OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

愛聴40年近くのライ・クーダー

2010-03-12 16:48:58 | Ry Cooder

Into The Purple Valley / Ry Cooder (Reprise)


なんともハリウッドなジャケットデザインでお馴染みでしょう。これはライ・クーダーの2作目のリーダーアルバムで、既にストーンズの繋がりから初リーダー盤の前作を気に入っていた私は、最初っから相当に気合いを入れて愛聴した1枚です。

内容はアメリカの大衆伝承歌やフォーク、ブルース、そしてR&B等々をライ・クーダーならではのハイブリット感覚というか、好きなようにアレンジして歌い、演奏したものですが、そこには天才的なギターの腕前と偉大な先人達への敬意がしっかり記録されているように思います。

ちなみに「紫の峡谷」という、丸っきりディープ・パープル状態の邦題で発売された昭和47(1972)年と言えば、特に我国ではフォークブームの真っ只中! 極めて歌謡曲に接近した連中も登場し、また逆に歌謡曲のスタアがフォークスタイルのヒットを飛ばすという状況でしたが、そんな中でも所謂「四畳半」と称された地味な味わいを追求する、昔ながらのフォーク歌手も頑張っていました。

そしてそうした源流に大きな啓示とヒントを与えていたのが、このアルバムだったんじゃないでしょうか?

結論から言えば、私は初めて聴いた時、当時の我国で流行っていたフォークの元ネタに触れた気がしたものです。

 A-1 How Can You Keep On Moving
 A-2 Billy The Kid
 A-3 Money Honey
 A-4 F.D.R. In Trinidad
 A-5 Teardrops Will Fall
 A-6 Denomination Blues
 B-1 On A Mandy
 B-2 Hey Porter
 B-3 Great Dream From Heaven
 B-4 Taxes On The Farmer Feeds Us All
 B-5 Vigilante Man

セッションメンバーはライ・クーダー(vo,g,mandolin) 以下、クリス・エスリッジ(b)、ジム・ケルトナー(ds)、ジム・ディッキンソン(p)、ミルト・ホランド(per)、ヴァン・ダイク・パークス(key)、グロリア・ジョーンズ(vo)、クラウディア・リニアー(vo)、ジョージ・ボハノン(tb) 等々、前作から引き続いてのシブイ名人揃いゆえに、一筋縄ではいきません。

極言すればフォークでありながら、ロックがど真ん中の力強いビートと音作りは完璧!

それは冒頭「How Can You Keep On Moving」での幾層にも重ねられたギターのラフで緻密な構成、しなやかなドラムスのビートと的確なペース、楽しげなピアノに支えられたフォークソングの黄金律とも言うべきメロディを歌うライ・クーダーのイナタイ雰囲気♪♪~♪ そして何よりも途中から滑り込んでくる生ギターのスライドと間奏のアドリブの素晴らしさっ!

正直、最初に聴いた時から今でも、全くどうやって弾いているのか、コピーすら出来ませんが、その快楽的なノリは最高の極みですよ♪♪~♪

実はライ・クーダーは正確無比なフィンガービッキングと様々な変則チューニングを多用していますから、実際のライプでは何本ものギターをステージ後方にずら~っと並べ、その中から適宜選んで演奏に使っているのですが、そういう幾つものスケールを頭と手の指で自然に覚えているというのは驚異だと思います。

もちろん運指の上手さ、絶妙のリズム感も天才の証明ですから、例えば黒人コーラスグループのドリフターズが1953年に放ったヒット曲のカパー「Money Honey」の粘っこグルーヴを、全く独自のフィーリングで演じてしまった痛快さも素晴らしい! どっしり重いドラムスと歪むエレキスライド、ラテン味のマンドリン、そして間奏のスライドアドリブのスリルとサスペンス! もう絶句して歓喜悶絶の世界です。バンド全員がシンコペイトしまくったノリも異常事態でしょうねぇ~♪

そうした絶妙のR&B味は「Teardrops Will Fall」でも表出されますが、ここでも絶妙な中南米グルーヴが特筆もので、決して派手ではないんですが、そこはかとない仕掛けの妙が胸キュン♪♪~♪

また気になるフォーク王道の響きとしては、生ギターやマンドリンを積極的に使うことによって更に味わい深く、もちろん多重録音が駆使されているんですが、全くイヤミがありません。むしろその用意周到なアレンジと完璧な演奏に圧倒されると思います。

それはハードエッジなマンドリンとエレキスライドが冴えまくりの「Billy The Kid」、上手すぎるフィンガービッキングに耳を奪われる「F.D.R. In Trinidad」、ゴスペルフォークをチェレスタで彩った「Denomination Blues」、シンプルで粗野なスライドが力強いロックへと変転する「On A Mandy」等々、本当に匠の技としか言えませんが、何れも参加したセッションメンバーの堅実な助演を抜きにしては語れません。

中でもジム・ケルトナーのドラムスが凄い存在感で、ローリングしたビートとでも申しましょうか、セカンドラインやラテンのリズムを盛り込みつつ、最高にロックしているのは流石!

ですからライ・クーダーも心置きなく自分の好きな世界を構築出来ているようです。それは特に「Taxes On The Farmer Feeds Us All」におけるゴッタ煮グルーヴに顕著だと思うんですが、とにかくジム・ケルトナーのスネア主体のドラミングは痛快無比! じっくり構えてエグ味全開というライ・クーダーのエレキスライドも最高ですし、アコーディオンの存在も無視出来ず、このあたりは後に更なる進展を披露する布石になったような気がしています。

その意味でシンプルなアンプラグド系の「Hey Porter」やギターソロのインスト「Great Dream From Heaven」、そしてオーラスの「Vigilante Man」はスライドギターで黒人ブルース風にやってくれますから、地味なんてとても言えない自己主張は最後まで押しが強いのです。

もちろん、このアルバムの収録曲は全てが他人の演目ですが、ここまで個性を出しきったライ・クーダーの力量は物凄く、さらに後でオリジナルバージョンの幾つかを聴いて仰天したのは、ライ・クーターが思いっきり原曲の味わいを崩している演奏が多かった!?! ということでした。

ですからこんな、一見すればシンプルな演目集に如何にもハリウッドっぽい「作り物」をデザインしたジャケットはミスマッチどころから、実に意味深じゃないでしょうか。つまりライ・クーダーは昔の楽曲を引っ張り出して聞かせるだけでなく、実に現代的にリメイクしていたのです。

それは録音のロックっぽさ、各楽器やボーカルのミックスが緻密に作り込まれていること等々、このアルバムを聴くほどに感動させられます。もちろん音楽そのものの魅力も最高ですよ。

出会ってから既に40年近く経っていますが、私にとって、おそらくは無人島へ持っていく候補の中の1枚です。

コメント (2)
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