徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「甘き人生」―彷徨える魂が炙り出す戦後イタリアの光と影―

2017-09-08 16:00:00 | 映画


 1939年生まれ、「眠れる美女」(2012年)などで国内外で高い評価を得ている、イタリア巨匠マルコ・ベロッキオ監督が、ベストセラーとなったジャーナリストのマッシモ・グラッメリーの自伝小説を映画化した。
 ベロッキオ監督は、ミラノ大学では哲学を学んだが、のち映画に転向した。

 この映画は知的な構成で、批評性に富んだヒューマンドラマだ。
 ひとりの男の亡き美しい母への思慕をテーマにしているが、新聞記者として赴いた紛争地サラエボで悲惨な光景を目にするなど、主人公のたどる波乱万丈の軌跡は、約30年の時を隔てたイタリア社会の変容をも描いている。
 物語は、1960年代と90年代のトリノとローマを背景に綴られていく。

 

1969年、イタリアの古都トリノ・・・。

9歳のマッシモは、穏やかで裕福な少年期を過ごしていたが、ある日突然大好きだった母親が世を去った。
マッシモは死の場面を見ていないので、その死を認めることができず苦しみ続ける。

1990年代、ローマ・・・。
成長したマッシモ(ヴァレリオ・マスタンドレア)は、人を愛せない男になっていた。
新聞記者になった彼は、サラエボで紛争取材の後パニック障害を起こしてしまい、駆け込んだ病院で女性精神科医師エリーザ(ベレニス・ベジョ)と運命的な出会いをする。
この出会いによって、マッシモは閉ざされていた心を次第に解き始める。
そんな折り、父親の逝去を機にトリノに戻った彼は、幼い頃両親と住んでいた家を売ろうと決心する。
様々な思い出の詰まったその家で、マッシモは再び過去のトラウマと向き合うことになるのだった。

全編をピンと張りつめた緊張感が覆っている。
母の死は、病気を苦にした自殺だったが、真相は子供には隠されていたのだ。
遠い思い出の中に生きる、亡き母の切ないまでの美しさと優しさに涙するというのは、感傷的な母物語でよくみられる話である。
イタリアという国は、一説によると母親に甘える気風がとくに強い(?!)のだそうだ。

少年時代と、大人になってからのマッシモ・・・。
二つの時代の物語は交錯しながら、同時進行で描かれる。
イタリアの戦後史にわたる物語で、数十年の時を経てのドラマだが、映像は格調高く美しい。
サラエボの地獄のような内戦を取材する記者マッシモは、帰国後パニック障害に襲われ、その上に母の謎の死をめぐるミステリーがトラウマのように重なる。
その深い根が徐々に明かされていく中、ベロッキオ監督は過去と現在をより合せる、巧みなドラマ作りを見せる。

結構手の込んだ作品となっていて、中盤、人生哲学のようなやり取りがあって、やや冗長な場面に一時退屈したりもするが、主人公が幻影に支配されているかのような母性崇拝の映画とみると、これはもううんざりである。
イタリア映画だから、男はマザコンだなどという理屈は通るまい。
厳密にはイタリア・フランス合作映画「甘き人生」を傑作と評する声も聞かれるが、さあどうだろうか。
ドラマの中に多様なエピソードが張りめぐらされているが、それらすべてを呑み込むのは容易ではない。
静かで深遠な感じがする作品で、全編にわたって陰影に富んだ映像は注目に値する。
       [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点
次回はフィリピン映画「ローサは密告された」を取り上げます。