徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「鑑定士と顔のない依頼人」―華麗で残酷な人間の深淵を覗く寓話―

2013-12-30 16:00:00 | 映画


 これは、豪華で知的な謎をふんだんに散りばめた、サスペンス・ミステリーだ。
 「ニューシネマ・パラダイス」イタリアの巨匠ジュゼッペ・トルナトーレ監督が、これはまた極上の映画を誕生させた。
 この年の瀬になって、素晴しい作品と出会って、大きな拾いものである。
 思わず欣喜雀躍だ。
 この作品の知的満足度は100%に近い。

 かつて人を愛したこともないベテランの美術鑑定士が、知らず知らず謎の多い依頼人に心を動かしていくのだが、数々の巧妙に張られた伏線と、驚愕のどんでん返しにあっと息をのむ展開だ。
 もしかすると、今年最高の一作となるかもしれない。
 知的興奮度も第一級だし、今年の我が最終を飾るにふさわしい、よき映画によくぞまたといった感じだ。





この物語は、ある鑑定依頼から始まる。

美術鑑定士でオークションを取り仕切るヴァージル(ジェフリー・ラッシュ)は、相棒のビリー(ドナルド・サザーランド)と組んで、一流の名画を格安で落札していた。
そんなある日、クレアと名乗る女性(シルヴィア・ホークス)から、資産家の両親の残した家具や絵画を査定してほしいという依頼の電話を受ける。

ところがクレアは、広場恐怖症という特異な病にかかっていて、人前に姿を現そうともしない。
ヴァージルは我慢が出来ずに、彼女が屋敷の壁の向こうの隠し部屋にいることを突き止める。
そこで、彼女の姿を覗き見たヴァージルは、美しさに一瞬にして心を奪われ、好奇心とともに、どうしようもなく惹かれていくのだった。
さらに、美術品の中に歴史的大発見ともいえる、とんでもない価値のある美術品の一部を見つけて・・・。

主人公ヴァージルは、本来潔癖症で人間嫌いで、自分の隠し部屋にこもると、女性の肖像画を飾ったその部屋でひとり愉悦に浸るような男だ。
一言で言ってしまえば、そんな男の老いらくの恋とでもいえようか。
しかも、このドラマの背後に仕組まれた巧妙なギミックで、一流鑑定士の目をも欺く完全犯罪だ。
この展開、ヴァージルが恋にのめりこむとともに完成されていく、からくり人形の寓意が素晴しく、当然ドラマはラストに仰天の展開が用意されている。

屋敷の内部や地下室を含め、多彩なドラマの場面はウィーンをはじめ、ミラノなどで撮影を敢行したそうだ。
美術品を介した、特異な純愛物語(?)かと思うと、どっこいそうではない。
何だかいとも怪しげで、不穏な空気が全編に充満している。
鑑定士は鑑定士で、自宅に秘密の部屋を持っている。
そこには、犯罪すれすれの手口で手に入れた、古今東西の名画が所狭しとばかりに、四方の壁いっぱいに飾られている。

人との交わりを好まないヴァージルは、レストランで食事をとるときでも手袋を取ろうとはしない。
孤独で人を寄せ付けないほど狷介で横柄で、さらにはちょっとばかり悪辣な側面も持つ、変り者の老人ヴァージルの役を、ジェフリー・ラッシュの確かな名演が繋いでいく。
それはまた、凄みすら感じさせる演技である。
その彼の目線で、観客はつかず離れず追っていくのだ。
しかし展開は、思いもかけない方向へと観客を引っ張っていく・・・。

イタリア映画ジュゼッペ・トルナトーレ監督の「鑑定士と顔のない依頼人」は、縦糸と横糸とが絡み合うような構造で、手際よく編集され、巧妙な伏線が一本につながっていくから見事である。
それはラストのどんでん返しとともに、深い余韻の残るドラマだ。映画のほうは、イタリア語ではなく英語であることが少し残念だ。
美術品の鑑定はともかく、人間の鑑定は一流の鑑定士だって難しい。
そりゃあ、そうだ。
ともあれ、どこまでも優雅で甘美で、そして洗練されたミステリーである。
ヴァージルの隠し部屋に埋め尽くされている、300点近い女性画は圧巻だ。
出来ることならもう一度観てみたい。
久しぶりに心の満たされた、傑作といってもよいほどの、深い余韻のある逸品である。

      [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
 
   ― 追  記 ―
いろいろなことがありました。
そんな今年も、間もなく暮れてゆこうとしています。
今年、人気を度外視した興行ペースに乗らない作品も含めて、かなりたくさんの映画を観てきました。
映画に関する拙いこのブログですが、今年はこれまでとさせていただきます。
本欄で紹介させていただけるのは限られた数本ですが、いい映画はそんなにあるわけではありません。
また独断と偏見(!?)で、作品を紹介させていただきます。
来年も、よろしくお願いいたします。
どうぞ、よい年をお迎えください。 ( Julien )