には驚異の一言でした。実際、ここでのアドリブソロは猛烈な早弾きとメロディ感覚の冴えが絶妙のバランスで楽しめます。
 肝心のケニー・ドリューは、もちろん十八番のダイナミックなノリ、綺麗なピアノタッチで好演♪

A-2 If You Could See Me Now
 私が大好きな作曲家のタッド・ダメロンが書いたジャズ本流の名曲で、ピアノトリオではビル・エバンスの名演も残されていますが、このバージョンも捨て難い魅力に溢れています。このジンワリと染み入っていくるミディアムスローの和みの世界♪ とかにくトリオ3者の役割分担というか、絶妙の音楽的構成が素晴らしい限りで、こんなに凄いのに、ちっとも難しく聞こえないのが流石です。
 さりげないのが良いのかなぁ~~♪

A-3 All Sousl Here
 これが楽しいゴスペル&ジャズロックというか、ドカドカ煩いアルバート・ヒースのドラミングがあってこその快演でしょうね。もちろんケニー・ドリューは黒人らしいファンキーフレーズを出しまくりですが、ニールス・ペデルセンが、その2人を上手く中和させながらもジャズのツボを押さえたベースを聞かせてくれます。

A-4 I'm Old Fashioned
 ちょいとシブイ選曲ながら、アップテンポの楽しいハードバップは嬉しい「お約束」です。テーマ部分からトリオの絡みは冴えまくりで、アルバート・ヒースのブラシ、ピアノとベースのユニゾンのキメが鮮やか過ぎます。
 もちろんアドリブパートは痛快にして激しく、直線的に突っ走りながらもジャズという黒人音楽特有のウネリは、決して失われていません。あぁ、聴いているうちに、ついついボリュームを上げてしまいますねぇ~~♪
 凄すぎるニールス・ペデルセンにも完全降伏させられますよ。

B-1 A Stranger In Paradise
 本来はもっとゆったりとしたテンポで演奏されるべきスタンダード曲なんでしょうが、ここでは初っ端から飛ばしまくるトリオの勢いが怖いほどです。
 その牽引役はニールス・ペデルセンでしょうか、とにかく一時も緩まないそのベースのグルーヴは驚異的で、思わず唸って、叫び出したくなるほどです。
 そしてスティーヴ・ガッドのような、と言うよりも、実はこちらが本家でしょうね、そのアルバート・ヒースのバタバタに突進するドラムスも熱気満点ですから、ケニー・ドリューも飛び跳ねては転がる独特のピアノスタイルを存分に聞かせてくれます♪ もちろん歌心も最高ですよっ♪

B-2 Prelude To Kiss
 デューク・エリントンが書いた優雅なメロディを甘く聞かせてくれるケニー・ドリュー♪
 と、こう書くば後年の日本制作盤のように思われるかもしれませんが、あそこまで虫歯になりそうな雰囲気はありません。思わせぶりもほどほどに、このアルバムの中ではシブイ演奏ですが、幻想性とタイトなノリが上手くミックスされています。
 真面目すぎてつまらない、と言えば、そのとおりですが……。

B-3 This Is The Moment
 作者不詳とクレジットされていますが、演奏の雰囲気は同日セッションから前述の大ヒット盤「Dark Beauty」に収録された「It Could Happen To You」と似ています。
 つまり勿体ぶったイントロからスローなテーマ変奏、そしてダイナミックな4ビートの楽しいノリまで上手く繋げていく、まさにこのトリオならではの演奏が楽しめるのです。
 あぁ、それにしても中盤からのグイノリ、転がりまくるピアノにバタバタと潔くないアルバート・ヒースのドラムス♪ これが非常に心地よいかぎりですねぇ~~~♪♪~♪
 もちろんニールス・ペデルセンのベースワークも快調そのもので、颯爽としたアドリブと躍動する4ビートウォーキングはジャズの醍醐味に溢れています。

B-4 Oleo
 オーラスはソニー・ロリンズ(ts) が書いたハードバップの聖典曲を猛烈なスピードで演じきった凄くて怖い、このトリオの真髄が記録されています。
 特にニールス・ペデルセンの全く乱れないベースは人間技を超越したウルトラテクニックというか、ピアノとドラムスがヤケクソ気味のところとは対照的な冷静さがイヤミ寸前です。
 中盤で炸裂するアルバート・ヒースのドラムソロはハードロック!?

