OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

中村とうよう……

2011-07-23 15:50:37 | Weblog



中村とうようの訃報に接しました。

故人は音楽評論家として、サイケおやじと同じ世代の洋楽ファンにとっては知らぬ人も無いはずと思いますが、一般的な「音楽評論」だけに留まらず、コンサートやライプの企画運営、レコード発売の立案と選定、各種著作の執筆等々、まさに音楽と趣味に生きる達人として、「偉大なる先輩」と親しみをこめて尊敬に値する偉人でした。

そうした活動の中でも、特に音楽雑誌「ニューミュージックマガジン」の創刊と編集は、絶対に忘れられない業績でしょう。

ご存じのとおり、我国の洋楽マスコミは所謂スタア性とかアイドル中心主義が優先され、それゆえにルックスはもちろんの事、大衆的なヒットを放てなければ、如何に音楽的に優れていても広く紹介される事は難しい状況の中、故人が主催する「ニューミュージックマガジン」は、あえてマニアックな流行やルーツ的な趣味性を追求する方向を明確に打ち出し、それでいて内容は決して難解ではない文章と充実した資料に基づく歴史的考察の鋭さが魅力になっていたと思います。

ですから、ある意味では独善的な部分が強いので、意図的にそれを避ける音楽愛好者も少なからず存在していましたし、失礼ながら、時には文章を分かり易く書かなければならない困難に苦しむライター陣の分裂症的なジレンマが浮かび上がったような特集も散見され、そこがサイケおやじには好ましく感じられもしましたですねぇ。

そこで当然の如く、昭和40~50年代のロック喫茶には必ずや常備されている雑誌が「ニューミュージックマガジン」であり、告白すればサイケおやじは、そこで読んでは様々な蘊蓄を仕入れ、レコード購入やライプ鑑賞のガイドにしていたのが本当のところです。

しかし、そんなバチアタリの自分でも、思わずゲットさせられたのが、本日ご紹介の増刊号「ブルースのすべて」でした。

なにしろ、その内容は黒人ブルースの歴史と起源やアメリカを中心とした地域別スタイルの変遷、シンプルながら必要事項は充実の人名事典とレコード案内、さらにはちょいとした奏法の解説、そしてブルースに立脚した人生観や生活云々までもが、実に濃密に纏められていたのですから、何時まで読んでも、その奥深いところまでは到達不可能という世界が大袈裟ではなく、真の感動を呼ぶのです。

平たく言えばサイケおやじは、これを道標にブルースという奥の細道を辿り始めたわけですから、本当にありがたい1冊でありました。

ちなみに故人は既に述べたように、レコード会社と連動した各種企画アルバムの立案や発売にも大きな影響力を発揮していましたが、それは決して会社側のちょうちん持ちではなく、自らが広く音楽ファンに聴いて欲しいと確信していた素敵な楽曲演奏を紹介する手段であったことは、言うまでもないと思います。

まあ、それゆえに、かなり偏執したシリーズ企画やコアなマニア狙いのLP再発もありましたから、売れ行きは毎度必ずしも芳しいものでは無かったはずです。

しかし、その頃には、ある意味で「中村とうよう」という名前が洋楽ファンには「お墨付き」となっていた事実もあり、周囲が何んと言おうとも、それは決して権威主義ではない本人の姿勢が好感を持たれていた証じゃないでしょうか?

とはいえ、ここまではあくまでもサイケおやじの個人的な感想にすぎません。

拙プログでも度々述べてきたとおり、サイケおやじは音楽関係の本や雑誌を買うことは稀であり、そんなお金はレコードに投資し、「聴く」ことを優先させて今日に至っていますから、尊敬する故人の著作や編集雑誌にしても、自分の本棚にあるのは掲載した「ブルースのすべて」含めて、極僅かしかありません。

ただし、それでいて自らの音楽的嗜好の方向性は、確実に故人によって導かれたところが多いのです。

極言すれば、この偉人によって目を開かされた部分は実に多く、また当然ながら生き様さえも影響されたことを否定出来はしないのです。

それが、何故か覚悟の自殺らしい……、という最期に接した時、悲しみや混乱や不条理な気分よりも、妙に自然と感じてしまったのは、我ながら不謹慎だと思います。しかし、これは正直な告白であって、聞くところによれば、自らの貴重なコレクションは既に寄贈してあったとか、親しい友人知人には遺書を書き送っていたとか、様々な経緯や道理を知るにつけ、言葉は失うものの、前述した気持は強く心に残るばかり……。

今となっては全てが繰り事にすぎませんが、「ニューミュージックマガジン」が「ミュージックマガジン」と名前を変え、「レコードコレクター」なんていう、ちょいとイヤミな兄弟雑誌が作られた頃から、「中村とうよう」は本来の仕事を終えたかのような立場に落ち着いてしまった感もありますが、いかがなもんでしょう?

ということで、本日は不遜な言ばかりになってしまい、額に汗を滲ませながら反省しきりのサイケおやじを、どうぞ許していただきとうございます。

本音はひたすらに合掌……。

そして故人に感謝するのみです。

コメント (6)
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