OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

アレン・ハウザーのピュアハート

2008-09-25 14:21:26 | Jazz

No Samba / Allen Houser (Stratght Ahead)

1970年代のジャズ喫茶はクロスオーバー~フォージョンの大ブームによって様変わりも激しく、その店独特の雰囲気がますます強くなった時期でした。

例えば新宿周辺では何時の間にかフュージョン専門店になった「ポニー」、頑固にハードバップな「ビザール」、保守本流の最先端という「ディグ」、落ち着いた雰囲気の「イーグル」、さらに質が高ければ何でもありの「イントロ」というのは氷山の一角でしょう。

まだまだ多くのジャズ喫茶が日本独自の文化を形成していた幸せな時期だったと思います。

そしてその中には「ジャズ喫茶の名盤」というジャンルがあって、ジャズマスコミには大きく紹介されなくともリクエストが多いというアルバムが、確かに存在していたのです。

例えば本日の1枚は、その代表格というか、チープなジャケットに盤質の粗悪さまでもが目立つアナログLPでしたが、内容はグッと濃厚な主流派ジャズ! もちろんリーダーのアレン・ハウザーなんて、今に至るも全く無名扱いのトランペッターですから、聴いて得したような♪

しかしこのブツはご推察のように自主制作盤でしたから、聴いて気に入り、レコード屋へ行ったって容易に手に入るはずも無く……。こまめに中古屋巡りをして、ようやくゲットしたとしても、盤質の悪さゆえに針飛びやプレスミスがあったりして……。

それが先日、久々に中古屋巡礼をしていたら紙ジャケ仕様のCDで復刻されているのを発見! 即ゲットしてきました。

録音日の記載はありませんが、アルバムが発売されたのは1973年で、我が国に入ってきたのは翌年だったと言われていますから、そのあたりの時期の演奏でしょう。メンバーはアレン・ハウザー(tp)、バック・ヒル(ts)、ヴィンス・ジェノバ(p)、スティーヴ・ノボセル(b,el-b)、テリー・ブルーメリ(b)、マイク・スミス(ds) という、ほとんど無名の面々ですが――

01 (A-1) Mexico
 タイトルどおり、エキゾチックな香りが濃厚なメキシコ風味のメロディ、ボサロックもどきのリズムが熱い演奏です。もちろんこれは、1960年代のブルーノートあたりで良く聞かれた味わいなんですねぇ~♪
 アレン・ハウザーのトランペットは些か細い音色ながら張り切った音出しと熱血のフレーズ、バック・ヒルのテナーサックスは、もっさりした音色と野暮ったいフレーズが逆にジャズの本質に迫った感じです。
 そして続くベースのアルコ弾きによるアドリブは、もはや「哀愁の」という形容詞しか当てはまらない「泣き」の世界ですよ。プログレのデイヴィッド・クロスとかエディ・ジョヴスンのバイオンりのような味わいさえ感じられ、私はここで胸キュンの世界へ行ってしまいます。
 さらにピアノのヴィンス・ジェノバが饒舌な音使いで、せつない美メロの乱れ撃ち♪ 全篇で真摯な姿勢を崩さないマイク・スミスのドラミングにも好感が持てますから、クライマックスの熱血大会も潔いです。

02 (A-2) Charlottesville
 うっ、これはマイルス・デイビスの某曲の演奏に似ていないか!? というか1960年代末期の模索期の雰囲気が濃厚で、じっくりと構えたテンポの中でメンバー全員が、いかにも「らしい」試行錯誤を繰り広げています。
 中でもピアノのヴィンス・ジェノバはハービー・ハンコックがモロ出しの部分から、なんとか個性を出そうと奮闘し、これがジャズ者にはグッと琴線に触れる演奏じゃないでしょうか。

03 (B-1) No Samba
 アルバムタイトル曲は思わせぶりなスタートから熱血のハードバップへと転進する、全く「ジャズ喫茶の名盤」的な演奏です。ラテンのリズムとロックビートがゴッタ煮となったクルーヴィなノリが実に楽しく、アレン・ハウザーも本領発揮のハイノートを炸裂させる、まさに渾身のアドリブを聞かせてくれます。
 ちなみに付属解説書によれば、この人の正体はワシントンで活躍するローカルミュージシャンらしく、このアルバムを出した時は三十代前半という、ある意味では充実期だったようです。

04 (B-2) Causin Rae's 3-Step
 ワルツビートを使った快適なハードバップ、というよりも新主流派にどっぷりの演奏で、ちょっとエコーが効いたトランペットの響きが妙に心地良いです♪ まあ、このあたりの手法は賛否両論かもしれませんが……。
 リズム隊も熱い好演で、特にドラムスのマイク・スミスが大ハッスル!

05 (B-3) 10 Years After
 なんか有名ロックバンドみたいな曲名ですが、これまたモード期のマイルス・デイビスを意識した演奏が憎めません。実はこのアルバムが出た当時の我が国ジャズ喫茶では、こういうスタイルが一番、好まれていたんですねぇ。これが出来たのは、他にウディ・ショウ(tp) ぐらいしか居ませんでした。
 なにしろリー・モーガンは突然に亡くなり、フレディ・ハバードはクロスオーバーにどっぷり、マイルス・デイビスは電気にシビレて隠遁寸前だったのですから、このアルバムがウケたのは当たり前というわけです。
 肝心の演奏はヴィンス・ジェノバのピアノが疾走し、アレン・ハウザーのトランペットがモダンジャズへの真剣勝負を披露! そしてバック・ヒルのテナーサックスがウェイン・ショーターを意識しつつも熱く咆哮すれば、マイク・スミスのドラムスがトニー・ウィリアムスの如き暴れを聞かせて、スカッとします。う~ん、ベースがロン・カーターに聞こえてきたぞっ!

ということで、どこまでも保守本流に拘った演奏集なんですが、1973年の時点でこんな事をやっていたら、本場アメリカでは表舞台に登場出来ないのも納得するしかありません。

アレン・ハウザー自身にもいろんな事情があって、例えばニューヨークでの活動は無理だったのかもしれませんが、それゆえにピュアな演奏を貫き通せたといっては贔屓の引き倒しでしょうか。

このアルバムを聴いていると、「正直者はバカをみる」とは言いたくありません。ただただ、こういう演奏を残してくれたアレン・ハウザーに感謝するのみです。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする