OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

リトル・フィートの分からなさも魅力

2011-07-28 16:04:19 | Rock

Dixie Chicken / Little Feat (Warner Bros.)

世の中には真相真偽が分からなくとも、なんだか凄~~いっ!

そう認めざるをえないものが確かに存在しています。

例えば本日ご紹介のLPも、サイケおやじにとってはそうした中の1枚で、今ではロックの名盤選には必ずや入る傑作ではありますが、発売された1973年当時、これをすんなりと受け入れられたロックファンはどのくらい……?

実はサイケおやじがこのアルバムを買ったのは、その1973年末で、某デパートの輸入盤セールだったんですが、それにしたって運命的な出会いがあった前作「セイリン・シューズ」を気に入っていたからです。

ところが、この「ディキシー・チキン」は「セイリン・シューズ」と何か根本から違っていたというか、とにかく全篇で演じられリズムとビートが通常のロックの観念から大きく外れている感じで、極言すれば「合っていない」し、「撚れている」感じなんですねぇ。

これは「セイリン・シューズ」が、まさにスマートでダイナミックというロック王道のアプローチを聞かせていた事を鑑みれば、あまりにもヘンテコリン……???

つまり、当時のサイケおやじの感覚では、どこかしらイライラさせられるところが多く、しかしそれでいて妙にスリリングで不思議と気持良い瞬間も提供されるんですから、本当に分からないけど、これは凄いんじゃないかなぁ~、と思う他はありませんでした。

 A-1 Dixie Chicken
 A-2 Two Trains
 A-3 Roll Um Easy
 A-4 On Your Way Down
 A-5 Kiss It Off
 B-1 Fool Yourself
 B-2 Walkin' All Night
 B-3 Fat Man In The Bathtub
 B-4 Jullette
 B-5 Lafayette Rallroad

まずA面ド頭の「Dixie Chicken」からして、曲調は所謂ホンキートンクスタイルのピアノを全面に出し、しなやかで強靭なスライドギターが絶妙の合の手と彩りを添えるという、実に楽しい歌と演奏なんですが、その根底を形作るビートがロックでも無し、ソウルでも無し……。あえて言えばジャズの原型のようでもあり、また中南米からの陽気なリズムも入っているような……。

う~ん、なんと申しましょうか、今でこそ「暗黙の了解」で全体を俯瞰しながら楽しめるグルーヴも、サイケおやじのリアルタイムの感覚では、ついていけないものがありましたですねぇ。

しかし、そんな中にも女性中心のバックコーラスが完全にスワンプロックだったことが例によって特有の熱気を撒き散らしますから、これがクセになるのも、また事実でした。

そこでようやくジャケット裏のクレジットを仔細に確認すると、なんとリトル・フィートそのものがバンド編成を変えた6人組に!?!? それは公式デビュー当初の4人組からベースのロイ・エストラーダが抜け、ローウェル・ジョージ(vo,g)、ビル・ペイン(key,vo)、リッチー・ヘイワード(ds) のオリジナルメンバーに加えて、ポール・バレール(vo,g)、ケニー・グラドニー(b)、サム・クレイトン(per) が新たに入っています。

また前述した女性コーラス隊は、もちろんレコーディングセッション用の助っ人ではありますが、デラニー&ポニーのボニー・ブラムレット、ブルース姐御のボニー・レイット、後にはマーク・ボランの夫人となるグロリア・ジョーンズ等々の芯の強い個性派が揃っていますから、ゴスペル&ソウルフルな盛り上がりは「お約束」以上のものになったのも納得でした。

ちなみに新参加メンバーとなったケニー・グラドニーとサム・クレイトンの2人は当時のデラニー&ポニーのサポートバンドで働いていたとか! 後に知ったところでは、このアルバム制作前後のリトル・フィートは全く売れておらず、ほとんどバンド活動が出来ないままにメンバーは様々なスタジオセッションや有名歌手のツアーグループに参加する事で生計を立てていたらしく、そんな境遇の中にあってボニー・ブラムレットやボニー・レイットはリトルフィートの理解者であったと言われています。そしてデラニー&ポニーが離婚からグループ解散に至った時、ケニー・グラドニーとサム・クレイトンが新編成されたリトル・フィートに参加出来たのも、そうした流れかもしれません。

さて、そこで既に述べたような新リトル・フィートの「捻じれたグルーヴ」の元ネタは何か!?

実はこのアルバムを聴く前のサイケおやじは、既に同種の変態(?)ロックビートに接しており、それは「Jumpin' Jack Flash」から続くストーンズのスワンプロック路線諸作であったり、ライ・クーダーデビューアルバムやザ・バンドの「カフーツ」あたりに顕著な、所謂アメリカ南部の風土に根差したR&Bの白人的解釈!?

それは今日、「ニューオリンズR&B」の影響云々と簡単に述べられるようですが、リアルタイムの日本では、そんな事に気がついていたのは極一部の音楽マニアだったと思います。

しかし演奏者各々が自らの信ずるところによって独自のシンコペイションを追求し、バンド全体でポリリズムを作り上げていく手法は、明らかにジャズの源流と無関係ではないと思います。例えばニューオリンズジャズと呼ばれる集団即興演奏を聞かせてくれるグループは例外なく、それじゃないでしょうか。

そして、ひとつの方向性を統一していく過程で形成されたのがスイングやモダンと称される基本的なジャズのスタイルだとしたら、もうひとつニューオリンズで作られていた黒人R&Bにも、ダンスミュージックとしての利用価値と同等の意図的にシンコペイトされた大衆音楽があって当然!?!?

