OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

休日にナバロ

2008-09-20 11:25:28 | Jazz

The Fabulous Fats Navarro Volume 2 (Blue Note)

モダンジャズを聴き始めると、やがて圧倒され、好きになるトランペッターがクリフォード・ブラウンという早世した天才でしょう。

そしてその偉人が尊敬し、ルーツとしていたのがファッツ・ナバロという黒人トランペッターだと知ったとき、その演奏も聴きたくなるのが人情というものです。

ところがファッツ・ナバロという人はモダンジャズ創成期に活躍し、やっぱり早世しているので、きちんとしたアルバム用の音源は残されておらず、SPという所謂「3分間芸術」の世界でしか楽しむことが出来ません。

しかも以前の我が国では、その音源すら纏めて聴くのは困難で、存在の確かさよりも肝心のレコードが冷遇されていた雰囲気ですから、その中でどうにかファッツ・ナバロを楽しめたのはブルーノートで編集されていた12インチ盤だけでした。

それがご存じ、パド・パウエルの「The Amazing Vol.1」とファッツ・ナバロ自身をリーダーに見立てて関連音源を集成した「The Fabulous Vol.1 & 2」です。

というように、このブルーノート音源にしても、決してファッツ・ナバロのリーダーセッションでは無く、タッド・ダメロンのレギュラーバンド、そしてハワード・マギーやパド・パウエルのリーダーセッションにゲスト参加したものばかりなんですが、それでも聴かずにはいられない魅力が確かにありました。

で、私はその「Fabulous Vol.2」をよく聴きましたですね。それは、これまた私の大好きなワーデル・グレイ(ts) が聴けるからでもあります。

そして収録音源は前述したセッションから適宜選ばれていますが、その内容は12インチLP化するにあたり、初出未発表の別テイクを大量収録した好企画となっています――

A-1 Lady Bird (alternate)
A-2 Lady Bird (Blue Note 559-B)
A-3 Jahbero (alternate)
A-4 Jahbero (Blue Note 559-A)
A-5 Symphonette (alternate)
A-6 Symphonette (Blue Note 1564-B)
B-1 Double Talk (alternate)
B-2 Bouncing Wiht Bud (alternate-1)
B-3 Dance Of The Infidels (alternate)
B-4 The Skunk (alternate)
B-5 Boperation (Blue Note 558-B)

1948年9月13日録音:タッド・ダメロン楽団
 A-1 Lady Bird (alternate)
 A-2 Lady Bird (Blue Note 559-B)
 A-3 Jahbero (alternate)
 A-4 Jahbero (Blue Note 559-A)
 A-5 Symphonette (alternate)
 A-6 Symphonette (Blue Note 1564-B)
 A面全部がタッド・ダメロンのレギュラーバンドによる録音で、その中の半分がこのアルバムで初出の未発表テイクでした。メンバーはファッツ・ナバロ(tp)、ワーデル・グレイ(ts)、アレン・イーガー(ts)、タッド・ダメロン(p,arr)、カーリー・ラッセル(b)、ケニー・クラーク(ds)、チャノ・ポゾ(per) という精鋭陣♪
 まず「Lady Bird」はハードバップ時代にも頻繁に演奏されていたタッド・ダメロンの代表曲ですから、既にこの時点でリズム隊のグルーヴに粘っこい雰囲気があるのは当然かもしれません。しかしファッツ・ナバロのアドリブは端正で完成されたフレーズの連なりが見事であり、それがスリルの欠如に繋がっているような……。また別テイクでも、その展開があまり変わっていないという謎が解けています。あくまでも個人的な考えですが、これはファッツ・ナバロの特徴というか、テイクを重ねる度に自分のアドリブを良い方向に修正していった記憶力のある人だったんじゃないでしょうか? つまり「出来あがっているアドリブ」という……。
 しかしそれでも非常に魅力のあるトランペッターであることには違いなく、そのメロディに拘った表現、ソフト&ハードな音色は流石の存在感だと思います。特に「Symphonette」のマスターテイクは素晴らしいですねっ♪ 短いながらも、随所にクリフォード・ブラウンの元ネタが散見されますよ♪
 一方、気になるワーデル・グレイは、もうひとりのテナーサックス奏者であるアレン・イーガーと極めて似たスタイルで好演♪ フワフワと浮遊感のある音色とフレーズが特徴的な白人のアレン・イーガーとは対照的に、同じレスター派でありながら、黒人らしいハードエッジな音色とノリがヤミツキの魅力です。
 そしてタッド・ダメロンのアレンジは小型エリントンというか、秀逸な作曲能力を活かした快適さが良い感じ♪ 狂騒と先鋭が特徴的だったビバップに洗練されたアレンジを持ち込んだ功績は評価されて当たり前ですが、例えば「Jahbero」に聞かれるような幻想性が表出したラテン曲の演奏には、ある種のミステリアスなムードが漂う不思議な味わいがあります。ファッツ・ナバロも大名演を披露していますし、なんとなく新東宝映画のキャバレー場面のように、万里昌代か三原葉子でも踊り出て来そうな♪♪~♪
 という全3曲、計6テイクは録音状態も含めて、確かに古臭い演奏かもしれませんが、本当にモダンジャズの元ネタが秘められた遺産でしょう。聴けば聴くほどに目からウロコです。

