OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

怖いパウエルも必要!?

2008-09-22 08:45:24 | Jazz

Jazz Giant / Bud Powell (Norgran / Verve)


パド・パウエルは説明不要の天才で、モダンジャズのピアノスタイルを確立させた偉人ながら、そのリアルな絶頂期に接する機会は案外少ないのではないでしょうか。

まあ、絶頂期を何時にするかで考え方も異なるわけですが、一般的には1947年から1951年頃までとするのが妥当なところでしょう。しかしこの間にも精神障害や悪いクスリ等々で病院とシャバを往復していたパド・パウエルは、その凄味に満ちた演奏を存分にレコーディングしていたとは言えません。

つまりこの間に残されたレコードは、その偉業からすれば本当に少なく、また時代的にも決して良い音で残された演奏ばかりではありませんから、なかなかきちんと聴く気がしないというバチあたり……。

これはジャズ喫茶でも同様かと思われます。なにしろ定番として鳴っているのは後期の人気盤、例えば「The Scent Changes (Blue Note)」や欧州録音の「In Paris (Reprise)」あたりでした。確かにそれらは素敵なアルバムではありますが……。

そして同時にジャズの歴史では必聴とされるブルーノートセッションから作られた12インチ盤「The Amazing Vol.1 & 2」にしても、例えば「第1集」の冒頭に置かれた「Un Poco Loco」の三連発で疲れ果て、後はどうでも良いという雰囲気は免れません。

また、これも歴史的に決して無視出来ない1947年のルーストセッションは、録音も今日のレベルから聴けば稚拙ですし、なによりもパド・パウエルの演奏に鬼気迫る勢いがありすぎて、鑑賞が修行に転嫁する雰囲気も……。

その所為でしょうか、何故か同じ絶頂期を記録していたノーマン・グランツ制作によるノーグラン&ヴァーヴのセッションも、それほど聴かれているとは言えないと思います。その一番の要因は、同レーベルが1950年代中頃のパド・パウエルを録音した作品の質について、あまりにも無頓着にポロポロの演奏が多かったからでしょう。つまり「ヴァーヴのパウエルはダメ……」という定説が残ったのです。

しかし、それはあくまでも1950年代中期のパド・パウエルの姿であって、絶頂期を否定するものではありません。実際、本日の1枚を聴けば、目からウロコだったのが、私の体験です。

ということで、このアルバムはパド・パウエルが絶頂期だった1949年2月と1950年2月という、ふたつのセッションを纏めた12インチLPです。もちろん各収録曲はSPによる初出が多く、後に10インチ盤として再発されたものの再収録というのが真相ですから、演奏は3分前後のトラックばかりですが、その密度は文句無し! 聞くほどに圧倒されるほかはありません――

1949年2月録音
 A-1 Tempus Fugueit
 A-2 Celia
 A-3 Cherokee
 A-4 I'll Keep Loving You
 A-5 Strictly Confidential
 A-6 All God's Chillun Got Rhythm
 メンバーはパド・パウエル(p)、レイ・ブラウン(b)、マックス・ローチ(ds) という凄いトリオ! 演目も今や「パウエルのクラシック」となったオリジナルを4曲も含む、魂のセッションです。
 まずド頭のオリジナル曲「Tempus Fuguei」からしてテンションが高すぎるほどで、強靭な左手のコード弾き、スピード感満点の右手の指! その音選びにも気迫と熱気が満ちています。
 それはビバップ創成のカギとなったスタンダード曲「Cherokee」でも同様で、猛烈なスピード感と幻想性が奇跡の融合! マックス・ローチのブラシも凄いですねぇ~。このあたりは溢れんばかりの情熱で演じられた「All God's Chillun Got Rhythm」でも圧倒的ですから、もう、感動するしかありません。
 また有名な「Celia」や「Strictly Confidential」というパド・パウエルによるオリジナルバージョンは、和みモード優先ながら、ハッとするほど新鮮な音使い、そこはかとなく滲み出る哀感がたまらないほどです。
 そしてパド・パウエルが畢生の名曲・名演とされる「I'll Keep Loving You」は、完全なソロピアノで美しいメロディを力強く、さに夢見る如く奏でてくれますから、これも本当に感動的!
 ちなみにこれらの音源は一部、他社にも貸し出されていた事情がありますし、年代的にマスターが劣化している事もあって、アナログLP化された時は決して良好な再発とは言えませんでした。正直、雑音も混じっています。もちろん失礼ながら、日本盤はモヤモヤした音で煮え切らず、このあたりにも聴かれていない要因があるのですが、同じ再発でもモノラル仕様のアメリカ盤は、けっこう良い感じですし、CDであれば相当にハッキリしたリマスターになっていますので、これはぜひとも聴いていただきたい音源です。

1950年2月録音
 B-1 So Sorry Please
 B-2 Get Happy
 B-3 Sometimes I'm Happy
 B-4 Sweet Georgia Brown
 B-5 Yesterdays
 B-6 April In Paris
 B-7 Body And Soul / 身も心も
 こちらは前セッションから1年後の録音で、メンバーはパド・パウエル(p)、カーリー・ラッセル(b)、マックス・ローチ(ds) という、1947年のルーストセッションと同じトリオというだけで演奏の質は保証付き♪ 実際、本当に充実しきった名演ばかりです。
 それは猛烈な勢いや幻想性という、パド・パウエルというピアニストの天才性を証明する部分ばかりではなく、例えば「So Sorry Please」では絶妙のユーモア、「Sometimes I'm Happy」のファンキーな感覚、そして「Sweet Georgia Brown」では猛烈なスピードの中で伝統への回帰も感じさせる等々、進化したパウエル節の確立が楽しくも凄いところです。
 もちろん破滅的に爽快な「Get Happy」はハードバップへの足掛かりでしょうし、ソロピアノで演じられる狂気と偏執の「Yesterdays」は、余人を寄せ付けない境地を感じますが、それでいて、ちゃ~んと、和みもあるんですねぇ~~♪
 また一転して穏やかな「April In Paris」の優しい感情表現、十八番の幻想性が心に沁みる「Body And Soul」と、まさに名演ばかり! もちろんA面同様にノイズや雑音が混じっているマスターの劣化もありますが、これこそ聴かずに死ねるか、というセッションでしょう。

ということで、これぞパド・パウエルという真髄盤だと思います。しかし自発的に聴くためには、相当の覚悟というか、その日の気分やジャズに対する夢中感が必要なのは、紛れもない事実!

ですから、こういう演奏こそ、強制力のあるジャズ喫茶で聴かされるという「幸運」が必要かもしれません。残念ながら今日では堂々と営業しているジャズ喫茶という文化が廃れつつありますから、怖いパド・パウエルに接する機会は、ますます減少しているのではないでしょうか……。

しかし強制的に聞かされながら、何時しか自発的に演奏を聴いている自分に覚醒するのは、ジャズ者の快感に他なりません。ここに収められた演奏には、確かにそれがあると思います。

ジャズはあくまでも娯楽、と日頃から思っているサイケおやじにしても、たまにはこういう真剣勝負の極北にあるような演奏を朝から聴いて精神の修養、テンションを上げねばならない日もあるということで、本日はご容赦願います。

コメント (2)
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