過去はどうあれ、人間は「今」が大切! 最近、各界のいろいろな騒動から、私はそう、感じています。つまりそれはライブ感覚の生き方というか、瞬間的な緊張と緩和が必要で、これが難しいのが人生なんでしょうか……。
と本日も分からないなりに思うサイケおやじの生意気は――
■Stan Getz At Storyville Vol.2 (Roost)
ジャズは絶対「生」が良い! とする気持ちは、つまり瞬間芸というジャズの本質を言い当てていますが、それとて実は優れた演奏家にしか適用出来ない嗜好でしょう。
と、いきなり硬い書き出しになってしまいましたが、実際、ライブの現場でメロメロ、あいるはそうならなくても、イモを演じたジャズメンに接するのはハラハラしてせつなくなったりします。
それが特に贔屓のバンドだったりすると、もう、いけません。
しかし極上の天才アドリブプレイヤーならば、何時だってOK♪
例えばスタン・ゲッツは白人最高峰のテナーサックス奏者として、その素晴らしさは多くのレコードに残されていますが、やはりライブは格別というのが、本日の1枚です。
録音は1951年10月28日、ボストンの有名店「ストーリーヴィル」でのライブで、メンバーはスタン・ゲッツ(ts)、アル・ヘイグ(p)、ジミー・レイニー(g)、テディ・コティック(b)、タイニー・カーン(ds)という夢のようなレギュラーバンドです。
ちなみにこの時のセッションからは12インチLPで2枚のアルバムが作られていますが、今回は特に私が好きな「第2集」を聴いています――
A-1 Hershey Ba
アル・ヘイグの弾く軽快なピアノのイントロから流麗なテーマメロディが鳴り出せば、忽ちその場はゲッツ色♪ スピード感いっぱいの快適な演奏が展開されます。
もちろんスタン・ゲッツのテナーサックスからは柔らかな音色で歌心満点のフレーズが連発され、それでいてアグレッシブな表現も抜かりはありません。
またジミー・レイニーのギターが、これまた流麗の極み♪ 続くアル・ヘイグのピアノからも、そこはかとないマイナー感覚が滲み出て、幸福の桃源郷へ誘われるのでした。
ただし残念というか、ラストテーマがブツ切れ状態で強引に拍手を被せたようなテープ編集が???
A-2 Rubberneck
これもアップテンポで流れるような演奏が心地良いかぎりです。テーマメロディに秘められた哀愁を完全に活かしきったスタン・ゲッツのアドリブは、まさに名人芸♪
ジミー・レイニーのギターやアル・ヘイグのピアノにも同種の輝きが感じられます。しかしここでは全体に躍動的で油断のならないリズム隊の働きが秀逸だと思います。
A-3 Signal
ジミー・レイニーのクールなオリジナル曲で、アップテンポの凝ったテーマメロディが不思議な魅力を発散しています。
というか、それがスタン・ゲッツのアドリブでジャズ的に翻訳されていく過程が素晴らしく、独特の浮遊感、緩まないスピード感が爽快の極みなんですねぇ~♪
もちろん作者のジミー・レイニーも大健闘! ごまかしの無いフレーズ展開と上手いピッキングは流石です。
そしてアル・ヘイグの素晴らしさは言わずもがなでしょう。
A-4 Everything Happens To Me
ここまで同じような急速テンポの演奏が続いてきた後だけに、このバラード演奏には心底、和みます。曲が私の大好きなスタンダードというのも、嬉しいですねぇ♪
そしてスタン・ゲッツが無限のイマジネーションを全開させれば、ジミー・レイニーは華麗に歌い、アル・ヘイグは一抹の哀愁を滲ませた名演です。
いずれも短いアドリブソロですが、密度は最高なのでした。
B-1 Jumpin' With Symphony Sid
これが躍動的な大名演! テーマメロディのワクワク感、アドリブパートの創造性、さらにグルーヴィなリズム的興奮が上手くミックスされていますが、これこそライブの醍醐味でしょうねぇ~♪
実際、アップテンポで流れるように吹きまくるスタン・ゲッツも素晴らしいと思いますが、この演奏のようにミディアムテンポのドライブ感も強烈にジャズを感じさせてくれます。
その縁の下の力持ちは、後のハードバップ時代でも大活躍するベースのテディ・コティックの存在かもしれません。グイノリのペースウォーキングが実にたまりませんし、ちょっと音程が危なくなっているアドリブソロでも臆することの無く、鋭いフレーズを披露しています。
大団円の中華メロディも憎めませんねっ♪
B-2 Yesterdays
これも有名スタンダードですから、安心してスタン・ゲッツの歌心が堪能出来ます。力強いビートに支えられながら、せつない「泣き節」を披露するという黄金の展開が最高ですし、スピード感に満ちたキメ、独特の浮遊感は唯一無二!
これぞ天才の証だと思います。
B-3 Bude
オーラスはビバップの白人的解釈の典型で、スピード感に満ちたバンドのノリが素晴らしく、スタン・ゲッツも十八番のフレーズを出しまくって燃えあがります。いゃ~、本当にアドリブのアイディアが止まらない感じで、特有の手クセっぽいフレーズも快感という他はありません。
ジミー・レイニーとアル・ヘイグ、そしてタイニ・カーンも好演ですが、全ては主役のスタン・ゲッツに収斂していくのでした。
ということで、最高に素晴らしい名演ライブ盤なんですが、惜しむらくは「音」がイマイチ良くありません。なんとなくモヤモヤした録音にキレが無いのです。
ちなみに私有盤は掲載したアメリカ盤12インチ再発LPですから、録音年代も考慮すれば納得する他はありませんし、CD再発ではリマスターも施されているはずですが、それは例によって未確認……。う~ん、ひとつ買ってみましょうか。
とにかく名演には違いないと思います。そして1回でいいから、この当時のスタン・ゲッツをライブで聴いてみたかった……、と見果てぬ夢を見ています。