徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「メビウス」―人間の陰惨な欲望の果ての痛み峻烈に―

2015-01-10 12:00:00 | 映画


 韓国で、映画審査機関が一時上映不可の判定を下したという、鬼才キム・ギドク監督のいわくつきの最新作である。
 何とおそるべし、全編にセリフが一切ない。
 笑う、泣く、叫ぶ。
 たったこの三つの感情要素だけで、家族の亀裂を発端に、メビウスの輪のようにめぐる愛憎劇を撮りきった。

 言葉のない、心象のみを強烈に炙り出したこの作品は、観客の心を撹乱し、さすがに観ていて辛いものがある。
 そこは、狂気の愛憎が繰り広げられる、果てしない地獄めぐりだからだ。










韓国の、とある夫婦と息子の3人が暮らす上流家庭・・・。

あるとき、夫の愛人がいることがわかる。
嫉妬に狂った妻は、とんでもない行動に出る。
チョ・ジェヒョン)と母(イ・ウンウ)の両親の不和のあおりで、身体を傷つけられた息子(ソ・ヨンジュ)と、性をめぐる欲望と悩み、そして性によってしか生まれない家族がつながっていく様が描かれる。
これ以上の内容を、ここに語ることは憚られる。

もともと性と暴力を切り口に、強烈な作品を次々と送り出す韓国の異端児キム・ギドク監督のこの衝撃的な作品「メビウスは、人間の表情で全てを語ろうとする。
人間哲学を描いていて、狂気とともに、笑ってしまいたくもなるような、とっぴなユーモアをも散りばめている。

イ・ウンウは、妻と夫の不倫相手という対立する役を一人で演じ分け、この二役の体当たりの演技は鬼気迫る凄味がある。
嫉妬に憑かれた狂気の母と、夫の浮気の相手である妖艶な女と、強烈な印象を残している。
息子役のソ・ヨンジュは、男としての苦悩をどこまでも静謐に演じ切る。
父、母、息子、男と女、痛みと快楽、人間のすべてはメビウスの輪のように表裏一体となって廻る。
暗示に富んだ奇想な演出には、もう参ったというほかない。
こうした作品は、日本では作られないだろう。
喜劇と悲劇の双方の要素を併せ持った、実験性豊かな作品として納得するしかないか。
稀に見る壮絶なドラマに圧倒されるけれど、ラストシーンは意外に静かだ。
作品の放つ猛毒に、映画の何たるかを考えさせられる思いだ。
     [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点