ということで、「Dark Beauty」とは兄弟関係のアルバムながら、ガイド本ではあまり紹介されることも無いようですし、ジャズ喫茶でも特に鳴りまくったという記憶がありません。

逆に言えば「Dark Beauty」があまりにも鮮烈な登場だったという事で、ジャズ喫茶では飽きるほど聞かされていたため、このアルバムが出た当時は二番煎じ……。というのがリアルタイムでの感慨でした。

しかしそれでも私は、ちゃんと買って聴いていたんですから、やっぱり魅力の虜になっていたわけで、今では「Dark Beauty」よりも聴く頻度は高いほどです。

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グラント・グリーンの睨み顔

2008-09-04 15:55:57 | Jazz

何時の時代も音楽ファンをワクワクさせるのが、未発表曲の発掘です。特にジャズの場合は瞬間芸という、その音楽的特質から比較的容易に録音セッションが持てる所為でしょうか、そうしたマテリアルに事欠きません。

例えば名門ブルーノートが1970年代後半からスタートさせた発掘事業からは、驚異的な「お宝」がザクザクと掘り出され、それがCD時代になって益々深化したのですから、ジャズ者には嬉しいプレゼントでした。

本日の1枚もそのひとつです――

Sold / Grand Green (Blue Note)

アナログ盤時代に発掘された音源ですが、CD化の際にまたまたボーナストラックが追加された、とても未発表だったのが不思議なほどの熱演盤です。

録音は1964年6月12日、メンバーはグラント・グリーン(g) 以下、ジェームス・スポールディング(as)、ジョー・ヘンダーソン(ts)、マッコイ・タイナー(p)、ボブ・クランショウ(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という鬼の様な面々です――

01 Minor League
 如何にもデューク・ピアソンという哀愁入りのハード曲♪ エルビン・ジョーンズの威勢の良いドラムスが強烈なイントロとなって始まるテーマ合奏からして、ビンビンにシビレます。
 そして突入するアドリブパートは、まず先発のジェームス・スポールディングが妥協の無いスタイルを貫けば、グラント・グリーンはメリハリの効いた単音弾きで追撃ちです。う~ん、それにしても強い、強すぎるピッキングには脱帽ですねぇ。
 しかしジョー・ヘンダーソンは気合が空回り……。それでもかなり熱いアドリブになっているのですから、流石というか当時のジャズは熱気が違います。
 そのあたりはマッコイ・タイナーが十八番の音符過多症候群を披露し、エルビン・ジョーンズがこれでもかっ! というポリリズムを敲き出しているいるあたりでも楽しい限りです。
 ラストテーマのスリルと纏まりを「予定調和」と言ってはバチが当たりますね。

02 Ezz-Thetic
 これまた怖い演目で、ジョージ・ラッセルが書いた真摯なツッコミの冴えた名曲ですから、ここでの暴虐は「お約束」でしょう。エルビン・ジョーンズが嬉々として叩きまくっているのは、その証だと思います♪
 肝心のアドリブパートも溌剌としたグラント・グリーン、熱血のジェームス・スポールディング、ヒステリックに泣き叫びながらも王道のジョー・ヘンダーソン、スピードに乗ったマッコイ・タイナー、それを煽るドラムスとベースのコンビネーションも痛快ですが、もちろん最後はエルビン・ジョーンズの爆裂ドラムソロという仕掛けが、わかっちゃいるけどやめられない、です♪

03 Grant's Tune
 ヘヴィなアフログループに彩られたグラント・グリーンの自作曲で、現代でも相当に脂っこい演奏と感じられます。
 それはグラント・グリーンが持ち前の黒っぽさを煮詰めていくリズム隊の凄味ゆえかもしれませんが、このメンツなら、さもありなんです。もちろんグラント・グリーン本人のアドリブも濃厚!
 そして熱いのがジョー・ヘンダーソンのテナーサックスで、全く個性的な音色が大きな魅力ですね。またジェームス・スポールディングのアルトサックスも泣きながら……。

