徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「プンサンケ」―おまえは北と南、どっちの犬だ―

2012-11-07 10:00:00 | 映画

      
これは、朝鮮半島の南北分断問題を背景にした、異形の犯罪アクションドラマだ。
国籍不明、言葉も名前も持たない謎めいた男が、この作品全編を取り仕切る。
悲しみを背負い、北と南を行き来する運び屋(プンサンケ)だ。
鬼才キム・ギドクのオリジナル脚本を得て、チョン・ジェホン監督が放つ、胸をきりきりさせるような衝撃のドラマである。
南北分断の映画といえば、「ムサンの日記」「かぞくのくに」「クロッシング」など、日本公開作品も多い。

日本は1910年から45年まで、朝鮮というひとつの国を植民地としていた。
1439年第二次世界大戦がはじまり、1945年朝鮮は北緯38度線で南北に分断された。
そこは、朝鮮半島を横切る無人の地域で、この非武装地帯は、鉄条網や高圧電線で囲われ、多くの地雷も敷設されている。
     
その正体不明の男は“プンサンケ”(ユン・ゲサン)と呼ばれていた。
北緯38度線を飛び越えてソウルとピョンヤンを行き来し、離散家族の最後の手紙やビデオメッセージなどを運んでいた。

男は、北朝鮮の煙草・豊山犬をよく吸っていた。
あるとき、亡命した北朝鮮元高官の愛人イノク(キム・ギュリ)を、ソウルに運んでくるという依頼が舞い込む。
プンサンケとイノクの二人は、命がけで境界線を越えるうち、互いに言い知れぬ感情を抱くようになった。

無事にイノクを引き渡したにもかかわらず、プンサンケは依頼者の韓国情報員に拘束され、卑劣な拷問を受ける。
「おまえは北と南、どっちの犬だ」
だが、プンサンケは決して口を割らなかった。
さらに、ソウルに潜伏した北朝鮮工作員までが介入し、イノクまでもが人質となり、元高官の暗殺まで命令されるが・・・。
北と南の思惑に利用され、全ての道が閉ざされたプンサンケは、北朝鮮工作員と韓国情報員を密室に閉じ込める。
その密室で、北と南が対峙する。
そうして、欲望、偽善、不審、憎しみが絡み合って、予測不可能な衝撃の展開が幕を開ける・・・。

しばし、言い知れぬ畏怖の念を抱かせる、全編に流れる音楽が不気味で扇情的だ。
主人公のプンサンケは、このドラマの中ではセリフもなく、一言も言葉を発しない。
獣の咆哮にも似た、絶叫を発する以外は・・・。
観ていることが辛くなるほど、分断国家の悲しみが、重々しく漂う。
全キャスト、スタッフは、何と無報酬でこの映画の製作に携わったということだ。
いやいや・・・。
それも、凍てつくような極寒の中、泥まみれになるシーンも交えて、たった25日間で撮り上げたのだ。

タイトルの豊山犬=プンサンケは、希少保護動物に指定されている、北朝鮮原産の狩猟用犬種だそうだ。
獰猛で力が強く、一度噛んだ獲物は放さない。
故・金正日総書記は、北朝鮮と韓国の友好の証として、つがいの豊山犬を交換し合った話は、一般にも伝えられている。
韓国映画チョン・ジェホン監督「プンサンケ」には、南北朝鮮の統一を願う強烈なメッセージがある。
あまりにも切な過ぎる衝撃のラストには、言葉もない。
これまでのイメージから踏み出すような、韓国映画の強みと凄さを感じさせる骨太の作品だ。
韓国ヌーベルバーグの新鋭監督に、これからも大いに期待したい。
     [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点