「剣岳 点の記」に続いて、名カメラマン木村大作監督が、再び立山連峰の頂にカメラを運び上げて撮影に挑んだ第二作だ。
壮大な自然と美しい四季の移ろいを、体感することができる。
原作は、笹本稜平の小説だ。
前回の登山シーンは男性ばかりだったが、今回の映画は女優陣にも立山の最高峰に登らせ、雄大な山岳風景の中に紡いだ、温かく爽やかな青春物語だ。
決して作り物ではない、本物の映像が画面一杯に広がる。
絵葉書のような山の情景が、出演者と一緒に息づいている。
銀行に勤めていた長嶺亨(松山ケンイチ)は、山小屋を営んでいた父勇夫(小林薫)が急死したため、東京を離れ、古里へ戻ってくる。
帰郷した亨の前には、気丈に振る舞う母の菫(檀ふみ)、その姿を沈痛な面持ちで見守る山の仲間たち、そして見慣れぬ一人の女性、高澤愛(蒼井優)の姿もあった。
彼女は心に深い傷を負い、山中で遭難しかけたところを亨の父に助けられたのだった。
父が残した山小屋と、父の思いに触れた亨は小屋を継ぐことを決意する。
山での生活になれず悪戦苦闘する亨の前に、父の友人だと名乗る風来坊の山男、多田悟郎(豊川悦司)が現れる。
世界を放浪してきた悟郎の自然に対する姿勢や、天真爛漫な愛の笑顔に接しながら、亨は新しい自分の人生と向かい始めるのだった。
標高3000メートルの立山連峰を舞台に描かれる、小さな家族の物語だ。
この作品、木村監督は引退宣言を撤回してまでも、60日間に及ぶ山岳ロケを敢行し、現在74歳ながら40キロ近い機材を担いで、ロケ地大汝山(3015メートル)の山小屋まで、13回も登ったというから半端ではない。
その思いは画面の端々から伝わってくる。
主役は確かに映像だが、この映画は、山の美しさや厳しさだけでなく、家族愛や恋愛などヒューマンなドラマも加えて、観客の共感しやすい作品となっている。
最大の演出は、木村監督にとって俳優とスタッフを本当の場所に連れて行くことだったわけで、その持論を今回も実践してみせた。
いまどきのCGなどに頼らず、自然の本物の美しさを撮るには現地しかないとする、映画人の信念があった。
だから、木村大作監督の「春を背負って」には、どこまでも映像にこだわり続ける、彼の魂を感じさせる本物の迫力がある。
確かに、映画の核となる話もどうも弱いし、主人公たちの葛藤の掘り下げも浅く、一時代前の青春映画といったイメージは拭えない。
それでも、全て善人たちの、山小屋での生活が優しく淡々と描かれていて、後味の爽やかな日本映画の佳作である。
[JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点)