04 Solid
 アルバムタイトル曲はソニー・ロリンズが1954年に吹き込んだハードバップへの果敢な挑戦! あぁ、この和んだグルーヴにシビレまくりです。グラント・グリーンも自ら楽しんでいるような快適なフレーズを連発してくれますよ。
 リズム隊のグイノリも気持ち良く、ちょっと投げやりなジェームス・スポールディング、諦めが潔いジョー・ヘンダーソンがそれぞれに納得の一瞬を披露しています。
 また小刻みなオカズを使いながらも全体で大きなウネリを作り出すエルビン・ジョーンズも、これがジャズの楽しさでしょうね。

05 The Kicker
 あまりにも有名なジョー・ヘンダーソンのオリジナル曲で、調子の良いハードバップ王道の楽しみが溢れ出ています。もちろん作者がツボを外さない豪快なアドリブを披露すれば、続くジェームス・スポールディングもエキセントリックな味わいが滲む熱演です。そしてバックで煽るリズム隊の怖さ、キメのリフのカッコ良さも、たまりません。
 さらに満を持して登場するグラント・グリーンの潔さ♪ 十八番の「針とびフレーズ」も交えながら、完全にその場の空気を読みきったあたりは、流石だと思います。
 しかし逆に言えば、あまりにも纏まりすぎたところが物足りなくもあり……。結論を言えば、ジャズロックにも変奏可能な曲調なんですから、勿体ないと……。

06 Wives And Lovers
 これがCD時代となって新たに加えられた演奏で、曲はバート・バカラックのオリジナルとして有名ですが、その良く知られた和みのメロディを、ここではちょいとアフリカ色の強いアレンジで聞かせるという、如何にも当時の新主流派っぽいところが、さもありなんです。
 しかしグラント・グリーンは別に体裁ぶったりせず、メロディを大切にしながら持ち前の黒っぽいスタイルを貫く名演を披露しています。エルビン・ジョーンズが敲き出すポリリズムがジャストミートしているのは、ちょっと意外な気もしますが、ハッとするほど良い感じ♪
 またマッコイ・タイナーが嬉々としたアドリブを演じているのも微笑ましく、このあたりは当時のジョン・コルトレーンのバンドでは如何にストレスが溜まっていたかの心情吐露!? 激しい中にも絶妙の和みが楽しいかぎりです。

ということで、こんなテンションの高い演奏がオクラ入りしていたという贅沢が、ブルーノートの凄いところだと思います。しかし冷静に聴けば、名盤が続出していたリアルタイムでは、平均点というところかもしれません。

その意味でオーラスの「Wives And Lovers」が当時の感覚ではユルフン気味に感じられるでしょう。しかし現代では、これが実に最高で、ラストテーマが緩やかにフェードアウトしていくあたりは、何度聞いても快感なのでした。

ちなみにアメリカプレスのアナログ盤は、つまらない風景写真でしたが、このCDジャケットはアクの強いグラント・グリーンの表情が最高の雰囲気で、これもジャズの魅力でしょうね♪

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ジジ・グライスのガチンコ盤

2008-09-03 16:40:50 | Jazz

永田町のゴタゴタよりも、相撲協会の薬物汚染がトップニュースとは、これ如何に!? なにせ国技ですねからねぇ~。一応、ガチンコだし、こうなれば代議士の先生方にも真剣勝負の気構えを感じさせてほしいもんです。

ということで、本日は――

The Hap'nin's / Gigi Gryce (Prestige / New Jazz)


ジジ・グライスは知的なアルトサックス奏者、そして名アレンジャーとして我が国では紹介されていますが、評論家の先生方が仰るような認め方はあまりされていないのでは?

と、サイケおやじは不遜にも思ってしまいます。

なにしろジジ・グライスがドナルド・バードと率いていたバンドが「ジャズ実験室:Jazz Lab.」なんていう名前じゃあ親しみが無いし、作編曲家としても同時期のベニー・ゴルソンのようなヒット曲を出しているわけでもありません。演奏家としてもアクが無いというか、黒人らしいドライブ感が希薄なスタイルはイマイチ、ノリきれていないというか……。

しかしジャズ者にとって、実はそのあたりこそが気になる存在なんですねぇ。特に天の邪鬼なサイケおやじにとっては、分かるまで聴きたくなるのが、こういうプレイヤーなのです。

