暦の上ではとうに立秋を過ぎている。
でも、連日厳しい残暑が続いている。
涼しい秋はまだまだ先のようだ。
体調管理には十分気をつけていただきたい。
この夏の映画館の混雑は、個人的にはあまり歓迎の口ではない.
映画は、静かなところでやはり大画面でゆっくり鑑賞したいものだ。
今回はこの作品に目をつけた。
東京新聞の望月衣塑子記者のノンフィクションを原案に、映画版「安倍政権の暗部」といってもいい、現政権の疑惑を網羅した内容の作品だ。
1986年生まれの藤井道人監督が、比較的若者の目線で撮った作品だが、痛快さや派手さはなく、閉塞感が全編に漂い、果敢な挑戦のわりには映画作品としてはまだまだ弱い気がする。
東都新聞の記者、吉岡エリカ(シム・ウンギョン)のもとに、大学新設計画に関する極秘情報が、匿名FAXで届いた。
日本人の父と韓国人の母のもとでアメリカで育ち、ある思いを秘めて日本の新聞社で働いている彼女は、真相を究めるべく取材を始める。
一方、内閣情報調査室の官僚・杉原拓海(松坂桃李)は葛藤していた。
国民に尽くすという信念があるのに、それとは裏腹に、与えられた任務は現政権に不都合なニュースのコントロールであった。
愛する妻の出産が迫ったある日、杉原は久々に尊敬する昔の上司で神崎(高橋和也)と再会するのだが、その数日後神崎はビルの屋上から身を投げてしまう。
真実に迫ろうとする若き新聞記者、政官界の闇の存在に気付き、選択を迫られるエリート官僚と、二人の人生が交叉するとき、衝撃の事実が明らかにされてゆくのだった・・・。
現在進行形の様々な問題を、ダイレクトに描写する社会派のドラマである。
権力とメディアのたった今の出来事を、如実に描いている。
その意味では現実社会と絶妙にリンクしているのはいいが、内閣情報調査室の描写はともかく、報道機関の内実は描写不足が目立ち、腰砕けの感は免れない。
その点でこの作品は失望が大きい。
エリートの杉原は上司に言われるがままに、現政権を守るため情報をでっち上げ、マスコミ工作をしていることで、自ら苦悩している。
新聞社社会部の若手女性記者の吉岡は、調べていくうちにキーマンとなる人物が自殺、二人が突き止めたのは内閣府が進める恐るべき計画だった。
誤報を出す恐怖、内調からのプレッシャーとの狭間で、一記者の人間としての存在も問われかねない。
アメリカからの帰国子女というシム・ウンギョンの女性記者役は妥当だったかどうか、少々疑問だ。
この種の外国映画の政治スリラーと比べると、数段落ちるのは否めない。
こんな機会に、官邸政治の暗部に、もっと強烈に切り込むことはできなかったのか。
登場人物たちの職業意識や倫理観、信念といったものも、肝心の部分の描かれ方があいまいで大いに不満が残る。
藤井道人監督の作品「新聞記者」は、製作サイドまでがかなり官邸に気を使って「忖度」していたのではないか。
そんな気もしてならない。
社会派ドラマは大いに次作も期待したい。
これをきっかけに、更なる作品の登場を待ちたいものだ。
余談になるが、近頃の官邸支配とメディアの恐るべき萎縮は、余りあるものがある。
大新聞はもちろん、公共放送までが、官邸に都合の悪い事実を報道していないきらいがある。
政権寄りの記者の、揃って満面の記事や場面などテレビや新聞が執拗に幾度も取り上げている。
いい加減目を覚ましてほしいものだ。。
政権に批判的な言論人が、いつの間にかメディアから消えつつあるのも気になってならない。
現政権、本当におかしくないか。
「国家」が、こんなことで壊れていくことはないだろうか。
この物語も決して虚構とは言い切れないだろう。
[Julienの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点)
8月30日(金)まで横浜シネマジャック&ベティ(TEL045-243-9800)ほかで上映中。
次回は日本映画「火口のふたり」を取り上げます。