1948年10月11日録音:ハワード・マギーのオールスタアズ
 B-1 Double Talk (alternate)
 B-4 The Skunk (alternate / LP master)
 B-5 Boperation (Blue Note 558-B)
 これも楽曲としては既にSPや10インチ盤で発表されていましたが、ここに収録された中の2つが初出という嬉しいプレゼント♪ メンバーはハワード・マギー(tp,p)、ファッツ・ナバロ(tp)、アーニー・ヘンリー(as)、ミルト・ジャクソン(vib,p)、カーリー・ラッセル(b)、ケニー・クラーク(ds) というビバップ野郎が集結しています。
 まず「Double Talk」は如何にもビバップという狂騒の中で秘術を尽くしたハワード・マギーとファッ・ナバロのトランペット対決が展開されます。尖鋭的なのがマギー、ソフトなフレーズを使うのがナバロでしょうか。意外にも本格的なミルト・ジャクソンのピアノ、シャープなアーニー・ヘンリーという共演者も好演で、とても残り物とは思えない出来だと思います。
 また「The Skunk」も別テイク扱いは勿体ない優れた演奏で、全篇にモダンジャズ特有のグルーヴィな雰囲気が横溢していますが、ファッツ・ナバロのスタイルには明らかにスイング系のノリも散見されるという温故知新が楽しいところ♪
 そして「Boperation」はファッツ・ナバロが書いた凝り過ぎのビバップテーマが暑苦しい感じですが、アドリブパートの展開も難しい雰囲気で、これはリアルタイムでも相当に前衛だったんじゃないでしょうか? ちなみにこの曲は最初、SPの片面として発売され、そこにカップリングされたのはセロニアス・モンク(p) の演奏でしたから、さもありなんですね。

1949年8月8日録音:バト・パウエルのクインテット
 B-2 Bouncing Wiht Bud (alternate-1)
 B-3 Dance Of The Infidels (alternate)
 ジャズ史的にも有名なパド・パウエルのセッションから、別テイクが2曲の初公開! これは当時も事件だったんじゃないでしょうか。メンバーはファッツ・ナバロ(tp)、ソニー・ロリンズ(ts)、パド・パウエル(p)、トミー・ポッター(b)、ロイ・ヘインズ(ds) という、硬軟自在の名手達です。
 とにかくビバップ真っ只中の決定的な演奏は、緊張感とハードな雰囲気、グルーヴィなモダンジャズ特有のノリ、さらに創造性に溢れた名演とした言えません。一端は不採用とされたテイクがここまでの出来なんですから、何度聴いても唖然とさせられますねっ!
 ファッツ・ナバロはもちろん快演で、「Bouncing Wiht Bud」ではソニー・ロリンズのアドリブが終わるのを待ちきれない感じで滑らかに突っ込みが凄いです! しかし「Dance Of The Infidels」では、些か情緒不安定気味なところがエキセントリックな曲調には合っているという苦しい言い訳が……。
 一説によると、ファッツ・ナバロとパド・パウエルは犬猿の仲だったとか!? お互いの自意識過剰がジャズという個人主義の芸能には好結果をもたらしたのでしょうか。ただしファッツ・ナバロに限っては、「Dance Of The Infidels」のマスターテイクの方が圧倒的に素晴らしいと思います。

ということで、決してリラックスして聞ける演奏ばかりではありません。もちろんアルバムとしてのLP片面の流れはそれなりに工夫してありますが、あくまでもスピーカーと対峙して勝負する気構えが必要かもしれません。

しかしモダンジャズという、ある種の「鑑賞用音楽」であれば、それも楽しみのひとつではないでしょうか。たまさかの休日には、こんな贅沢も許されるでしょう。

あっ、お彼岸のお墓参りに行かなければ!

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