なにしろハードバップ勃興期の1954年にはアート・ファーマーと組んで名盤「When Farmer Met Gryce (Prestige)」を残していますから、その味わいが忘れられないという事情もありました。

さて、このアルバムは当時のレギュラーバンドが New Jazz に吹き込んだ三部作の中のひとつで、録音は1960年5月30日、メンバーはジジ・グライス(as,arr)以下、リチャード・ウィリアムス(tp)、リチャード・ワイアンズ(p)、ジュリアン・ユーエル(b)、ミッキー・ロッカー(ds) という隠れ名手揃い♪ こういうメンツを集めてしまうあたりにも、ジジ・グライスのマニア性というか、シブイ個性が滲み出ていると思います――

A-1 Frankie And Johnny
 アメリカでは良く知られた曲らしいですが、ちょっとトボケたようなゴスペル系のメロディは個人的にそれほど好きではありません。しかしこれがジジ・グライスのスタイルにはジャストミート♪ メリハリの利いたリズム隊の存在に助けられながら、気抜けのビールみたいなテーマ演奏、イヤミではないアレンジも鮮やかで、聴くほどに深い味わいが感じられます。
 ジジ・グライスのアルトサックスは黒くなく、白くもなく、云わば灰色というところですが、シンプルなフレーズと何気ないキメが流石というか、あまり熱くならないところが良いのかもしれません。
 しかし続けてリチャード・ウィリアムスのミュートトランペットが出ると、その場は一変! リズム隊がグッとグルーヴィに変質してグイノリ大会♪ リチャード・ワイアンズって、実にハードバップ好きの琴線を刺激するピアニストだと思います。
 全体のアレンジも気が利いていますし、メンバー全員のアドリブソロも秀逸ですが、実はこれでさえ、このアルバムでは露払いなんですから、全部を通して聴き終ると唖然とした余韻が……。 

A-2 Lover Man
 アルトサックス奏者にとっては神様のチャーリー・パーカーが、あまりにも歴史的に有名な演奏を残していますから、避けて通れないスタンダード曲でしょう。
 ジジ・グライスは独特のヌメリとクールな情熱で真摯な吹奏に徹していますし、細かい部分まで計算されたバンドアレンジにも感心させられます。
 しかしそれが一度聞いただけでは納得出来ないのも、また事実でしょう。少なくともサイケおやじは最初聞いた時、とても潔い演奏とは思えませんでした……。
 ただし在り来たりのハードバップには確かになっていません。これが「知的」と称される所以かもしれませんね。このあたりの感性は十人十色でしょう。

A-3 Minority
 ジジ・グライスの書いた中では、ビル・エバンスも演じているという一番有名な曲かもしれません。ここでは痛快なハードバップに仕立てられたアップテンポ演奏が、なかなかにたまりません。
 リズム隊はラテンビートを内包した熱いバックアップで見事ですし、リチャード・ウィリアムスは輝かしい音色と新しいフレーズで突進し、ジジ・グライスはエリック・ドルフィーを意識しつつも、ビバップ保守本流のアドリブでバランスの良さを主張しているのでした。

B-1 Summertime
 さて、これがこのアルバムの目玉というか、私自身は大好きでシビレが止まらないなぁ~~、と勝手に思い込んでいます。
 しかしこの曲はマイルス・デイビスの決定的な名演があり、また有名無名の快演も残されている人気スタンダードですから、このメンツといえども油断は出来ません。
 まずダークな雰囲気の前奏からグルーヴィなリズム隊の蠢動、思わせぶりなジジ・グライスのテーマ提示、そしてミュートで熱いフレーズを連ねていくリチャード・ウィリアムスのアドリブへと続く流れは抜群で、歓喜悶絶させられます。
 リチャード・ワイアンズのピアノにはビル・エバンスがゴスペルしたような響きも感じられますし、それでいてハードパップが基本的に持っている熱気が失われていません。ジュリアン・ユーエルの思慮深いペースソロも実に良い味出しまくりだと思います。
 さらに満を持して登場するジジ・グライスが、これまた素直に言えない愛情の告白というか、ちょっとネクラに泣きじゃくる絶妙のアルトサックス♪ 短くも熱いアドリブから独自に変奏して入るラストテーマとアレンジの妙も流石だと唸っていたら、演奏は終わっているのでした。

