「髪結いの亭主」「仕立て屋の恋」のパトリス・ルコント監督は、恋愛映画の名手だ。
今回のルコント監督の新作は、クラシックな雰囲気の中に描かれる、ピュアな大人の恋愛だ。
原作が、「マリー・アントワネット」のシュテファン・ツヴァイクとは・・・。
これが、池田理代子作の「ヴェルサイユのばら」のもとになったといわれる。
全編にわたって、緩やかなテンポで語られる物語は、背景に激動の時代の歴史の大きなうねりがありながら、それを感じさせないほど静謐である。
1912年、第一次世界大戦に向かうドイツ・・・。
初老の実業家ホフマイスター(アラン・リックマン)の屋敷に、若き秀才ザイツ(リチャード・マッデン)が秘書としてやって来る。
ひとつ屋根の下で暮らすうちに、フリドリックは若い夫人シャーロット(レベッカ・ホール)に心を奪われる。
二人は惹かれあうのだが、それを口にすることができない。
もどかしい恋の行方だが・・・。
ザイツの南米への転勤が決まった時、お互いの胸にしまいこんだ気持ちが溢れだして・・・。
初めて想いを伝え、「二年後、戻ってくるまで、変わらぬ愛を誓おう」と約束を交わす二人であった。
だが、まもなく訪れた第一次世界大戦によって、運命は大きく揺れ動く・・・。
若妻ロットには、裕福で優しい夫と息子がいる。
でも、心の奥底にある孤独な哀切感は拭えない。
そして激しい想いに苦悩する、貧しくも知力ある青年フリドリックも・・・。
ドラマは、二人の8年間にわたる純愛を紡ぐ。
劇中で、ロットの奏でるベートーヴェンのピアノソナタ第8番ハ短調「悲愴」は、このドラマにぴったりで、その切なく甘美な旋律が余韻を残すのだ。
パトリス・ルコント監督のフランス・ベルギー合作映画「暮れ逢い」は、‘現代’から観るとどうしてもやや古風な感じは否めないが、1900年代初頭の上流社会の雰囲気はよく伝わってくる。
ドラマの中、夫が亡くなるとき、何も知らないと思われていた夫が、すでに青年と妻の恋を密かに知っていて、それを嫉妬し、それでも、二人が一緒になればいいとも思っていたという告白のシーンは、ぐっと胸に来るものがある。
どこまでも清廉な物語である。
[JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点)
次回は「さよなら歌舞伎町」を取り上げます。
最新の画像[もっと見る]
- 川端康成 美しい日本~鎌倉文学館35周年特別展~ 4年前
- 映画「男と女 人生最良の日々」―愛と哀しみの果てに― 5年前
- 文学散歩「中 島 敦 展」―魅せられた旅人の短い生涯― 5年前
- 映画「帰れない二人」―改革開放の中で時は移り現代中国の変革とともに逞しく生きる女性を見つめて― 5年前
- 映画「火口のふたり」―男と女の性愛の日々は死とエロスに迫る終末の予感を漂わせて― 5年前
- 映画「新聞記者」―民主主義を踏みにじる官邸の横暴と忖度に走る官僚たちを報道メディアはどう見つめたか― 5年前
- 映画「よ こ が お」―社会から理不尽に追い詰められた人間の心の深層に分け入ると― 5年前
- 映画「ア ラ ジ ン」―痛快無比!ディズニーワールド実写娯楽映画の真骨頂だ― 5年前
- 文学散歩「江藤淳企画展」―初夏の神奈川近代文学館にてー 5年前
- 映画「マイ・ブックショップ」―文学の香り漂う中で女はあくなき権力への勇気ある抵抗を込めて― 5年前
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます