それは愛か、贖罪か。
「8人の女たち」(2002年)、「危険なプロット」 (2012年)、「17歳」 (2013年)の、フランソワ・オゾン監督がエレガントなちょっとしたミステリーを完成させた。
モノクロとカラーの映像美が仕掛ける待望の最新作は、なかなかよく出来た映画だ。
大戦の狭間で生まれる、切ない愛の行方が気にかかる。
第一次大戦後のドイツとフランスを舞台に、謎と嘘が交錯する物語を、アート色に綴って興味深い。
絶望し惑乱して、再生への希望に目覚めるとき・・・。
長いこと挑戦的な作品を撮り続けてきた、フランソワ・オゾン監督の最新作だ。
ミステリアスなドラマの展開は大いに気にかかる。
手紙、音楽、色彩を巧みに使い分けて、映画としては秀作に近いが・・・。
1919年、戦争に傷痕に苦しむドイツ・・・。
今やっく者のフランツ(アントン・フォン・ラック)をフランスとの戦いで亡くしたアンナ(パウラ・ベーア)は、悲しみの日々を送っていた。
ある日、アンナがフランツの墓参りに行くと、見知らぬ男が墓に花を手向けて泣いていた。
戦前にパリでフランツと知り合ったと語る男の名は、アドリアン(ピエール・ニネ)と名乗った。
アンナの両親は、彼とフランツの友情に感動し、心を癒やされる。
だが、アンナがアドリアンに“婚約者の友人”以上の思いを抱き始めたときアドリアンは自らの“正体”を告白するのだった。
しかしそれは、それから次々と現れる多くの謎の幕開けに過ぎないのだった・・・。
フランスの若手俳優の中でも突出した存在のピエール・ニネが、繊細さの中に情熱を秘めたミステリアスな青年像を見せてくれる。
アンナ役はドイツ映画期待のパウラ・ベーアで、降りかかる謎と嘘を乗り越えて、自らの生きる道を見つけようとする姿を力強く演じている。
ヴェネツィア国際映画祭では新人俳優賞(マルチェロ・マストロヤンニ賞)を受賞した。
映像はモノクロとカラーが交錯し、美しい仕掛けが何とも心地よく感じられる。
衣装と音楽にも凝っていて、ロマンティックでミステリアスだ。ドラマの根底には償いがある。
フランスの酒場で、フランス国歌「ラ・マルセイエーズ」を大合唱するシーンがある。
この歌詞のなかに、「敵は我らの女房と子ののどを掻っ切る」という文句がある
ヒロインが婚約者の父母につく嘘が胸にこたえる。
だが、これが非戦のメッセージを込めたドラマといえるかどうか。
1919年というと、背景にはナショナリズムの台頭があり、終戦を迎えているというのに、ドイツとフランスは憎みあったままだ。
その中で、ドイツ人娘とフランス人青年はどう向き合ったか。そこが最大のポイントだ。
映画の中、アンナが口ずさむヴェルレーヌの詩、フランツの形見のヴァイオリンでアドリアンが弾くショパンの調べ、そして映画の謎のようにアンナがアドリアンと出会うエドゥアール・マネの絵「自殺」・・・。
ささやかな芸術が、絶望の渕に立つ心に寄り添うように、忍び込んでくる。
ややもすれば、人間らしさを失う戦争の時代、人は一篇の詩、ひとつの旋律に救われることもあろう。
円熟の俊英監督フランソワ・オゾンのフランス・ドイツ合作映画「婚約者の友人」は、どこまでもその眼差しに慈悲の深さがこもっている。
芸術性もたっぷりな好感のもてる作品だ。
秀作だとの評もある。
[JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点)
次回はめずらしいフィンランド映画「希望のかなた」を取り上げます。