B-2 Nica's Tempo
 これもジジ・グライスの代表的なオリジナル曲で、自身も何度か録音していますが、その深い思惑が秘められたようなビバップ系のテーマメロディを聞くことは、まさにジャズ者の喜びでしょう。
 ここでは威勢の良いミッキー・ロッカーのドラミングに煽られているのでしょうか、ジジ・グライスが日頃の冷静さを失ったような熱いアドリブを披露すれば、リチャード・ウィリアムスは闇雲に突進、さらにリズム隊がハッスルしまくりのサポートで追い撃ちをかけています。
 もちろんアレンジもスマート♪ 明らかに普通のハードバップとは一線を隔したものを狙った感じです。

B-3 Don't Worry 'bout Me
 オーラスは、これも良く知られたメロディのスタンダード曲ということで、ミディアムテンポでスイングするバンドには魅力がたっぶり♪ ジジ・グライスのテーマ吹奏も素直で好感が持てますが、ここではアドリブ先発のリチャード・ワイアンズが歌心満点の小粋な快演♪ 地味なサポートに徹するベースとドラムスも良い感じです♪
 またリチャード・ウィリアムスが、これまたミュートで絶妙の歌心を聞かせてくれます。ボケとツッコミのバランスが絶妙なんですねぇ~。これにはリーダーのジジ・グライスも刺激を受けたのか、徹底して素直なアドリブで、独特の個性が一番分かり易いかと思います。

ということで、決して名盤ガイド本に登場するようなアルバムではありませんし、歴史的にどうこうされる意義もないかと思われますが、とても気になる1枚じゃないでしょうか。

ジジ・グライスのガチンコ体質が良くでた傑作だと思います。

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映画サントラもジャズ

2008-09-02 17:22:53 | Jazz

最近は普通の珈琲屋とか和食の店でもジャズをBGMに使った店が増えてきたとか♪ もちろん本物のジャズ喫茶よりは音量が小さいわけでしょうが、それでも雰囲気作りには最適というところが、ジャズの素敵な魅力です。なにも深刻に構えて、じっくり聴くことばかりが、ジャズの楽しみ方ではないのでしょう。

それは映画音楽、つまり劇伴サントラに使われて最高の効果を発揮してきた多くの名作映画にも顕著で、例えば本日の1枚も――

Un temoin dans la ville / Barney Wilen (Fontana)

1959年に制作されたフランス映画「彼奴を殺せ」のサントラ盤で、音楽を担当したのが人気サックス奏者のバルネ・ウィランというだけで、ゾクゾクしますね。

エドゥアール・モリナロ監督による映画の内容は、妻を寝取られたリノ・ヴァンチェラの復讐劇で、首尾良く相手の男を殺害したまでは良かったのですが、目撃者がいたと思いこんだことから、犯罪隠蔽を重ね、破滅するまでを描いています。

つまり典型的なフレンチノワールの傑作映画ですから、クールでハードボイルドなモダンジャズは、その雰囲気作りにジャストミート♪ ちなみにエドゥアール・モリナロ監督は前作「殺られる」でもジャズメッセンジャーズを起用してヒットを飛ばしていますから、そのツボは充分に心得ているのでしょう。

録音は1959年4月のパリ、メンバーはケニー・ドーハム(tp)、バルネ・ウィラン(ts,ss)、デューク・ジョーダン(p)、ポール・ロヴェール(ds)、ケニー・クラーク(ds) という、心底、琴線に触れまくりのクインテットです――

A-1 Temoin dans la ville
A-2 La pendaison
A-3 Melodie pour les radio-taxis
A-4 Poursuite et metro
A-5 Ambiance pourpre
A-6 Premeditation dans l'appartement
B-1 La vie n'est qu'une lutte
B-2 Complainte du chauffeur
B-3 Sur l'antenne
B-4 Blues de l'antenne
B-5 S.O.S. radio-taxis
B-6 Final au jardin d'acclimatation

――という上記演目は、もちろん映画のサントラ音源ですから、全篇に真っ当なモダンジャズ演奏を期待して聞くと肩透かしでしょう。なにしろ効果音的な断片演奏とか、ちょっとしたシークエンス、あるいはジングルっぽいトラックも含まれていますから。

