沼田まほかる の同名小説を、「凶悪」(1913年)の白石和彌監督が映画化した。
ひとりの女性をめぐるスリリングな愛憎劇は、多少の息苦しさを見せながら、わざとらしさと滑稽さをない交ぜにした男女のコメディとして、結構笑える作品になっている。
厭な女、下劣な男・・・、つまりは最低な人間しか登場しない。
それなのに、このドラマの展開は常に「愛とは何か」と突きつけてくる。
ミステリアスな趣もふんだんに・・・。
出演する役者の底力をうかがわせるのは、目を見張る十分豪華な(?)キャストであろうか。
勿論主要人物のキャラクターもそれぞれ極端で、人間が本質的にもつ闇や愚かさに迫りながら、どこかに光を感じさせる作品で、原作者のベストセラー、ミステリーの面白さも躍如だ。
十和子(蒼井優)は仕事も家事もせず、怠惰な生活を送っていた。
15歳年上の献身的に尽くす男、陣治(阿部サダオ)と暮らしながらも、8年前に分かれた黒崎(竹野内豊)のことが忘れられないでいる。
下品で不潔な陣治に十和子は嫌悪感を隠せないが、ある日、黒崎の面影を持つ水島(松坂桃李)という妻子ある男と出会い、彼との情事にのめりこむ。
そんなある日、黒崎が行方不明になっていると刑事から知らされる。
どんなに罵倒されても、十和子のためだったら何でもできると言い続ける陣治が、執拗に自分を追っていることを知った十和子は、黒崎の失踪に陣治が関わっていると疑い、水島にも危険が及ぶのではないかと脅え始めるのであった・・・。
この映画には、嫌な女十和子、下劣な男陣治、ゲスな男水島、クズ過ぎる男黒崎と・・・、共感度0%の登場人物しか出てこない。
何だか、肌にまでまとわりつくような不穏で不快な空気が漂うが、物語はどうやら究極の愛に向かって着地していく。
予想を超えるラストは、誰も裁くことができない。
とにかく、嫌な奴ばかりが揃いも揃ったものだ。
彼らのファッション、表情、ベッドでの振る舞い、雑然とした室内にも細やかなリアリティがあり、俳優陣の演技も説得力がある。
人間の汚さなるものを散々見せておいて、どんでん返しのように、美しいラストシーンを用意しているのだ。
しかし、このドラマは誰もが共感できるかどうかは疑わしい。
白石和彌監督の「彼女がその名を知らない鳥たち」のヒロイン、十和子は一見性格破綻者に見えるが決してそうではなく、過去も現在も彼女が黒崎という男に支配されているからだ。
この映画で、甘える猫のような女、きつい大阪弁で人を罵倒する所帯じみた女、ミステリアスな愛人といった、いろいろなタイプの大人の女を選びわけ、様々な表情をものの見事に使い分けて主人公に挑戦し続けた蒼井優に拍手を送る。
この作品に観る、はかなげな危なっかしさを見せる役柄hが、彼女の女優としての力量を広げたことは間違いない。
映画は欠点もあるが、日本映画としては面白く観ることができる。
劇中で十和子が眠り着くまで陣治がマッサージを施すシーンで、胸に手を伸ばしたことに十和子が苛立ち、「あんたみたいな不潔な男にそんな触り方されたら虫唾が走る!」と彼を罵倒するセリフもなかなかだ。
おもろうて、やがて悲しきドラマかな。
[JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点)
次回は日本映画「嘘を愛する女」を取り上げます。