OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

デューク・ジョーダンの泣き節は素敵

2008-09-11 15:54:15 | Jazz

世渡りが上手くない人っていうのは、どんな世界にもいるでしょう。矜持があるわけでもないのに、なかなか自分を曲げることが出来ないというか、貧乏クジに文句も言えない私もそのひとりだと思いますが、こうしていれば、いつかはきっと、良いこともあるだろう……、なんて儚い希望を持っているのも、また事実……。

そんな気分を支えてくれるのが――

Duke Jordan (Signal / Savoy)

ケニー・ドリューと並んで1970年代に大ブレイクしたピアニストがデューク・ジョーダンでした。そのきっかけは欧州で制作したアルバム「Flight To Denmark (Steeple Chase)」の好評で、その一抹の哀愁が滲むピアノタッチと泣き節フレーズが広くジャズ者の心を掴んだのです。

なんというか、ちょっとネクラな感性に惹かれるというか、特に私は忽ち大ファンになりました。

そして同時に、その不遇な半生も広く知られるようになり、例えばモダンジャズ創成期のトップバンド、つまりチャーリー・パーカーのバンドレギュラーを務めた実力がありながら、その後、何故かレコーディングに恵まれず、ついにはタクシー運転手やホームレスをやっていたとか……。あるいは名曲「危険な関係」の印税をごまかされたとか……。マイルス・デイビスとソリが合わずにホサれたとか……。

とにかくそういう人生の哀感や機微を知ってしまうと、なおさらにデューク・ジョーダンのピアノが心に染み入るのは否定出来ません。

さて、このアルバムはモダンジャズ黄金期に残された数少ないリーダーセッションから、ピアノトリオとクインテットという、2種類の演奏が楽しめる好盤です。

録音は1955年10月と11月、メンバーはデューク・ジョーダン(p)、パーシー・ヒース(b)、アート・ブレイキー(ds) のトリオ演奏がA面に、そしてB面にはエディ・バート(tb) とセシル・ペイン(bs) が入ったクインテットの演奏が収録されています――

A-1 Forecast (1955年10月10日録音)
 いきなりデューク・ジョーダン特有の「泣き節」が出たイントロ、そしてせつないテーマメロディが快適なテンポで演奏されるという、完全にツカミはOKの名演です。なんとも言えない寂しさが滲み出たピアノタッチも良い感じですねぇ~。
 アート・ブレイキーも豪放磊落なイメージとは逆の、全くシブイ伴奏が憎らしいほどのドラミングを披露♪ マイペースながら歌いまくりのペースソロを聞かせるパーシー・ヒースも流石だと思います。
 あぁ、それにしても全く無駄のない仕上がりで、何度聴いても飽きません。

A-2 Sultery Eve (1955年10月10日録音)
 これまた哀感が滲み出たデューク・ジョーダンのオリジナル曲で、スローテンポで微妙に「横ゆれ」したノリがたまりません。もちろん胸キュンのメロディとアドリブは最高で、晩年まで愛奏しつづれたのも納得の名演になっています。

A-3 They Can't Take Thay Away From Me (1955年10月10日録音)
 これもデューク・ジョーダンが十八番としているスタンダード曲で、というよりも、ここでの名演があっての十八番というべきでしょうか。
 ミディアムテンポで淡々と進む演奏は地味ながら力強いビートに支えられ、それに身を任せるようにデューク・ジョーダンが弾き出す「泣き節」フレーズには心底、泣けてきます。リズムへのノリとタメも最高過ぎますねぇ~~♪

A-4 Night In Tunisia (1955年10月10日録音)
 モダンジャズには欠かせない名曲の中の大名曲ですが、デューク・ジョーダンのイメージからすれば選曲はミスマッチ……。しかし参加ドラマーのアート・ブレイキーにとっては自身の代名詞ともいうべき演目ですから、どのような仕上がりになっているか、聴く前からワクワク状態です。
 そして結果は地味ながらもスイング感満点の好演で、あぁ、こういう「チュニジア」もあったのかっ!? と初めて聴いた時は肩透かしながらもシビレた記憶が鮮明です。
 気になるアート・ブレイキーは得意のアフロリックを出しまくっていますが、敲き方は抑え気味という珍しいところを披露しています。しかしこれも名人芸でしょうね。

