OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

アメリアッチを吹くチェット・ベイカー

2011-07-24 15:46:28 | Pops

Hats Off / The Mariachi Brass featuring Chet Baker (World Pacific)

チェット・ベイカーはモダンジャズの天才トランペッターとして、活動初期から大スタアであり、その如何にも白人らしいスマートな感性と素晴らしい歌心に満ちた演奏は万人を魅了していながら、悪いクスリに耽溺した所為もあり、所謂全盛期は自身の活動歴の中でも、極限られていたというのが定説です。

まあ、このあたりは、何をもって「全盛期」とするか?

そうした現実の個人的解釈の違いも大いに議論されるわけですが、一般的にはウエストコーストジャズが全世界で人気を集めた1950年代初頭からの数年間でしょう。

しかし流石は人気と実力を兼ね備えたチェット・ベイカー!

前述したような悪癖に起因するトラブルを抱えながらも、1960年代には欧州でのライプ活動と並行して、ハリウッドで作られていたイージーリスニング系のレコード諸作においても、なかなか魅力的なアルバムを残しています。

例えば本日ご紹介のLPは、美女ジャケ物の1枚として好事家には人気盤となっていますが、正統派モダンジャスのファンからは軽く扱われ……。特に我国では、そうした二極分化が顕著だと思います。

なにしろ演じている中身が、吹き込まれたリアルタイムでのポップスヒットや人気曲を流行のスタイルでアレンジした「作り物」ですからねぇ。当然ながらジャズ喫茶で鳴らされることもなかったでしょう。

 A-1 Happiness Is
 A-2 Sure Gonna Miss Her / ひとりぼっちの恋
 A-3 Bang Bang
 A-4 The Phoenix Love Theme
 A-5 These Boots Are Made For Walkin' / にくい貴方
 A-6 On The Street Where You Live / 君住む街で
 B-1 Armen's Theme
 B-2 Spanish Harlem
 B-3 Chiquita Banana
 B-4 When The Day Is All Done
 B-5 You Baby
 B-6 It's Too Late

既に皆様はご推察していらっしゃるでしょうが、実はサイケおやじは決してチェット・ベイカーが聴きたくて、このアルバムを買ったわけではありません。

真相は前述した「流行のスタイル」を楽しみたかったからなんですねぇ~♪

それは当時、つまり制作された1966年に世界的なブームとなっていた「アメリアッチ・サウンド」が聴けるLPとしての価値を、ここに見出していた事に他ならないのです。

で、その「アメリアッチ」とはご存じ、A&Mレコードを創業させたハープ・アルパート(tp,vo) が1962年頃からカッ飛ばしたヒットの数々、例えば「悲しき闘牛士」とか「蜜の味」、お馴染みの「ビター・スイート・サンバ」等々に顕著な哀愁とウキウキリズムに彩られたブラス主体の吹奏楽で、その元ネタとなっているのが、メキシコ周辺では一般的になっている「マリアッチ」というバンドスタイルをアメリカ的なジャズロック風味で焼き直したのが、それだと言われています。

ただし、もちろん「アメリアッチ」には単純に言葉で説明出来ないフィーリングがあって、例えばスパニッシュ風味のモードジャズや所謂ソフトロック的なアプローチさえも表出していましたから、なかなか奥の深いジャンルだと思います。

そこでハープ・アルパートはレコード制作のスタジオセッションで、当時のハリウッドでは最高峰のスタジオミュージシャンを召集し、また公の場に出る時の一般的な「顔」であるティファナ・ブラスというグループにしても、それは決して不動のメンバーでは無く、臨機応変に腕利きを選んでいたと言われています。

さて、そんなわけですから、音楽業界では「お約束」という二番煎じが出てくるのも当然であり、ご紹介のアルバムを吹き込んだマリアッチ・ブラスも完全な企画優先のスタジオグループだったのでしょう。

ですから、ハープ・アルパートの代わりになるスタープレイヤーとしてチェット・ベイカーが起用されたのも納得されるわけです。

そして聴けば一発、なんとハープ・アルパート&ティファナ・ブラスと生き写しのサウンドが、ここにあるんですよねぇ~~♪

つまり同じスタジオミュージシャンが使われている可能性が実に大きいと思うばかりで、その点は演目の内容構成についても味わい深い相似が散見されるのですから、たまりません♪♪~♪

例えばゲイリー・ルイスとプレイボーイズがヒットさせた「ひとりぼっちの恋」では、例の昆虫が空を飛ぶ羽音のようなギターのオカズフレーズやリズム隊の乾いたグルーヴが、ほとんど一緒の演奏メンバーによるものという推察が容易だと思います。

という事は、このアルバムジャケットには明確なクレジットは記載されていませんが、おそらくはトミー・テデスコ(g)、フランク・キャップ(ds)、ハル・ブレイン(ds)、ヴィクター・フェルドマン(per)、ジョー・オズボーン(b) 等々の超一流メンバーが参加している事は確実で、またジャック・ニッチェとジョージ・ティプトンがアレンジを担当しているあたりは、言わずもがなのハリウッド音楽産業!?!

さらに肝心のチェット・ベイカーが、これまた最高なんですねぇ~♪

もちろんバリバリのモダンジャズを演じているわけではありませんが、持前の柔らかな歌心は全開ですから、テーマメロディのフェイクやアドリブも分かり易くてスマート、時には「大人の粋」も感じさせてくれますよ♪♪~♪

それは当然、良く知られた演目のメロディを大切にしたプロの仕事に他なりません。

例えば前述した「ひとりぼっちの恋」をはじめ、ナンシー・シナトラの「にくい貴方」、ソニー&シェールの「Bang Bang」、そしてタートルズやグラスルーツ、そしてママス&パパスでお馴染みの「You Baby」、都会派R&Bの「Spanish Harlem」といった大ヒットポップスでは、あくまでもモダンジャズのフィーリングを隠し味に使う妙技が堪能出来ますし、ミュージカルや映画音楽として人気の高い「君住む街で」や「The Phoenix Love Theme」、あるいはイージーリスニング本家王道の「Happiness Is」とか「When The Day Is All Done」で素直に楽しめるアメリアッチの素敵なサウンドは、確かに軽いと言えばそのとおりかもしれませんが、これはこれで侮れないと思います。

そこにはチェット・ベイカーが用意されたアレンジスコアを解釈しつつ、その天才的なアドリブ感覚を惜しみなく披露した瞬間が凝縮されているといって過言ではありません。

また本人が聞かせてくれるトランペットやフリューゲルホーンの音色そのものが、ソフト&ジェントルの極みであり、周到なバンドアンサンブルとジャストミートの潔さ!

これぞっ、チェット・ベイカーにはデビュー当時からの理解者であったプロデューサーのリチャード・ボックが狙った二番煎じ最良の結果だったんじゃないでしょうか。

本当に和みます♪♪~♪

ということで、「チェット・ベイカーのジャズ」を目当てに聴けば、些かの失望も確かにあろうかと思います。

しかし、如何にも1960年代的な快楽を求めて楽しもうとする時、実はこういうイージーリスニング系のジャズアルバムこそが、その本質に最も近づける手段になるのかもしれませんよ。

最後になりましたが、掲載した私有のLPはステレオ盤なんですが、良く知られているようにモノラル盤はジャケットデザインのトリミングが異なっていて、そこに登場しているモデルさんの「ヘソ出し」が大きな魅力!?!

当然ながら、サイケおやじも何時の日か、その入手が叶うように精進を続けている次第です。

コメント
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