しかしテーマともいうべきA面ド頭の「Temoin dans la ville」は最高にハードボイルドなモダンジャズで雰囲気最高! 約3分間の中にグルーヴィなハードバップの真髄を封じ込んだミディアムスローの名演で、そのシンプルなテーマメロディの魅力、まさにイブシ銀のケニー・ドーハム、艶やかなソプラノサックスを披露するバルネ・ウィランには納得して感涙です。

こういう雰囲気は我が国の映画音楽にも多々、流用されていますが、特に日活アクション&ニューアクションへの関わりも強く、シビレが止まりません。

また「Melodie pour les radio-taxis」も哀愁路線のスローな名曲・名演で、如何にもデューク・ジョーダンらしいピアノの響き、グッと堪えて忍び泣きというバルネ・ウィランのソプラノサックスは男の美学の極みつきでしょう。ちなみに私は、この人のソプラノサックスが世界で一番好きです。

他にもバルネ・ウィランの正統派テナーサックスが楽しめる「La vie n'est qu'une lutte」のジェントルな雰囲気、アップテンポのハードバップ「Sur l'antenne」ではテンションの高い熱気、デューク・ジョーダンが絶妙な「Blues de l'antenne」のそこはかとない魅力♪ 本当に全てが短すぎるのは、残念至極な演奏ばっかりです。

このあたりは映画本篇を観ていると一層、イメージの喚起も鮮烈になるのですが、そうでなくとも、ここでの演奏を聴いてしまえば、映画を観ずには死ねるかという気分に煽られでしょう。

ちなみにこのアルバムはアナログの10吋盤ですが、CD化も当然されています。しかし映画本篇のDVD化は???

劇中の主人公、リノ・ヴァンチェラは愛する妻に浮気され、挙句に彼女は寝取った男に殺されて……、というネクラなダメ男なんですが、しかし復讐の一念から破滅していくストーリーには共感がいっぱい! その、あまりにもせつないラストシーンを彩るオーラスのテーマ「Final au jardin d'acclimatation」は、衝撃のイントロからデューク・ジョーダンの哀切のピアノが、思いっきり泣かせてくれますよ。これがどこかの珈琲屋あたりで流れてきたら、誰でも持っているハードボイルドな日常に溺れてしまうかもしれません。

いゃ~、映画とジャズって、本当に素敵です。

ちなみにサイケおやじの本サイト「サイケおやじ館」も更新致しました。出し物は三井マリア主演の「私のSEX白書・絶頂度」ですが、音楽担当は和製プログレの名バンド「コスモス・ファクトリー」で、サイケ&プログレに加えてファンキーロックのインストも冴えまくり♪

よろしくお願い致します。

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1969年のマイルス、熱い映像!

2008-09-01 15:39:13 | Miles Davis

昨日、今日と防災訓練に駆り出されました。中国でも先月末に再度の地震がありましたし、我が国は局地的に集中豪雨で被害が続出! これまでは「訓練」と割り切って、笑いながらやっていた時もありましたが、今回ばかりは神妙な参加となりました。

被災された皆様には、心からお見舞い申し上げます。

ということで、本日も新ネタから――

Miles Davis Quintet Live in Copenhagen & Rome 1969 (Jazz Shots)

何時の時代も前向きなマイルス・デイビスが一番揺れていたというか、モダンジャズとロックとソウルの狭間でスリリングに自己のサウンドを模索していたのが1969年頃じゃなかったでしょうか?

歴史的には名盤「In A Silent Away」と不人気な大ヒット盤「Bitces Brew」を出してロックファンにもアピールしていた時期ですが、イノセントなジャズ者から疎んじられはじめたのも、この頃だったと思います。

しかし前述のスタジオ録音盤はともかくとして、ライブの現場で残されたブート音源あたりを聴くと、これはジャズでしかありえない熱気が充満していますねっ♪

で、本日ご紹介のDVDは、そんな時期の欧州巡業から2ヶ所で撮影収録された映像が楽しめる強烈なプレゼントです。もちろんこれまで一部はブートで出回っていましたが、一応は正規商品ということで、リマスターも極力徹底しています♪

メンバーはマイルス・デイビス(tp)、ウェイン・ショーター(ss,ts)、チック・コリア(p,key)、デイヴ・ホランド(b)、ジャック・ディジョネット(ds) という、これも「黄金のクインテット」と呼んで差支えない5人組です――