と、そんなこんなは、どこまで書いても後付けでしかありませんが、続く「Two Trains」の所謂ファンキーグルーヴは、それまでに聴いていたグラント・グリーンのソウルジャズ物とか、あるいは同時代に作られていたジャズファンク系の演奏に共通したノリがあって、いゃ~~、実に気持が良くなってしまいましたですよ♪♪~♪ 実際、飛び跳ねるビートの快感と猥雑なボーカル&コーラスに絡みまくるスライドギター、さらには浮遊感満点のエレピと低い重心で蠢くベース、そしてチャカポコリズムのパーカッション! 当然ながらドラムスもビシバシですから、本当にたまりません♪♪~♪

こうしてすっかりノセられてしまったサイケおやじが、再びグッと惹きつられたのがスローでフォーキーな「Roll Um Easy」で、アコースティックギターとエレキスライドに彩られた哀愁の歌は、ちょうどストーンズが畢生の名盤「ベガーズ・バンケット」で演じた「No Expectations」に一脈通じる名曲名演だと思います。

う~ん、ここまでの冒頭三連発で、全く正体不明の快さに酔わされることは必定!

ただし既に述べたように、なにか非常に捻じれているというか、如何にもストレートなロック的醍醐味が薄いのは否定しようもありません。

つまり当時の流行ど真ん中だった、叩きつけるようなハードロックの魅力もなく、あるいはサザンロック的なダイナミックなウネリも感じられず、それでいてシンプルなソウルっぽさや素直にウキウキするような情熱も表出していないことは、その頃の洋楽では珍しい部類じゃなかったでしょうか。

ところが聴くほどにミョウチキリンな魅力の虜になるのは、何故!?

そうした疑問を打ち消すことが出来なかったのが、サイケおやじの偽りのない気持でしたから、もっさりしたスワンプロックの如き「On Your Way Down」が未だ素顔を見せない感じだったり、インド系パーカッションが不気味な雰囲気を醸し出す「Kiss It Off」がエキセントリックなフォークソングでありながら、シンセや変態オルガンがプログレしてしまうのは本当に気持が悪く、しかしローウェル・ジョージのリードボーカルが表現する哀愁と信念に満ちた諦観のようなものは、強く印象に残ると思います。

するとA面のここまでの流れは、なんとっ! もう一回聴きたくなるほどに完璧だと思わざるをえないんですねぇ~~~♪

しかし意を決してB面に針を落とせば、これまたずっしり重いビートに支えられたフォークロックのスワンプ的な解釈が冴えまくりという「Fool Yourself」、ほとんどフェィセズ調の「Walkin' All Night」、ズレまくりのビートとリズムが後に知るセカンドラインというニューオリンズ伝来の手法を用いた「Fat Man In The Bathtub」の変態性が、これはこれでA面と立派な対をなす構成かもしれません。

特に「Fat Man In The Bathtub」は、ギターのオカズ風リフをコピーして気がつくんですが、意図的にシンコペイトするのは非常に難しいはずが、結果的に下手くそがイモってやった偶然の産物を計算ずくで演じたような凄さがあるんですよねぇ~。これはバンド全員に共通した認識として、見事過ぎる全体のグルーヴが大成功の名演じゃないでしょうか。

本当に凄いと思います!

そして、またまたシンコペイションの連続技がフュージョンロックになっている「Jullette」の恐ろしさ!

さらにオーラスのインスト曲「Lafayette Rallroad」では、それがイヤミ無く継承され、スライドギターの魔法が存分に味わえるんですから、このあたりで鈴木茂やキャラメル・ママを聴きたくなっても、それは正解です。

なにしろ彼等の同時期のレコーディングには、リトルフィートの面々が全面参加したものが立派に存在しているのですからっ!

ということで、商業的には決して成功したとは言い難いアルバムですが、評論家の先生方にはウケが良く、もちろんミュージシャン仲間からも絶大な支持を得た事により、これは永遠の名盤に……。

しかし、一般の音楽ファンがシビれるには、リアルタイムの感性が追いつかなかったんじゃないでしょうか。

もちろんサイケおやじも既に述べとおり、分からないけれど凄いし、実際に気持良いという結論にしか到達出来なかったわけですが、それでも音楽は文字通り、聴いて気分が楽しくなれば、理屈はどうでもOK♪♪~♪

スライドギターがしなやかに唸り、ピアノが飛び跳ね、オルガンが呻いて、エレピが浮遊し、ベースが蠢き、ドラムスがビシバシのキメを入れ、さらにパーカッションがチャカポコやってくれる演奏と熱気が滲んでくるコーラス&ボーカルの味わいこそが、この頃のリトル・フィートの好ましさでした。

ご存じのとおり、以降のリトル・フィートはフュージョンに傾斜し、ますますの成功を収めるのですが、その道行きの中で、このアルバムこそが独得の個性を打ち出した唯一無二の作品だと思います。

そして個人的には永遠に飽きない1枚になりました。

愛聴盤にはミステリアスな部分も必要なのかもしれませんねぇ。

コメント (2)
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