A-5 Summertime (1955年10月10日録音)
 これが隠れ名演というか、数多いこの曲のジャズバージョンの中でも哀愁的解釈としては天下逸品だと思います。
 ちなみにここでは完全なデューク・ジョーダンの独奏、つまりピアノソロで演じられているのが高得点♪ その絶妙に「横揺れ」したノリは、全く個人的な感想ですが、なんとなくスイング期のピアニストから影響を受けているような……。
 もちろん歌心は、最高!

B-1 Flight To Jordan (1955年11月20日録音)
 B面に入ってはトロンボーンとバリトンサックスという低音楽器コンビを従えてのハードバップ大会! といっても、ド派手な部分よりは、デューク・ジョーダン特有の愁いが滲む、ソフトパップという感じが好ましいところです。
 この曲はデューク・ジョーダンが書いた中でも有名なメロディですし、晩年まで常に愛奏していたわけですが、ここでの演奏からは既にして枯れた哀愁が滲みだしています。
 もちろん共演者達も歌心優先モード♪ アート・ブレイキーのトラムソロさえも抑えた感情が……。

B-2 Two Lovers (1955年11月20日録音)
 これもデューク・ジョーダンが書いた傑作曲の中では人気があるメロディでしょうね。ゆったりしたテンポで切々とテーマを奏でるエディ・バートのトロンボーンが最高に深い味わいです。
 そしてセシル・ペインのソフトなバリトンサックスが、これまた素晴らしい感情表現で、本当に泣けてきますねぇ~~♪ 演奏時間の短さが残念至極です。

B-3 Cuba (1955年11月20日録音)
 タイトルどおり楽しいラテンジャズの小粋な快演♪ エディ・バードのトロンボーンはウキウキ感が最高ですし、アート・ブレイキーも本領発揮のアフロリックで燃えています。

B-4 Yesterdays (1955年11月20日録音)
 一転して憂愁のスタンダード曲がジンワリと演奏されます。とにかくデューク・ジョーダンのイントロからして寂しさがいっぱい……。セシル・ペインの柔らかなバリトンサックスも実にせつないです。
 もちろんデューク・ジョーダンのアドリブも哀切のフレーズ、枯れたピアノタッチで、とても当時三十代だったとは思えない、うらぶれた雰囲気が……。
 まあ、こういうネクラなところに、私はグッと惹きつけられるわけですが、やはりメロディ感覚の素晴らしさは絶品だと思います。

B-5 Scotch Blues (1955年11月20日録音)
 オーラスはこれもデューク・ジョーダンが書いた有名オリジナルで、マーチテンポの豪快な、と書きたいところですが、作者本人のオリジナルバージョンは威勢が良いというよりも……。
 しかしその絶妙のミスマッチ感覚が最高なんですねぇ~~♪ ちなみにこの曲にはアート・ブレイキーが率いるジャズメッセンジャーズのバージョンも残れさていますから、聴き比べも興味深いと思います。

ということで、デューク・ジョーダンの魅力が存分に楽しめる素敵なアルバムです。ハードバップ全盛期に残された貴重なリーダーセッションという事実もありますが、ファンにとっては、いつまでも古びないデューク・ジョーダンの真髄に触れることで喜びがいっぱい♪

共演者も好演で、特にアート・ブレイキーはド派手な印象からしてミスマッチかと思いきや、実はシブイ伴奏と臨機応変のドラミングも上手いという証明になっています。このあたりはキャノンボール・アダレイの傑作盤「Somethin' Else (Blue Note)」にも通じる魅力ですが♪

とにかくA面ド頭の「Forecast」を聴けば、最後まで聴き通さずにはいられない名演集だと思います。

コメント (2)
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