OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

これで目覚めたエルヴィスの凄さ

2011-07-30 16:45:50 | Rock

明日への願い / Elvis Presley (RCA / 日本ビクター)

エルヴィス・プレスリーが大ブレイクした時の騒ぎは、どんなだったでしょう。

例えば後にビートルズがアメリカに上陸した時、あるいはマイケル・ジャクソンの劇的な人生と比較して、それはサイケおやじが生まれた頃の話ですから、実際のインパクトの大きさは推察の域を出ませんが、エルヴィス・プレスリーが登場しなければ、ロックなんていう音楽は決して定着するものではなかったと思います。

しかしサイケおやじが本格的に洋楽に目覚めた頃、エルヴィス・プレスリーはスクリーンの中のスタアであり、街角に貼られるポスターや映画館の大看板に登場する事が第一義であって、偉大なる歌手としての凄さは全く分っていませんでした。

つまりサイケおやじの中では、小林旭とか加山雄三あたりと同列の受け取り方だったのです。もちろん小林旭も加山雄三も素晴らしい才能の持ち主ですし、私は大好きですが、エルヴィス・プレスリーの凄さは別格です。愚かにも当時の私はそれに気づいていおらず……。

ですから、昭和45(1970)年1月3日の午後4時から「エルビス・プレスリーのすべて」のタイトルで放送された、所謂「カムバック・スペシャル」というテレビ特別番組にしても、リアルタイムで中学生だったサイケおやじは漫然と接していただけで、率直に言うと、古臭~ぇなぁ……、というのがその時の印象でした。

ちなみに当時の日本の洋楽事情は、ビートルズが何でも一番という状況が続いていましたし、男性歌手ではスコット・ウオーカーという、今では知っている人、覚えている人のほうが珍しいという白人が一番人気でした。その他ではストーンズ、ドアーズ、ジミヘン、ナンシー・シナトラあたりの人気が高く、そこへレッド・ツェッペリン、ブラインド・フェイス、CCR等々のニューロック勢がジリジリと注目を集めていましたから、サイケおやじの世代では、失礼ながらエルヴィス・プレスリーは完全に忘れられたというよりも、最初からミュージシャンとして認識されていなかったのではないでしょうか……?

こうして時が流れました。

洋楽もサイケデリック~ハードロック、さらにプログレを経て、何時しかシンガーソングライターやスワンプロック等が流行る時代となり、サイケおやじもロックばかりではなく、ジャズやソウル、ブルース等々の黒人音楽を知るようになりました。そしてその流れの中で、遅ればせながらエルヴィス・プレスリーに邂逅し、その凄みに圧倒されたのですが、目覚めさせられた曲は本日ご紹介のシングル盤A面収録で、前述「カムバック・スペシャル」でもハイライトを成していた「明日への願い / If I Can Dream」でした。

実は件のテレビ特別番組がアメリカで制作放送されたのは1968年の事で、視聴率は脅威の70.2%! この大成功により、再び歌手としての素晴らしい活動が優先されていったことから、それを今日では「カムバック・スペシャル」と通称しているのです。

そして、このシングル曲「明日への願い」こそが、その象徴ともいうべき傑作で、ゆったりした中にも粘っこい黒っぽさが、まさにエルヴィス・プレスリーの真骨頂! これぞっ、ブルーアイドソウルであり、些か気恥ずかしい部分さえあるメッセージソングを説得力抜群に歌いあげるボーカルの力は絶大!

 きっとどこかに
 もっと明るく灯る光があるはず

 兄弟たちが手に手をとって
 歩める場所を夢見ることが出来るなら
 教えて、何故、あぁ、何故、何故に
 僕の夢は叶わない、何故なんだ平和と思いやりも
 世の中、時には必要なんだ

 どしゃぶりの雨にうたれながら
 痛みだらけの世の中に
 捕らえられているけれど
 人間、夢見る力が
 どこかに残っている限り
 魂を解き放ち飛ぴ立てる心のずっと奥深く

 夢見られるうちに
 どうか夢を叶えてほしい
 ああ、今すぐに
 今すぐに叶えてほしい

この曲がレコーディングされたのは1968年6月で、つまりはアメリカが泥沼のベトナム戦争で苦しみ、また国内事情も人種差別等々から混迷していた時期でしたから、反体制はロックばかりではなく、世の中の流れだったと思います。

そんな中にあって、デビュー当時は反逆の旗頭であったエルヴィス・プレスリーが愛国者の模範青年であったのが1960年代だった事実は否めません。

それが職業作家の作品でありながら、堂々の自己主張を歌ってくれるのですから、流石ですねぇ~~。

皆様良くご存知のとおり、エルヴィス・プレスリーは1954年7月、メンフィスのサンレコードという小さな会社からデビュー! 忽ち南部で人気を集め、翌年にはメジャーのRCAに移籍して大ヒットを連発し、世界中をロックンロールの熱狂に巻き込みましたが、それは単に音楽的な部分だけでなく、白人と黒人の人種と文化の混合というような社会的、そして歴史的に大きな意味のある出来事でした。

もちろんロックンロールはエルヴィス・プレスリーが発明したものではありませんが、この天才歌手がいなければ、それは単に黒人文化を搾取した白人の金儲け音楽で終わっていたと思われます。

そこでエルヴィス・プレスリーの魅力とはなんでしょう?

多くの素晴らしい事象がありますが、サイケおやじは全てを超越した「歌の力」だと思っています。

ご存知のようにはエルヴィス・プレスリーは自分ではほとんど曲を作りませんし、他人の十八番・持ち歌を沢山レパートリーにしています。しかしそれらは人種や肌の色、文化の違いを超えて、エルヴィス・プレスリーが歌うと間違いなく最良のものになってしまうのです。この抜群の歌の上手さ、ディープで力強く、神聖な歌の世界!

スタジオで綿密に練り上げられたポップスも、ライブでの長いギターソロも、エルヴィス・プレスリーが歌うワンフレーズの前には簡単にひれ伏してしまうのです。

そして繰り返しますが、もしもエルヴィス・プレスリーが登場しなかったら、音楽だけでなく、今日の世界文化も間違いなく別のものになっていたはずと思います。

このあたりの事について、到底サイケおやじには書き尽くせるものではありません。いくら文章で書いたところで、エルヴィス・プレスリーの「歌の力」の前には無力なのですから!

ということで、これまでの屁理屈なんか、この「明日への願い」を1回聴けば、本当の戯言にすぎないことが明白です。

失礼致しました。

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