Live in Copenhagen (1969年11月4日)
 01 Bitces Brew
 02 Agitation
 03 I Fall In Love Too Easily
 04 Sanctuary
 05 It's About That Time into The Theme
 一応チャプターが打たれて上記の曲が演奏されています。しかし当時のマイルス・デイビスのバンドでは、これがメドレー形式というか、ラストテーマを端折って次のテーマを提示しつつ、演奏が進行していく流れがスリル満点に楽しめます。
 ちなみにこの映像はカラーですから、マイルス・デイビスのサイケな衣装も鮮やか♪ 気になる画質は「B+」程度ですが、それほど酷いとは感じないと思います。しかもカメラワークや構図ギメが相当に良いんですねぇ~♪ 普通、ジャズの映像作品は、どうしても演奏の「音」が中心になってしまうので、画面を観てると飽きたりしますが、これはそんな事の無い優れものだと思います。
 そして音質もバランスの良い好録音ですから、おそらくテレビ用のソースかもしれません。
 さて気になる演奏は厳かにスタートして激烈なフリーに突入する「Bitces Brew」、それが一転して痛快な4ビートでスイングしまくる「Agitation」の連続技で完全KOされます。
 マイルス・デイビスも新しい感じのフレーズを吹いていますし、ウェイン・ショーターは誰も立ち入れない独自の境地を披露! ロックビートも交えて激烈に敲きまくるジャック・ディジョネットは、動く映像で見るとさらにカッコイイです。
 またチック・コリアはエレピ中心に演奏していますが、これが唯我独尊というか、嬉々として自分の好き放題な展開ですから、個人的には良い意味で笑ってしまう瞬間もあります。一切の妥協をしないデイヴ・ホランドの頑固さも見事ですね♪
 そして後半はマイルス・デイビスがリードしてフリーを現実回帰させる「I Fall In Love Too Easily」、ちょっと神妙な「Sanctuary」が続いた後、「It's About That Time into The Theme」で再び地獄のグルーヴが炸裂します。
 あぁ、それにしてもこの緊張感と弾けっぷりは流石、当時の最先端バンドだけあります。ここまで約53分近く、全くダレることのない展開は、これもひとつのジャズ黄金期でしょうね♪

Live in Rome (1969年10月27日)
 06 Bitces Brew
 07 Miles Runs The Voodoo Down
 08 I Fall In Love Too Easily
 09 Sanctuary into The Theme
 10 Directions
 11 Masqualero
 こちらはローマでの映像で、これまでにもブートで出回っていたソースをリマスターしたものです。しかし残念ながらモノクロですし、演奏そのものに編集が施されているので、やや煮え切りません。カメラワークは秀逸なのに、けっこう良いところで切って、次に繋げる編集が強引というか……。ちなみに画質は「A-」でしょう。
 それでも音的にはバランスの良い録音ですし、演奏は一級品! 豪快にして緊張感満点というバンドの勢いが凄いです。特にリズム隊は怖いですねぇ~。ロック&ソウルのノリが見事な「Miles Runs The Voodoo Down」とか、ジャズの保守本流を感じせてくれる「Directions」あたりでは、マイルス・デイビスも煽られ気味で大熱演!
 もちろんウェイン・ショーターもマジギレの奮闘なんですが、なぜかこっちのパートでは冷遇されているというか、アドリブの途中なのに無残にも編集のハサミが……。あぁ、勿体ない! ジャズは一期一会なんですぜっ!
 それでも「Directions」のテーマの入り方なんて、もう絶句してしまう最高のカッコ良さ♪ もちろんマイルス・デイビスも強烈な存在感ならば、ジャック・ディジョネットは親分の顔色なんか気にしていないブッ敲きですよっ♪ 思わず叫びたくなるほどテンションが高いです。
 そしてチック・コリアは十八番のラテン系フレーズまで出してくれますし、オーラスの「Masqualero」が瞬間的に終ってしまうのは、本当に悔しい限りという熱い、本当に熱い演奏なのでした。

ということで、これも「お宝」です。電化マイスルというにはちょいと早く、しかし従来のモダンジャズからは一歩抜きんでた過渡期の演奏とはいえ、実はマイルス・デイビスが一番ヤル気のあった時代かもしれません。

コメント
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