■Ray Bryant Trio (Epic)
レイ・ブライアントもまた、歴史的に云々されるようなピアニストではありませんが、広くジャズ者の心を掴んで放さない人気者でしょう。というよりもジャズに留まらない大衆的なヒット盤さえ出しているわけですから、そのあたりが、例えば天の邪鬼なサイケおやじには、ちょいと虚心坦懐になれない部分です。
しかし実際にレイ・ブライアントのピアノが流れてくれば、やっぱりジャズって良いなぁ~♪ と思わざるをえないのですから、いやはやなんとも自己矛盾ですね。
さて、このアルバムはレイ・ブライアントの初リーダーアルバムとされる人気盤♪ 選曲が抜群なんですよねぇ~♪
録音は1956年4~5月、メンバーはレイ・ブライアント(p) 以下、ワイアット・ルーサー(b) を要に、ケニー・クラーク(ds)、ジョー・ジョーンズ(ds)、オシー・ジョンソン(ds)、キャンディド(per) という頑固一徹な名人が参加しています――
A-1 Cubano Chant (1956年5月3日録音)
レイ・ブライアントといえば、まずはこれっ♪ というオリジナルの大名曲ですから、ライブの現場はもちろんの事、これまでに公式レコーディングも幾つか残されていますが、これこそ正真正銘の初出バージョンだと思われます。
哀愁が滲むエキゾチックなメロディとラテンビートの泣ける融合は、聴くほどに味わい深く、キャンディドのパーカッションも本当に効果的♪
アドリブパートでの快適な4ビート、転がりまくるレイ・ブライアントのピアノからは素敵なメロディが連続放射されるのでした。
A-2 Off Shore (1956年4月3日録音)
ほとんど知らない曲タイトルですが、メロディそのものは、どっかで聞いたこのがあるような、とにかく「泣き」が効いています。そしてレイ・ブライアントは繊細にして黒っぽいタッチでテーマを変奏しているだけなんですが、これがクセになる大名演♪
A-3 Well, You Needn't (1956年5月11日録音)
セロニアス・モンクが書いたエキセントリックなメロディも、レイ・ブライアントが弾けば、ちゃ~んと和みが漂いますから流石です。
というか、ハードなスイング感と小粋なフィーリングの巧みな融合が独自の黒っぽさを醸し出しているようです。オシー・ジョンソンのブラシも気持ち良いですよ♪
A-4 Cry Me A River (1956年4月3日録音)
これまた「泣き」が入った人気曲♪ それをレイ・ブライアントが弾いてくれるだけで、満足してしまう隠れ名演です。あぁ、このテーマメロディの思わせぶりな解釈、グッと粘っこいビート、それでいて非常にお洒落なフィーリング♪ たまらない世界です。
アドリブ無くても、ジャズはジャズ!
A-5 In A Mellow Tone (1956年5月3日録音)
デューク・エリントンが書いたジャズっぽくてリラックスしたリフが、レイ・ブライアントのスイング感と絶妙にマッチしています。さり気なく弾かれるテーマからグルーヴィなアドリブパートへの流れは、サポートメンバーとの息もぴったり♪
ワイアット・ルーサーのベースソロも歌心の塊です。
A-6 You'er My Thrill (1956年5月3日録音)
地味ながら味わい深いメロディが素敵なスタンダード曲で、こういう演目を選ぶあたりにレイ・ブライアントのセンスが窺えます。
実際、シンミリとして心に沁み入るピアノの響き、中盤の力強い展開、ジワジワと盛り上げるクライマックスまで、本当に上手く組み立てられていると感じますが、それほどの計算高さは無いと信じております。
B-1 A Night In Tunisia (1956年5月3日録音)
B面ド頭は再びキャンディドが参加した楽しいアフロハードバップ! 調子が良すぎるリズムへのノリ、分かり易いアドリブというレイ・ブライアントが十八番とする見本のような仕上がりだと思います。テキパキと転がるピアノが、本当に気持ち良いですよ♪
B-2 Goodbye (1956年4月3日録音)
ペニー・グッドマンが自身のライブでお別れの曲に使っていた感傷的なメロディということで、これもレイ・ブライアントならではの小癪な選曲だと思います。
しかもここでは素直にメロディを弾くだけの演奏から、限りなくジャズへの愛着が感じられるという、これは贔屓の引き倒しにはなっていないでしょう。聴いていただければ、万人が納得されると思います。
B-3 Philadelphia Bound (1956年4月3日録音)
溌剌としたスイング感が徹頭徹尾楽しめるアップテンポの快演です。ケニー・クラークのブラシも素晴らしく、短いながら爽快感がいっぱいです。
B-4 Pawn Ticket (1956年5月11日録音)
これが如何にもというレイ・ブライアントのオリジナル曲で、つまりは自身が十八番のアドリブフレーズを使いまわしたようなテーマが痛快です。まさに4ビートの楽しさが実感出来る演奏で、もちろんオシー・ジョンソンのブラシも大活躍♪
B-5 The Breeze And I / そよ風とわたし (1956年5月3日録音)
あまりにも有名なラテンの名曲を臆面もなく演じてしまうレイ・ブライアントは流石だと思いますねぇ~♪ ただし無理にジャズっぽくしようとしたアレンジがイマイチでしょうか……。
それでも4ビートで展開されるアドリブパートには歌心とジャズ魂がいっぱい♪ これがレイ・ブライアントの「らしい」姿なんでしょうねぇ~。
B-6 It's A Pity To Say Goodnight (1956年5月11日録音)
オーラスは小粋で楽しいレイ・ブライアントの本質が存分に発揮された名曲名演です。いゃ~、こういうのを聴いているとジャズって本当にやめられないと思いますねっ♪ テーマメロディのそこはかとない哀愁とレイ・ブライアントの溌剌としたピアノタッチのミスマッチが、実に素敵だと思います。
ということで、ほとんどの曲が3分前後の短さですが、LP片面の流れも良く、アッという間に聴き終えてしまうアルバムです。なにしろ演目が良いですからねぇ~♪
レイ・ブライアントはこの時、二十代半ばだったと思われますが、既にして洗練された雰囲気と黒っぽい感性をしっかりと身につけているのは、驚きとしか言えません。スタイルとしては、なかなか融通のきくタイプでしょうが、頑固さも一筋縄ではいかないところが感じられますし、すると後年の大衆路線も決してお仕着せではなかったんでしょうねぇ。
ジャケット同様、黒光りするレイ・ブライアントに乾杯!
廃盤になってしまいましたが60歳記念のアルバムも楽しい仕上がりでした。
コメント、感謝です。
レイ・ブライアントは相当に融通のきく人だと思うんですが、それでいて、ちゃんとスジは通すピアニストなんでしょうね。
ご推薦の還暦盤、ぜひとも聴いてみたいです。タイトルを教えていただければ、幸いです。
偶然手に入れたのがVol.1で、Vol.2も聴きたいと探したんですが廃盤と言われて諦めた記憶があります。
中古で出回っているかどうか?ですが・・・
タイトルはThrough The Years
メンバーはGrady Tate(drums) Rufus Reid(bass)
1992年の録音です
ありがとうございますっ♪
ちょっとネットで調べてみたら、「枯葉」や「Cubano Chant」、「Cry Me A River」という十八番がズラリですね♪
これは万難を排して入手しなければ!
どうしても聴きたいです。